第18話 ジャイアント VS タイガー

「ラメントーソ」

イヴが呟く。

「どうして?どうして争うの?悲しみしか残さないのに……」

ラメントーソと呼ばれた女性が泣いている。

健康的な褐色の肌、ウェーブした髪は肩のあたりで綺麗に整えられている。

グリーンの瞳を潤ませて、涙を流してるのだ。


「よく泣くのよ~毎日、毎日」

モレンドが呆れたように口を開く。

「相変わらずねぇ、嘆いた結論が……」

「そうなのよ~、いつものアレなのよ~」


ラメントーソは、フラリとイヴに背を向けた

「あぁ~、みんな死ねばいいのよ……そしたら悲しまなくていい」

舞台女優のような振る舞いでフロアで崩れ落ちる。


「ハル!」

イヴが声を掛けると

ハルがラメントーソにヒュッと近づく、すばやく何かを注射した。

「あぁ~」

崩れ落ちたラメントーソは、切なげな声を上げて床に倒れた。

「エディ、とりあえず担いで!行くわよ!」

「どこへ?」

「リリスんとこよ!」


「その必要はない」

だだっ広いホールの中央階段からリリスがフワリと降りてくる。

「リリス!」

(あれがリリスか……飛べるんなら階段いらないんじゃ……)

エディは思った。

それくらいホールは広く、天井は高く、階段は長かった。

「イヴ3体揃うとはね」

薄い紫のロングドレス、黒く長い髪、青白い顔、赤い目。

細く、背の高い女性ではあるが、言葉使いは男のようだ。

人間味の無い美しさ。


リリスは無感情に、一言

「欠片よ、身体は用意してある、一つに戻りたまえ」

「あぁ~!?」

イヴがリリスに疑念と怒りを向けたとき、床が抜けた。

「あぁ~」

(落とし穴か……古典的な……)

気を失う前に最後にエディが思ったことである。


――「うん?」

エディが目を覚ますと、冷たい手が額に乗せられている。

「イヴ?」

(違う!)

即座に飛び起き、後方に飛びのいたエディ。

「誰だ?」

目の前の小柄な女性に問いかける。

八百比丘尼やおびくにですよ」

壁の隅からハルの声。

「やおびくに?」

「そうです。不死の人間」

「そうか」

もはや不死が珍しくないエディである。

「で、誰だ?」

「3人のイヴを取り込むだけのうつわです」

比丘尼は優しげな声で答えた。

「器?ハル?」

「えぇ、私も知りませんでしたよ、先ほど本人から聞いたのです」

「リリスは、私の身体に統合されたイヴを住まわせるつもりのようですね」

(イヴの統合?)

なんか以前、ライブラリで観た金色の三つ首竜を想像するエディ。

恐ろしい、想像しただけで恐ろしい。

凶暴なスピリトーゾ 人体改造マニア モレンド 悲観の死神ラメントーソの統合、自分にとって避けなければならない事態である。

エディだけではない、人類にとっても避けたい事態である。


「ミックスジュースを飲むのが比丘尼ということか」

エディが色々想像した結果がコレであった。

「何の話ですかエディ?」

「いや……いいんだ」

例えが悪かったらしい。

「イヴの統合ってなんだ?」

「統合というのは、疑似人格に組み込まれた断片的なオリジナルの記憶や知識、意識と深層心理などだけを抽出して、ひとつにまとめオリジナルに限りなく近いコピーを作り出します、それが統合です。」

「そうすると、どうなるんだ?」

「アダムが反応するかもしれません」

「アダム、あの卵が!」

「そうですね、他にも色々あるかもしれませんよ」

それまで黙って座っていた比丘尼が口を開いた。

「私の身体はアダムの細胞が定着してますから、イヴの桁違いの情報量に対しても適応できるのではないでしょうか?」

「可能性は高いですね、元々、イヴを3分割したのはイヴの欠片や人造の身体ではキャパ不足だったからですし、アダムは本能・イヴは知性を持っている、お互いが欠けている部分を取り込もうとしたというのが人間の見解ですから」

