第12話 たまご と にわとり
大袈裟に会釈するユダ。
エディは、ユダの所作、ひとつひとつが癇に障る。
イヴとは違う感じで、人間を下に見ている気がするのだ。
事実、吸血鬼などが本当にいるならば、ニンゲンなどエサだろう。
そのエサにいちいち経緯など払うだろうか?
自分だって、牛や豚に敬意は払わない。
イヴはユダに単刀直入に聞いた
「アダムは?」
「眠ったままです」
「変化なし、ってことかしら」
「あなたが近づけば、あるいは、なにか起きるかもしれませんね」
ユダはイヴをバカにしたように言った。
「アタシが近づいても、なにも起こらないわよ、いまはね」
「フフフ、では、ご覧になりますか?」
「ええ、エディ一緒に来て。ハルは待機、いいわね」
「了解しました」
ハルが応える。
エディは無言で、刀を手に取り、腰を上げた。
エディはハルを後ろに乗せ、バイクでユダの後につく。
ユダは、宙を駆けるように走る。
(あの身体能力・・・・・・ヒトを下に見るのもわかる、もしかしたらイヴよりも・・・・・・)
オアシスから数十分移動すると、半分、砂漠に埋もれたような廃墟のような街に着いた。
ユダによると、500人ほどの人間が住んでいるという。
石造りの建物、奥手にそびえる寺院こそ、アダムの寝所だそうだ。
夜も更け、静かな街を抜け、寺院へ入る。
ユダはこの寺院に住んでいるそうだ。
「キリストに背いた、お前が寺院住まいとは、皮肉のつもりか?それとも、あてつけか?」
イヴが小馬鹿にしたようにユダに話しかける。
「私は、キリストに背いたつもりはありませんよ。彼が望むことを実行しただけです」
ユダは大袈裟に両手を振り、イヴの言葉を否定する。
「どうだか?お前はキリストのプロトタイプだ、リリスに掛けられた呪いは屈辱であろう?」
「呪い?あぁ、この身体ですか、まあ不便ではありますが、アダムの監視役としては適任でしょう。あなたの身体ほどではありませんが、限りなく不老不死に近いですから」
ユダはイヴのほうに視線をチラリと動かし
「イヴ、あなたこそ、嫉妬してるのではないですか?身体はキリストの模造品、心は、オリジナルの複製品、あなたの真実は、どこにあるんでしょうね」
イヴはユダを睨みつけ
「ひきちぎるぞ」
と凄んだ。
ユダは肩をすくめ、地下へと進む。
無言で階段を降りる。
沈黙も辛いが、とにかく長い階段である。
階段を降り切り、これまた長い通路を歩く、突き当りには、しゃべる柱があった。
扉が開くと、とても広い部屋だ。
その中央に、巨大な赤い卵。
「あれが、アダムか」
エディは卵を見上げながら呟いた。
卵は、赤く、うっすらと透けている、透けた向こうに黒い影が見える。
あれがアダム、形ははっきりしないが、目だけは解る。
目玉だけで、エディよりでかい。
大きすぎて、どこを見ているのか解らないが、時々ギョロっと動く巨大な目。
あるいは、イヴを見ているのだろうか。
「天敵に近しい、あなたを感じているのですよ、いつになく、落ち着きがない」
「フンッ、まだ卵のクセに威嚇しているようね」
「そうかも知れません、安心しましたか?まだまだ時間はかかりますよ」
「そうだな、やはりリリスに会いに行くよ」
「そうですか・・・・・・」
部屋を出て、聖杯堂で、ユダはイヴとエディにワインを差し出した。
ユダはイヴに言った
「リリスはアダムの不滅の身体とイヴの進化を手にしたがっている」
「そうだな、この星の頂点に立って、何をするつもりなんだろうな」
「考えてませんよ」
「はっ?」
「何も考えてません、おそらく・・・・・・」
「目的がない?」
「えぇ、私は長い時間、リリスの側にいましたが、何がしたいなどと話していたことはありませんでした。ただの意思の集合体であるリリスだからこそ、一番純粋で迷いなく行動しているように思います」
ワインを一息で飲み干したユダ。
イヴは飲まなかった。
ただ、赤いワインをグラスで回しているだけであった。
エディはワインを一口飲んだ、渋い・・・・・・。
(イヴはリリスに会って、何をするのか?)
聞いてみたいとは思ったが、今は、そのときではないのかもしれない。
別れ際、ユダがエディを呼び止めた。
「イヴが、あなたを側に置いておく理由は解りません。昔のイヴとは少し違う気もします。ですが、イヴの目的も、リリスと同じ、残りの2体を取り込むことです」
「残り2体・・・・・・、それを取り込んだ後、イヴは・・・・・・イヴは今のイヴなのか?」
「いえ、オリジナル・イヴの進化情報を持った別のイヴが誕生すると思ってます。
それは、アダムやリリスより、危険なモノかも知れません」
「・・・・・・良く解らないな、でも、イヴがイヴで無くなるのは、なんとなく嫌だ」
「私も、今の状態が一番いいと思いますが、それは叶わない願いでしょう、エドモンド、イヴを頼みましたよ」
「俺に何ができる?」
「何かをしようと思わなくていいのです。ヒトの在るがままをイヴに見せることが、あるいは・・・・・・いえ、ひとつの可能性ですが・・・・・・」
ユダと別れ、イヴと指揮車に戻っても、エディは考えていた。
(イヴの危険性・・・・・・このまま日本へ向かうことがいいのか、悪いのか)
エディには、話が遠すぎて想像すら適わないような現状、イヴが欠けた記憶を取り戻す程度に考えていたが、どうも、そんなレベルではないらしい。
(在るがままの自分で、イヴに付き合うこと)
それだけは、出来そうだ。
あのイヴに、俺が何か出来るわけがない。
そう結論付けて、眠ることにした。
翌朝、オアシスで、はしゃぐイヴに、在るがままの疑問をぶつけてみた。
「イヴ、アダムは卵から産まれたのか、それともアダムが新たな卵を産んだのか?」
「バカ」
エディは一言で、あしらわれた。
聞いていたハルが補足した。
「エディ、アダムは卵状の殻に閉じこもった状態なのです。アダムはドコカから飛来したナニカであり、それ以上でも以下でもありません。産まれた、産まれないではなく、すでに存在していたモノです。考えるだけ無駄です」
「じゃあ、イヴだって何も解らないってことじゃないか」
「だから、イヴは、オリジナルの記憶を欲しがるのです、おそらくオリジナルも
ドコカからきたナニカですから」
「同じモノなのか?」
「それは解りません。現段階の情報から推測するに、似て非なるモノでしょうか」
「似たもの同士はケンカするってヤツか?」
「表現としては解りやすいですね」
「おーい、イヴ、お前アダムとは兄弟か、なんかなの?」
イヴの回し蹴りがエディの脇腹を真横へ薙いだ。
とりあえず、目標を視認したエディ。
砂漠を抜けて、いざ日本へ
次回 『再会 再開』
日本編の始まり。
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