第13話 再会 再開

砂漠の変わらない景色、イヴはオセロに飽き、エディと様々なゲームに興じていた。

海で、人魚に追いかけ回されながら、釣りに興じ、海鮮バーベキューも楽しんだ。

軍に追われてることなど、すっかり忘れているエディ。

そもそも、軍を脅威と思っているのは、エディだけで、他3名は、まったく意に介してないのである。

それでも、以外だったのは、堂々と海岸から、クルージングを楽しんできましたよ♪とばかりに、日本へ上陸したことである。


ここは、海沿いの田舎町、真昼間から違法入国してきた巨大な指揮車で、でこぼこした道を進む。

警戒態勢を取っているエディ、アーマーを着こんで迎え撃つ準備は万全である。

対して、パジャマのまま、クリームソーダを飲んでいるイヴ。

対照的である。


「ハル、ここは安全なのか?」

なにか、空気感の違いを肌で感じ取ったエディが訪ねた。

「はい、ここで襲われることはありません」


ハルによると・・・・・・。

日本は、旧東京 人口20万ほどのA級国民と、その周辺の地区に住むB級国民、

約1000万、海岸沿いに暮らすC級国民、人口不明、に階層分けされており、

離島には、犯罪者が隔離されている。


A級国民は、リリスの統制下にある東京で要職に就くものが多い。

B級国民は、東京もしくは、その近郊で商いの権利を得て商売を営む者が多い。

C級国民は、東京を囲む外壁の警備、農業、漁業、などいわゆる生産業、もしくは運搬業に従事する者が多い。


国民の振り分けは、20才時点での、能力評価で決められる。

教育は、10年間の基礎教育を経て、試験に合格した者のみ、高等教育を10年間受けることが出来る。

20才での選別は、その先の職種を決定するものであり、ここで決められた職業は生涯変更することは出来ない。

選別は、リリス直下の機関に委ねられており、本人に選択の権利はない。


犯罪者は、その身柄を拘束された際、生殖機能を奪われ、離島へ送られる。

犯罪の内容に関係なく、汚染区域での作業、人体実験などの非人道的な扱いを受ける。

万引きから殺人まで罪の大小は関係ない。

離島では基本的に自給自足であり、食糧などの物資の支給はない。


概ね、このような社会を形成しているのが日本であるらしい。

「で、安全に東京へ行ける根拠は?」

「はい、つまり、関係ないことは基本無視されます」

エディが首を傾げていると、イヴが話に割って入った。

「バカね、つまり、私たちを捕まえるなら、その職業のニンゲンが送られるから、それ以外のニンゲンは、余計なことをしないのよ」

「なるほど、つまり警察なり、軍隊なりが動かないかぎりは、安全ということか」


エディが窓の外を眺めながら頷いた。

「つまり、安全で無くなったわけだな」

「そうなるわね」


指揮車は、今まさに包囲されつつあった。


「迎撃しますか?」

ハルがイヴに指示を仰ぐ、

(俺っていったい・・・・・・)

「リリスが、その気なら受けて立つわよ!やっちゃって頂戴!」

「待ってくれ!」

エディが話に割って入った。

「俺が行く・・・・・・」

「はぁ~?なんでアンタが行くの?別に格闘戦の必要ないでしょ」

「そのとおりです、エディ、無駄な、格闘戦で負傷する必要はありません」

「そうよ、格闘戦は室内に入ってからが定番でしょ、この状況では、コンとアンタの出番じゃないわ、ハル!」

「了解しました」

言い返すことができずに、唇を噛むエディであった。


――数分後。

むせ返るような硝煙の香り、まだアチラコチラで、小さな破裂音がする。

黒煙を払いながら、指揮車を降りるエディ。

足元に散らばる残骸には、血や肉がこびり付いているものもある。

(何人いたんだ・・・・・・)

全滅だ。

ハルが確認していた。

生命反応は無くなったと・・・・・・何人いたかは知らない。

自分が出たからといって何も出来なかったはずである。

ものの数分で、街の半分を焦土化させたのだ。

兵隊はいい、しかし、街で暮らしていた人はどうなんだ?

自分たちが来たことで、あっという間に、この有様だ。

この先も、リリスに会うまで、いや会えば、もっと・・・・・・。


「エディ!戻って!」

指揮車からイヴが叫んだ。

振り返ったエディの頬を銃弾がかすめた。

狙撃!

エディは指揮車に転がり込む。

「どこからだ、ハル」

「距離600mです」

「600m・・・・・・いい腕だ」

エディの頬には、うっすらと血が滲む。

「別の部隊ですね」

「そうね、さっきのはリリスの挨拶でしょ」

(挨拶?遊びってことか?)

