第17話 三回 散開

個々に標的は決まっていたように、綺麗にバラけた。

エディ VS バイアラン

スピリトーゾ(イヴS) VS アープ

コン ハル VS モレンド(イヴM)


「ハル~、無駄なことやめない?」

「無駄なこと?この戦闘のことですか?」

「そうよ~、アナタもアタシも死なないし」

「少し違いますね、私も壊れます」

「じゃあ、なおさらやめれば」

「いいえ、アナタの脳みそさえ残ってればいいんです」

「グロイわね~」

「では、コン!思う存分食い散らかしてください!」

コンがモレンドに飛びかかる。

モレンドは腰からショートソードを引き抜いてコンの爪を弾いた。

間髪入れずにハルがモレンドの脇腹に突っ込んでくる。

「ガハッ」

モレンドの脇腹にハルのマニピュレータが突き刺さる。

ハルがそのまま壁にモレンドを押し付けると

コンが嬉しそうに口を開ける。

よだれが糸を引いて鋭い牙にヌラヌラとまとわりついている。

「いい気分ではないわ~、これはないわ~」

モレンドの脇腹にコンの牙が突き立てられた。

上半身と下半身がグロく分離したモレンド。

その顔は不服そのものの表情で、右手を頬に立て肘ついてコンに食われるままになっている。

「痛くないんですか?」

ハルがモレンドに尋ねた。

「痛くはないけどね~、気持ちのいいものでもないわ」

「そうなんですか、では」

「はっ?」

ハルはモレンドの頭部をキレイに切り離した。

モレンドの頭部は袋詰めされ、コンの首にくくりつけられたのである。

「ないわ~、しゃべる首輪じゃないっての!」


コンは思いのほか気に入ったようである。

「ないわ~」


イヴ(スピリトーゾ)はアープと銃撃戦の真っ最中である。

「どうした!どうした!嬢ちゃん、そんなに離れると可愛い顔が見えねえじゃねぇか」

「あぁ?その趣味の悪いメガネは伊達メガネか?似合わないわねぇ!」

「見てくれは悪いが、前よりよ~く見えるぜ!」

「見えてんじゃねぇか!」

「うるせぇ!」

アープの眼は機械化されてイヴの顔どころか、距離、体温まで表示されている。

資格情報を高速で処理させるため脳みその20%ほども機械化されている。

メカメカしいというか、お世辞にもかっこいいものではないが、性能は折り紙つきである。

イヴは、かなりの速度でアープの視界から外れようと3次元をフルに活かして動き回っているのだが、アープのロックから外れることが出来ずにいた。

(イライラするわね~)

「ハハハアハッー!止まって見えるぜ、嬢ちゃん!」

イヴは徐々に後方の屋敷へ追い込まれていた。

ドンッ!ついに壁に背中が着いた。

(えーい!)

壁を蹴破ろうと回し蹴りを放つが、壁にはヒビひとつ付けられない。

(やっぱりね)

「チェックメーイト!」

アープが嬉しそうに引き金を弾いた。

左肩に穴が開く、血が出ないのは光学兵器特有のキズだ。

「うまくかわしたね~、えらいねぇ~」

おどけながらも、銃口はイヴに向けられたまま。

「や~めた」

イヴが銃を捨てた。

「はぁ~、もう終わりか?諦めたのか?」

「そうね♪終わりね」

アープの腹にコンが喰いついた。

「そ……ん……な」

「大丈夫ですか?イヴ」

ハルがイヴのところへ転がる。

「大丈夫よ、そっちも大丈夫みたいね」

「大丈夫じゃないわよ~」

コンの首元から声がする。

「あらっ?モレンド?あらあらあら、首輪にジョブチェンジって、聞いたことないわよ」

「大きなお世話よ~」

「あんたの悪趣味なボーイフレンドとお似合いよ」

イヴは食事を終えたコンを撫でながらモレンドと話してる。

「ボーイフレンドじゃないわよ、ヘッドハンティングってヤツよ」

「なるほど」

コンが食い残した、アープの頭を足で転がしながら納得した。


「ハル!エディは何処なの?」

「裏庭です」

「どんな様子?」

「大きな動きはありません」

「無事なのね」

「はい」

「じゃあ行きましょうか」

「はい」


裏庭ではエディとバイアランが小競り合いを続けていた。

戦闘経験の差がエディをジリジリと追いつめていた。

小技の技量でバイアランが優勢である。

(くそっ!)

