第15話 イグアナ VS カメ

テンション複雑なエディが指揮車両に向かう。

(間に合え!)

バイクのアクセル噴かす、顔は真剣そのものだ。

アーマーで見えないが、尾骨からは白いフサフサのしっぽが生えたまま。

あまつさえ、頭には三角形の白い耳がピョコッと生えている。

愛らしい姿に、洗練された装甲を纏い、急げエディ。


その頃、アープ率いる1個師団は、完全に押されたいた。

自分から仕掛けておいて、この劣勢、信じたくない悪夢である。


装備は互角、数は圧倒的に上であったはず……。

なぜ?

簡単である。

ハルによるAIコントロールによる正確な射撃、位置予測、戦術予測。

イヴの命を気にしない突貫力、戦闘力、威圧感。

コンの暴走気味な踊り食い。


一騎当千、戦神いくさがみ降臨。

なんせ、銃弾がHITしても、たちまち塞がる1人と1匹である。

相手にしたほうは、絶望感半端ない。

それが、巨大な白いキツネと少女である。

夜の公園に子供が1人いたら、ギャップの怖さで満載になるのと同じだ。

暴れ狂うキツネ、高笑いしながら自動小銃ぶっ放す少女、未来予測のように避難先に間髪いれず飛んでくる銃弾。

チュィーン、イヴの脇を銃弾がかすめた。

反射的に、イヴがソコをめがけて走り出す。

「外したか!」

アープがスコープを覗き込みながら舌打ちした。

やたらと銃身が長いライフルは、オートでイヴに標準を合わせている。

「突っ込んでくるのか?」

何発かHITさせた、一瞬止まるもののイヴは、まっすぐ突っ込んでくる。

スコープに警告表示が出る。


「見~つけた」

ニタリと笑うイヴ。

「会いたかったぜガキ!ぐっ!」

地面に叩きつけられたアープ。

「あらっ、あのときのニンゲン?あらら?お久しぶりね」

「ガキが!目に焼き付いて離れねぇんだ!テメエの顔が!」

「あ~、そういうこと、ふ~ん、目にねぇ~」

と言いながら、アープの顔を両手で押さえる。

「焼きついてるなら、もう見なくても大丈夫?」

ニコリと笑うイヴ。

ぐちゃっ……ズルッ、ベチャ!。

「んっぐっ!あぁぁ…………あぁ」

イヴはアープの両目を親指で潰して、グリッと繰り抜き、目玉を地面に叩きつけた。


エディの心配なぞ、ご無用の戦局であった。


事実、エディが到着するころには、硝煙の香りと焦げた匂い、血煙が鼻を突く、さっきまで大変な戦闘があったことを伺わせる様相を醸し出していた。

それも、随分と一方的な戦闘であったと思う。


エディがバイクから降りると、血だらけのコンが嬉しそうに、これまた血だらけの口でベロベロしてくる。


「あら?どうしたの?装甲纏って?」

「…………いや、いいんだ……無事ならば……」


装甲を脱ぎつつ、バイクに取り付けなおすエディ。


「はい、コレ」

とクリームソーダを差し出すイヴ。

ひと暴れしたせいか、コンも、イヴも、いい運動したって顔である。

クリームソーダを受け取って

「なにか言うことはないのか?」

「ん?ナニ?」

「とぼけるなよ?」

「何がよ!」

「コレのことだ!」

自分のしっぽをひょいと動かして見せる。

フサフサとした、いい毛並のしっぽ。

現在気に入っているのはコンだけである。

親近感が一気に増してきたのであろう。


「なによ、そのうち戻るわよ、たぶん……」

「俺に何をしたんだ?いつ?どこで?何をしたんだ?」

「朝、クリームソーダに試作薬を入れたのよ、飲んだんでしょ」

「アレか……そういえば少し苦かったような……」

ソレである。

その苦味がコレなのである。


「おふざけが過ぎないか?」

「ふざけてないわ!あなたじゃアイツに勝てないと思ったのよ」

「なっ!……」

そんなことはない!と言いたかったエディであるが、事実である。

負けていた。

完全に力不足であった。

だから、苛立っているのである。

一番弱い自分が一人前に、この3名の心配なんぞしていたことが恥ずかしかったのである。

心配されてたのは自分だったのだから。


バイクを押して、格納庫に戻るエディ。

肩を落とす、その後ろ姿は小さく感じる。


「今日はバーベキューよ、エディ~」

手を挙げる代わりに、しっぽを振って返事するエディであった。


格納庫に戻るとハルが待っていた。