「ふざけるな!」

「なっ、なによ」

「お前も、リリスも、人をなんだと思ってるんだ!」

「ヒトはヒトよ、バカ!」

「遊びでやってるんじゃないんだよ!」

エディはイヴに詰め寄った。

「死なない、お前には・・・・・・お前らには解らないだろうが、人は100年生きれないんだ、だから必死で生きるんじゃないか・・・・・・」

イヴは黙って聞いていた。

「なんで、お前らに命の結末を決められなけりゃならないんだ!」

「お前が、俺の親であれ、何であれ、死ねと命令できるわけじゃない!」

「お前が俺の、人類の親を名乗るなら、出来の悪い俺たちを愛してみせろ!」

イヴはエディから目を背けていた。

エディはイヴに背を向けると、格納庫へ戻って行った。


指揮車は進む、東京へ・・・・・・。

その夜、エディは食堂に姿を見せなかった。

イヴは、コンにエサを与え、自分はカップラーメンを食べていた。

エディは、自室の代わりに、格納庫にテントを張っている。

テントで横になるエディは寝付けずにいた。

(俺は、人を殺すことができないのに、なぜ軍隊に入っていたんだろう)

そんなことを考えていた。

(イヴに偉そうなことを言ってしまったが、自分だって人を殺すことを職業にしていたのだ、たまたま、その機会がなかっただけだ)


――翌朝

いつ寝たのかも解らない、目覚めの悪い朝だった。

なんとなく、イヴと顔を合わせたくないエディはテントの中で、ゴロゴロしていた。


「エディ・・・・・・、見せたいものがあるの」

イヴがテントの外で話しかけてきた。

「・・・・・・あぁ、すぐ行くよ」

エディは、テントを開けずに答えた。

「デッキにあがって、待ってるわ」

「あぁ」


エディがデッキに上がると、ハルが

「エディ、これから見せるのは、旧世界の崩壊の記録です。映像で残っている記録は、ごくわずかです。私が補足説明しますので、しっかりと事実を見極めてください」

「見極める?何を見せるつもりなんだ、ハル」

「エディ、なぜオリジナル・イヴがニンゲンを失敗作と見限ったか、なぜアダムが目覚めたのか、ちゃんと知ってほしいのよ」

イヴが話に割って入った。

「解った・・・・・・それを見れば、少しはお前のことも解るんだな、リリスのことも」

イヴは何も答えなかった。

「映像再生します」

ハルがモニターに映像を映した。


「これは?」

「ガイドストーンと呼ばれた、ニンゲンの狂気の誓いです」


全てはこのガイドストーンから始まった。

当時の世界人口は100億に達する勢いで人口は増え続けていた。

食糧問題、資源問題、貧富、世界的な問題は、この人口増加によって様々な問題に直面していた。

ガイドストーンとは、世界の8か国が来るべき問題に先駆けて国家間で密約を結んだ石碑だ。

その日、アメリカは『ジェイド・ヘルム』を実行に移した。

『ジェイド・ヘルム』とは、軍隊による強制収監である。

8か国が誓った、ガイドストーンには、こう刻まれていた。

「世界人口は5億人を超えないように管理する」

すでに、100億に近づいていた人類は、自ら地球を滅ぼしかねない、無限増殖するガン細胞のような生物に進化してしまった。

すでに、アダム、イヴ、リリスの存在に気づいていたアメリカは、自国民すら選別の対象して、対象外の一般市民を無作為に間引き始めたのだ。

8か国の中には、日本は含まれておらず、アメリカは日本への核攻撃を実行させた。

東方の小さな島国など、土地ごといらないという、大胆な消去作戦である。

この計画の実行を察知していたリリスは、日本を要塞化していた。

戦争で大陸に勝てるべくもない、リリスはアダムを強制的に開放させた。

目覚めたアダムは、大陸で無作為に人間を捕食し始める。

アダムの解放から7日、イヴがアダムに呼応するように目覚める。

ユーラシア大陸の殆どを焦土化させるほどの戦いと、並行して行われる世界戦争。

犠牲は、アメリカの思惑より大きかったが、結果だけ見れば、人口は4億を下回った。

中途半端な覚醒状態のアダムは、イヴにとどめを刺し切れず、自己修復のため卵まで退化し眠りについた。

すでに、肉体が消滅寸前であったイヴは、自ら産み出した生命体が共食いを始めた事実を知り、ニンゲンを見限った。

アダムから守ろうとした自らの現身うつしみはあまりに利己的で博愛に欠けたいびつな生命体であった。

こうして、2つの争いが同時に勃発してことで、短期間のうちに人類の95%は駆逐されたのだ。


次回 『聖人 星人』

旧世界崩壊の真実は、共食いによる間引きであった。

受け止められるかエディ。

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