第16話 復習 復讐

意外なほどに東京へは、すんなりと入れた。

フリーパスの状態だ。

「なんでこんなに、すんなり東京へ入れたんだ?」

「ん~、リリスの手引きでしょ」

「そうですね」

「なぜだ?この前は生け捕りにしようとしたくせにか?」

「はぁ~?本気だったら、あんな連中使わないわよ」

「本気じゃなかったってことか?」

「もちろん、遊びでしょ♪ それともアメリカ嫌いとか」

「そうか……」


なんなんだろう、この連中は?

挨拶だの、遊びだので人を殺しすぎる。

(俺だって危なかった……)

そうなのだ、たまたま生きてるだけだ。

こんな化け物と行動しているのだ、いつ死んでもおかしくない。


「エディ」

ハルが呼んでいる。

そんな気分でもないのだが、しっぽが反応してブルンと揺れる。

「なんだ、ハル」

「エディ、イヴが買い物に行きたいそうです」

「はぁ~」


東京観光、そんな楽しい気分じゃない、場合じゃない。

「ここまで来てコソコソしてもしょうがないじゃない」

イヴの言い分である、もっともだ、その通りなのだが、緊張感というか、危機感というか、色々違う気がするエディなのだ。

しかし、それが上手く伝わらない面々であることが残念でならない。


「沢山買ったわね~」

大満足のイヴ。

「イヴ、聞きたいことがある」

「なに?」

「日本の金をどうやって手に入れた?」

「金?お金なんて持ってないわよ」

「じゃあコレをどうやって買ったんだ!」

と両手に余りある荷物を持ちながらエディは聞いていた。

「カードよ」

「カード?」

「そうよ、日本はね、旧世界の文化が残ってるのよ」

「そのカードというのは解らないが、なぜオマエが持ってるんだ?」

「偽造よ、もちろん」

それが何か?と言わんばかりの顔でエディを見るイヴ。

(偽造…つまり詐欺か?)

なぜか、グラスホッパーのオヤジが脳裏に過るエディであった。


指揮車両に戻ると

「使えましたか?」

ハルがイヴに話しかける

「全然問題なかったわ」

「それは良かった」

(良くねぇ)

どうやら、偽造の出元はハルであるようだ。

「インスタント食品も買い込んだわよ~」

(あぁ~もはや泥棒だ…)

「なに、考えてんのよ!いいじゃない!アンタ、軍でも食糧調達任務だったんでしょ」

こんなかたちで、食糧調達するとは夢にも思わなかった。

「さ~て…乗り込むわよ!リリスのもとへ!」

独りで盛り上がるイヴであった。

(やる気満々だな…覚悟決めなきゃならないな)

拳を握るエディ、白い耳がピンと立っているのであった。


そんなわけで、リリスの屋敷へ向かう。

「アレよアレ!あの悪趣味な城みたいなの!」

「あそこに居るのか?リリスが」

「そうよ~ザ・自己顕示欲!って感じでしょ」

(うん、納得の威圧感たっぷりの城である)

「自信家なんだろうな~」

「そりゃあもうっ、チョモランマのてっぺんから見下すことヤマのごとしよ」

なんだか解らないが、リリスの性格だけは想像がついた。


「よーし、ここらからぶっ放しちゃってちょうだい!ハル!」

「了解です」

(あぁ、穏便な出会いにはならないんだな~、やっぱり」


ギャリッ!

指揮車両がガクンと揺れた。

「なに?」

「狙撃です、距離2Km」

「はっ?ナニで撃ってきてるの?」

ギャリッ!

「2発目HIT!完全に補足されてます」

「ムカツクわね」

「初弾命中箇所から誤差3cm」

「なんですって!ううう、いい腕ね」

「神業ですね」

「ううっ先手を打たれたってわけね」

「装甲の1部欠損、弾も特殊装甲弾のようです」

「俺が出る!」

「バカ!出た瞬間に脳天ぶち抜かれるわよ!」

「そのとおりですエディ」

「相手はね、脅してるつもりなのよ、おとなしく来いってことよ」

「さもなきゃぶち抜くってことか?」

「そう、いいじゃない。御飯くらいは出るかもね♪」

イヴは口調とは裏腹に、あきらかに不機嫌な顔をしている。


無意味に高い塀の前、無意味に重そうな扉は、音もせずにスッと開いた。

指揮車両ごと入れそうな広い門と扉、なんとなく車両進入厳禁な庭を覗き見るに

誰ともなく、車両を降りた。


装甲を纏ったエディの後ろからコンがついてくる。

エディのしっぽがお気に入りなのだ。

イヴは腰にククリナイフを2本、ハンドガンを何丁もぶら下げている。

ハルだけは通常……かと思いきや、迷彩塗装が施されていた。

おそらくイヴの仕業であろう。

しかし、迷彩塗装、残念ながら屋内戦なのだが……。

「べつにいいのよ!気合の問題よ!気合の!」

表情を読まれたのか?心を読めるのか?

イヴはエディの心に的確な返答を返してきた。


「さて、挨拶代わりに♪~噴水をドカーンと……」

などと鼻歌まじりにバズーカを担ぎ出したイヴ。


「やめてくんないかしら」

いきなり後ろからだるい女性の声がした。

エディが横に飛びのき、柄に手をかけ構えながら振り返る。

同時に、さっきまでしっぽにじゃれていたコンが唸りだす。


「光学迷彩、センサー感知できませんでした」

ハルの声。


「悪趣味ねぇ~」

振り返りもせずイヴが声の主に答える。

17・8の少女、背が高く、長い黒髪が肌の白さを際立たせる。

清楚系美少女といってた感じだろうか。

「はぁ~、他人家ひとんちの庭でバズーカ構えてるヤツに言われたくないわ」

ごもっともである。


「リリスか?」

エディが訪ねる。

同時にコンが少女に飛びかかった。

ゆるりとした動きで、コンの爪をかわす少女。

右手で顔にかかった髪を払いながら

「初めまして、軍人さん。イヴよ、M型の」

「M型……」

(金髪じゃないのか)

エディはイヴ(S)が成長した姿を想像していたが東洋系とは予想外である。

「で?スピリトーゾ、リリスを殺しに来たのかしら?」

(スピリトーゾ?)

「場合によってはね、そうなるかもね モレンド」

(モレンド?)


小声でエディはハルに尋ねた

「スピリ何とかって名前か?」

「はい、区別のため、便宜上の呼称です。基本は全部イヴですから」

「なるほど」

「参考までにL(エル)はラメントーソ」

「発音しにくいな」

「疑似人格を表しているのです、スピリトーゾは元気よく、モレンドはだんだん遅く消え入るように、ラメントーソは悲しく、という意味です」

「元気よく……凶暴って意味ではないのだな?」

「えぇ、元気よくです」

「そうか、寛容だな」


モレンドがスッと左手を挙げた。

ジキュン!

イヴの足元の小石が跳ねた。

「よう~この間はどうも」

数メートル先から突然姿を現したのは、顔の上半分が機械化された男。

手には見たことがない銃を構えている。

その隣に、エディと色違いの装甲を纏った男。

「バイアラン!隣はアープ……か?」

「こんな顔にしてくれてよぉ、嬢ちゃん!風穴開けてやるよ!」

アープがイヴに発砲した光学銃のチュン!という音が合図かのように

乱戦が開始された。



三度交わる刃、決着なるか!

次回 『三階 散開』

各々の思惑、三人のイヴ。

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