第14話 聖人 星人

まだ、序章である。

エディは、受け止められずにいた。

増えたから減らす?

人間同士が、そんなことをしていたとは。

イヴが、ニンゲンを見下すのも解らないことではない。

いや、イヴだけではない、ユダが人を襲うのも、すでに種として、存続の価値を見出していないからだろう。

オリジナル・イヴも、おそらくは・・・・・・。

アダムから守ろうとした人間は、アダムなどいなくても、

増えれば自らの手で間引きを行うほどに、利己的に、賢く成長していたのだ。

自分の子供たちが、殺しあう姿は、どう映ったのだろうか。


「エディ、あなたに通信です」

ハルの声で自問から現実に戻るエディ。

「誰からだ?」

「米軍!」

「いよ~、エドモンド少尉、お久しぶり」

「誰だ!」

「そういえば、自己紹介もしてなかったな、俺は バイアラン・フジエダ 階級は大尉。お前と同じ日本人の血筋をひく軍人だ」

(あのときの……男か?)

「俺も、今この日本にいる。どうだ、一戦交える前に、一度交渉ってことで会ってみないか?」

「なに?」

「その気があれば、お前一人で、明朝このポイントへ来い、来なければ交渉決裂として攻撃を開始する」

「やれるもんならやってごらんなさい、返り討ちよ」

イヴが口を挟む。

「その声は、あのときの嬢ちゃんかい?」

「嬢ちゃんだぁ~あ」

「ハハハハ、そうだったな、そんな歳じゃねぇんだってな、あんまり、甘く見るなよ、こちらの装備は、日本から提供されているんだぜ、今までの、おもちゃみてぇな兵器とは違うぞ」

「ハル!索敵」

「はい、イヴ……この指揮車両を包囲している兵器は、確かに旧世界レベルのようです。正確に分析ができないようプロテクトも施してあります」

「そういうことだ、同じレベルなら、数でコチラが圧倒的に有利だ」

「ぐっ……」

イヴが唇を噛む。

「エドモンド少尉、一晩ゆっくり考えるんだな」


通信は切れた。


「エディ……罠よ」

「そうだろうか?」

「決まってるじゃない」

「いや、そんなことしなくても、すでに包囲されてるんだ、今更、罠とも思えない」

「そうですね」

ハルがエディとイヴの会話に割って入る。

しばらく考えて

「俺は行ってみる」

「なっ!……そう、勝手にすれば」

イヴは自室へ戻った。


翌朝、テントの入口に、クリームソーダが置いてあった。

(ふん、イヴのヤツ)

少し、ぬるくなったクリームソーダを飲んで、装甲バイクにまたがる。

クリームソーダは少し、苦いように感じた。

ぐいっと手の甲で、口を拭うと、

(必ず、戻る……エドモンド少尉、行きま~す!)

勢いよく、バイクで飛び出したエディであった。


窓から、エディを見送るイヴとハル。

「さて、どうしましょうか?」

「どうしようかしら」

「まともに戦ったら勝てませんよ」

「そうよね~、でもリリスが噛んでるんだったら、殺されもしないわよね」

「そうですね、死ぬ可能性があるのは、エディとコンですからね」

「そうなのよね、私は死なないし、ハルは破壊不可よね」

「はい」

「はぁ~、一番死んじゃいそうなヤツが飛び出して行ったわね」

「はい」

「あの、クスリ効くといいけどね」

「試作品ですから、どうでしょうかね」


バイクでポイントに着くと、すでにバイアラン大尉が待っていた。

あの時の男だ、間違いない。

あの日本刀を携えた男だ。

「よぉ、エドモンド少尉……思ったとおり来たね」

「やはりお前か、何の用だ」

「用ってほどのこともないんだが、まぁなんだ、任務とは関係ないんだがね」

「何が言いたい!」

「まぁ、こういうことだ」

バイアランは、腰の日本刀を抜いた。


「こういうことさ、解るだろ?」

「ふん、何が交渉だ」

といいつつ、バイクから降りて日本刀を腰に差すエディ。

「俺の交渉相手はお前じゃない」

「理解した」

エディも腰の日本刀に右手を掛ける、半身に構え、右肩が少し下がる。

前のめりの構え。


「装甲は付けないのか?」

「必要ない!」

「そうかい!」


2人の距離が一気に縮まり、カィーンと空気を響かせる。

バイアランの振り下ろした刃とエディの左切り上げの抜刀が交差する。


刃に体重を乗せてくるバイアラン、片手で支えられず、刃を滑らせ受け流すエディ。

エディの脇をかすめたバイアランの刃は、くるりと体を回して再びエディに襲いかかる。

後ろに飛びのいたエディ、間一髪で致命傷は避けたものの、エディの首元からは、一筋の血が流れていた。

(やはり、強い)


バイアランは、切っ先をエディに向けたまま、身を小さく丸めながら、体重を前に掛けている。

エディは、再び納刀し、居合の構え、右手が少し下がり気味なのは、エディのクセだ。

「どうした少尉?わざわざ、日本まで追いかけてきたんだ、もっと楽しませろよ」

「なに!」

というものの、力の差は歴然であった。

バイアランの太刀筋が読めない、その刀は早く、重い、さばくのがやっとなのだ。


ズズーン、地面が揺れた。

「おや、向こうも始まったかな?」

「なに?」

「いや、向こうは、アープに任せてあるんだが」

(あの、拳銃使いか)

「アイツ短気だからな、まぁ早いか、遅いかの差だ、どうせ投降なんてしねぇだろ」

「キサマ!」

「どうした?急がないと間に合わないぜ、帰る家無くなるぞ!」

バイアランが、突進してくる。

(早い!)


エディの居合よりバイアランの突進は早かった……。

エディの左肩にバイアランの刀が突き刺さる。

少し遅れて、痛みが走る。

バイアランは刀を振り払うように抜いて、構えなおす。

右手で刀を握るエディ。

(もうダメか)

「終わりだ、エドモンド少尉」

エディは諦めていた、刀は地面に刺したまま、目を閉じた。


ドクン!

エディの心臓が脈打った。

「あ……がっ……ガァァアアア!」

エディが吠える。


「な……なんだ……化け物が……」

バイアランは、躊躇なく、日本刀を化け物に突き刺した。

元エディというか、毛むくじゃらの化け物は、身体に刺さった日本刀を引き抜いて、バイアランごと放り投げた。

地面に叩きつけられたバイアラン。

(反則だろ……変身って……)

バイアランは意識を失った。


バイアランが最後に見たもの、それは『白い狼男』であった。

「グアァァァァァ……」

勝利の雄叫びであろうか、天に向かって吠えるエディ。


バイアランが動かなくなると、徐々に身体がもとに戻る。


完全に戻ると、身体中に激痛が走った。

肩の傷は塞がり、外傷は一切ない。

しかし、急激な変身の後遺症か、骨が軋むような痛みが襲う。

それでも、バイクからアーマーを外し身体に纏う。

「間に合え」

エディはバイクを走らせた。



次回 『イグアナ VS カメ』

ついに、人間が一人もいなくなった御一行。

どこに向かうのか?

とりあえずは東京だ。


















































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