攻めきれない、1発当てると3発返される、そんなことの繰り返しが10分ほど続いている。

「不利ね~」

「装備が互角である以上、本体の差がモロに出てますね」

「負けるわね」

「負けますね」

「アタシにも見せてくれないかしら~」

「しょうがないわね」

イヴは袋からモレンドの髪をむんずと掴み、コンの首に長い黒髪を輪にしてぶら下げた。

コンが誇らしげに胸を張る。

「似合うわよコン」

コンがエディに見せようとエディを呼ぶ。

鳴きながら、エディに胸を張って見せるのだが、エディはそれどころではない。

コンから見ればエディとバイアランの小競り合いなど、じゃれ合いにも見えないのである。

腹も一杯だし。

「行け!」

「あ~」

「おしい!」

外野が盛り上がっていた。

「だぁーーーーーーっ」

エディが吠えた。

「こーーーーーーーん」

コンが応えた。

バシュッ!エディが装甲をパージした。

「おいおい、エドモンド少尉、ふざけてるのか?」

「ふざけてなんかいない!」

エディは刀を鞘に納め抜刀の構えをとる。

「ほぉ~」

バイアランが馬鹿にしたように肩をすくめる。

「今よ!エディぶった切れ!」

間髪入れずイヴが叫ぶ。

「アンタ相変わらずね~」

モレンドが呆れたように話だす。

こちらも肩をすくめたような顔をしているが、あいにく肩が無い。

「なによ」

「ロマンってもんがあるのよ~、武士道ってやつよ~」

「はぁ~」

イヴは肩があるので肩をすくめた。

「エディ!ロマンじゃ勝てないわよ!アンタは死ぬのよ」

「バカね~、死ぬからこそ勝ち方にこだわるのよ」

(死んだわねアノ馬鹿)


「行くぜ?エドモンド少尉!」

バイアランが刀を構える。

身を屈めて一気に突っ込んでくる気だ。

深く深呼吸をして

「来い!」


ドンッ!地面を蹴るバイアラン、一瞬で間合いが詰まる。

キンッ!

鋭い金属音、砂ぼこりの向こうに2つの影。

エディは刀を宙にかざしている。

バイアランはエディのやや後ろで刀を前方に突き出している。


「勝ちましたね」

ハルの声が固まった空気を動かした。

ガクッとバイアランが崩れ落ちた。

エディは振り向きざまに刀を一払い、キンと納刀した。

地に伏せたバイアラン、エディに一言

「お見事」

そのまま息絶えた。

エディはバイアランに一礼して、イヴの方へ歩き出す。

風に揺れるしっぽが可愛らしい。


コンがエディに飛び付いた。

普段なら吹っ飛ばされるエディだが、ガシッと受け止める。

「ギャー」

エディが悲鳴をあげる。

モレンドと目が合ったのだ。

「失礼ね~」

(心臓に悪い)


「無事みたいね」

イヴが話しかける。

「あぁ、斬鉄……初めて出来た」

「感謝なさいよ!」

「なんでだ?」

「筋力が上がってるのよ」

イヴがエディに悪戯っぽくウィンクする。

「そういうことか」

(そうだよな~急に強くなるわけないんだよな~)


「さて!屋敷に入るわよ」


ドアの前、

「さぁ開けなさいモレンド!」

「手が無いも~ん」

「番号言えって言ってんのよ!」

「教えな~い」

「ハル!」

「少し時間が掛かりますが?」

「エディ!」

「斬る自信がない」

「モレンド!」

「教えな~い」


ガチャリ、ドアは向こうから開いた。

「どうぞ」

淑女といった感じの薄いドレスを纏った女性が現れた。

「ラメントーソ」

イヴが呟いた。



3人目のイヴ・ラメントーソ、悲しみの名をもつ彼女はいったい

次回 『ジャイアント VS タイガー』

イヴ編決着!

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