「エディ、あなたの身体に起きていることを説明します」

「あぁ頼む……」

もうどうでもよかった。


これは、自身の身体に深刻なダメージを受けると発現する能力であるらしい。

ベースはコンの細胞を組み替えたもので、発現時に一定時間の間、獣化するのは、コンのDNAが前面に出ているからだろうとのことであった。

本能的なレベルで警戒が解けると、獣化も解除されるわけだが、コントロールして発現または解除させることは難しいであろうとのことである。


「まったく、装甲といい、獣化といい、不自由なものだな」

「仮面ナントカじゃないので、変身!というわけにはいきません」

「手動の装甲、自動の変身、せめて逆にはならないものか?」

「無理です。そんな都合のいい話はありません」

「惜しいとこで、意図的に止められている気がしてならないのだが……」

「被害妄想です、エディ」


「試験薬だったので、しっぽと耳が元に戻るかは解りませんが、おおむね成功です」

「そうか……しっぽと耳は戻らないかもしれないのか……」

「んっ?耳?耳ってなんだ?」

「その耳ですが?エディ」

エディは頭に手を当てる。

アァ~なんということでしょう、たくみの遊び心でしょうか?

悪ふざけでしょうか?

なんてことをしてくれたのでしょう?

「あの野郎!」

ハルが気を使って差し出した手鏡を割りそうになった。


「よく聴こえたりしますか?エディ」

「知るか!」

とは言ったものの、確かに聴こえるのだ、集中すると本来の耳から聞こえる声とは別に、遠くの声(イヴとコンの声)が聴こえる。

「索敵能力がコン並になったと思えば、どうでしょう?」

言葉がでないエディであった。


夜になっても、しっぽも耳も引っ込まなかった。

少し慣れてきた自分が嫌だ。

耳はバンダナで隠すとして、しっぽはどうしようか、それだけを考えていた。

とりあえず穴から外へ出さないと邪魔でしょうがない。

困るのは自分の感情と連動することだ。

肉を喰えば、フルフル動く。

う~ん、困った。


夕食後、イヴがエディに聞いてきた。

「エディは、日本初めてよね、どう故郷は?」

「別に、思うところはない。俺は日本の事は、ほとんど知らないしな」

「そう?ハル!なんか日本らしい映像ないの?」

「そうですね、ジャパンカルチャーのライブラリから適当に編集しましょうか?」

「あぁ面白そうね、映画みたいにお願い♪」

「解りました、5分ほどお待ちください」

「うんうん♪映画にはポップコーンとコーラよね♪」


ほどなくして上映が始まる。

ポップコーンを頬張り、コーラを飲む2人。

桜の映像や、舞子・芸者・すきやき・寿司など多彩なカテゴリーから日本の文化を知るドキュメンタリー映像、ナレーションは、もちろんハルである。


(おい!これはなんだ?)

エディが興味を持ったもの、それは……。

巨大なトカゲが巨大なカメと都市を破壊する映像であった。

(これが旧世界の崩壊なのか?地獄絵図だ……)

空飛ぶ兵器なぞものともせず、口からは光学兵器さながらの何かを吐き出すトカゲ。

光学兵器は、この指揮車両にも装備されているが、桁違いの威力である。

(あの質量で宙を舞うのか、あのカメは……)


全てを見終わった後、エディはフラフラとテントへ戻った。

(アレをいつか相手にするのであろうか?)

自分の両手を見つめるエディ。

(だからか!俺を狼男にしたのは……)


テントの外から

「エディ、先ほどの映像は……」

ハルが言いかけた時、イヴが首を横に振った。

「イヴ、俺は強くならなければならないんだ、もっと……」

「そうね、エディ」

「たとえ狼男になってでもな……」

「エディ……あなたは狼男じゃないわ……キツネ男よ」


夜も更けたころ

「いいんですか?イヴ、特撮映画のことは話さなくても?」

「いいのよ」

「なぜです?エディは大きな勘違いをしていますが」

「いいの!だって……面白いじゃない♪」



キツネ男となったエディ、戦闘能力は飛躍的に高くなったが、

どうにも見た目が痛々しい。

次回 『復習 復讐』

イヴM型 ついに登場。

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