「そうなのか?」

「比丘尼さん、どうですか?」

「さぁ、私はリリスに軟禁されているだけですからね」

「イヴは?どこだ?」

「さぁ、それも解りません」

「ハル、解るか?」

「それがセンサーに反応が無いのです」


そのころイヴ×3はカプセルに個別に閉じ込められたいた。

「うかつだったわ」

「ほんとよ~バカね~」

「ラメントーソ!起きなさいよ!」

「はいっ?核を発射します!」

「……もういいわよ、寝てて」

「眠ります、永遠にすべての罪深きニンゲンと共に……」

正三角形に配置されたカプセルの真ん中でコンが首飾りを盗られて不機嫌そうである。

ときおり、モレンドのカプセルをガリガリ引っ掻いてみるがキズひとつ付かない。


「困ったわ」

「困ったわね~」

「ぐーぐー」


イヴ×3無力であった。


エディ達は壁を破壊しようと頑張っていた。

正確にはエディが頑張っていた。

6m×6m×6mの完全立方体の部屋らしい、ハルによると。

内側からは破壊以外の方法で移動は不可能らしい。比丘尼によると。

「かぁぁぁぁぁぁぁぁー!」

なんか気を高めてる感じのエディ。

「エディ無駄です。どこぞの戦闘民族ではないのです」

「うるさい!ここを出るんだ、イヴを助けるぞ必ず」

(いまだ!)

キンッ!

電光一閃、壁には細いキズがスーッ入っただけである。

「ちくしょう!」

壁を殴った、そのとき、ドゴーン!

壁に大穴が開いたのである。

「えっ?」

一番驚いたのはエディである。

(俺にまさかこんな力が)

耳がピクピク動く、尻尾が自然と上を向く。

「覚醒したのか?」

「いや~遅くなってすまないね」

壁の向こうから姿を現したのは、ユダであった。

「待ちましたよユダ」

ハルがユダに話しかける。

「不用心に突っ込んだってね、そりゃ捕まるよね」

「エディ行きましょう」

「あぁ」

恥ずかしかった、ひとりで盛り上がってしまった。

(いい歳して覚醒って……)

「エディ久しぶりだね、なんか愛らしくなってしまって」

「いやいいんだ、触れないでくれ」

「比丘尼さんも久しぶり」

「はい」

ニコリと笑顔で返す、比丘尼。

「しかし、ずいぶん都合よく登場したな、ユダ」

エディは腑に落ちなかったのだ、絶妙のタイミングでリリスの手先みたいなのがポッと表れたのだ、疑うのも無理もない。

それも、覚醒しちゃったかも?などというタイミングでだ。

「あっ、メールが来たもので」

「私が送りました」

ハルが応える。

「メール?手紙か?」

「知らないよね~、超早い手紙だよ」

「そうか……速達か」

頷くエディ。

「さて、イヴと合流しますか」

ユダが先頭に立って歩き始めた。

「くわしいようだな?色々と」

エディは最後尾に付きながらユダに話しかけた。

「勝手知ってる、かつての我が家だからね」

それ以上は聞かなかった。

ユダ・リリス・そして比丘尼。

関係がさっぱりわからないエディである。

比丘尼はイヴ×3の器。

リリスはアダムとイヴを接触させてどうするつもりなのだろう?

ユダに至っては何を考えているのやら。

「知りたいのですか?」

ユダが立ち止まってエディを見る。

どうやら思考も読めるらしい。

「あぁ」

そっけない返事をするエディ。

今さら、驚くことはない、自分の常識など遥かに超えた連中なのだ。

ユダはリリスの目的を話し出した。



とりあえずメンバーが揃った。

次回 『不死ふしふし

風呂敷を畳む時間だ。

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