第10話 マーメイド
エディが腹を
前日の謎の火柱の調査に向かった調査班からの報告である。
調査班によると、エリア51 遺跡跡は、直径およそ10Kmのクレーターになっており、その深さは不明、かなり深いとのことであった。
現在は、3日間の期限付きで、周囲に飛散した遺物の収集にあたっているが、現在までに、原型を留めている遺物の報告はない。
遺跡調査斑との連絡は取れず、爆発に巻き込まれたものと推測される。
「解った、ご苦労だった。下がりたまえ」
コジマ大隊長は通信兵を追い払った。
「どう思うかね?」
コジマ大隊長は、ソファに腰かけて葉巻をふかす男に話しかけた。
「どうもこうも、あなたの命令で遺跡に向かった俺の部隊は全滅です」
「心が痛むかね?」
「べつに、ただ、遺跡から飛び出した、不審車両を追わせた中隊は、爆発とは無関係に全滅した、つまり、その不審車両1台に中隊1個が全滅させられたわけだ」
「そうなるな」
「遺跡調査班は俺が口封じする予定だったが、まあ手間が省けたってことにしておく、代償に部下を大勢巻き込んでしまったがね。だが不審車両のほうは、どうするんです?」
「うろうろ、させておくわけにはいかんな」
「だが、ほんの数分で1個中隊を全滅させたんだ、捕獲どころか接触そのものが危険だ」
「そうだな……しばらくは調査だ」
「俺の出番は、しばらく後になりそうだな」
「どうせ、補充にも時間はかかるだろ」
「英気を養うさ」
「飛び出した不審車両、アレは目立つらしい。どうも、こちらへ向かっているようだ」
「馬鹿な!わざわざ自分から来るなんて信じられねぇ」
「ああ、どういうつもりなのか?……よほど自信があるか、あるいはバカか」
「こっちにくるってことは……」
「そうだな、生き残っているかもしれないな、調査班の誰かが……」
「すんなり遺物を渡すつもりなら、発砲しなかったはずだ」
「そうだ、穏やかには済まないのかもしれん」
「アイツを連れて、街で張ってみるかい?ひょっとしたら……」
「……そうしてくれ、頼む、あと……殺すなよ」
何も答えず、男は、葉巻を潰して、部屋を後にした。
男の腰には日本刀が携えられていた。
ひとり部屋の窓から外を眺める大隊長
(うまく遺物を抑えられればいいが……戦えば、この基地も……、それにしても日本人とは、扱いにくい)
――その頃、エディ一行は寄宿舎のある街へ向かっていた。
自分たちが狙われているなど、露にも考えていない連中である。
というよりイヴには関係ないのだ。
撃ってきたら、撃ち返せばよいだけだ。
ハルに至っては、撃たれる前に撃ちそうである。
イヴにとって、ニンゲンなんか、コンのエサ程度の存在なのである。
エディだけが悩んでいた。
仮にも、味方1個中隊を全滅させたのである。
今さら軍には戻れない。
成るようにしか成らないのだが、その成るようにが大問題である。
また軍と接触したら、おそらく、と考えてしまう。
「ところで、なんで街に向かってるんだ?」
エディは、ハルに尋ねた。
「イヴの希望です」
「そおよ~、アタシはね、ず~~っと基地に居たのよ、外の世界を見たいのよ、悪い」
「観光か」
「違うわよ!バカ……はぁ~、視察ね言わば、日本に向かう前にアダムの様子も確認しなきゃならないし」
「アダム……まさか基地にあるのか?」
「無いわ」
「じゃあ、なぜ街に?」
真面目な顔をしてイヴは答えた
「ショッピングよ、白衣しか持ってないの、アタシ」
かくして、街の外れにきた一向。
指揮車は目立つので外れに停めて、ハルとコンは留守番である。
エディはイヴを連れて、街で服を物色中である。
「ふ~ん、なんかね~」
今一つ物足りなそうなイヴ。
「充分じゃないのか?」
「あんたはいいわよ、基地に腐るほどあったからね軍服が……ねぇ、骨董品って旧世界のモノがあるってこと?」
「えっ」
そう、気づけば、骨董品屋グラスホッパーの前であった。
イヴの荷物で、よく前が見えなかったエディ、よりによってココに来てしまうとは。
「らっしゃい」
あ~懐かしくも腹立たしい声である。
店主は、エディに気づくなり、嬉しそうに声を掛けてくる。
「だんな~、毎度ごひいきに、いいものを手に入れましてね、お連れのお嬢さんにぴったりのモノもありますよ」
相変わらず、何でもあるのだ、ココには。
イヴは、首を傾げながら、店内を見回している。
「おいっ、この花瓶はなんだ」
イヴが店主に尋ねる。
「そいつはね~、旧世界の偉大な芸術家が作った花瓶さ」
「コカコーラと書いてあるが」
「そう!コーラさんが作った花瓶!いや~良くご存じで」
「ほぉ~、で、いくらなんだ?」
「20万です。でも旦那のお連れ様なら、サービスしないわけにはいかない!
1瓶買ってくれれば、もう1本付けちゃいます」
「解った、いくぞエディ」
エディは、あやうく、伝説のソードマスター、ヨシツネが愛用した小手を購入するところであった。
その小手は、腕を3回回すと、空気を切り裂く音がした。
もちろん、いまなら、ベルト付きである。
なんでも、バッタのような脚力を得られるらしい。
エディを小手から引っぺがすのに、イヴは苦労した。
最終的には、
イヴの後ろを歩くこと数分、エディの左頬が少々腫れてきたころ、
前がロクに見えないエディと、男がすれ違う、
「エドモンド・ナカムラ少尉だな」
男は立ち止まり、エディに声を掛けてきた。
男の右手は日本刀の柄を握っていた。
エディは、大量の紙袋を男に投げつけて走り出した。
「イヴ!逃げるぞ」
イヴの手を取り走ろうとしたエディであったが、すぐに立ち止まった。
正面には、リボルバーを構えた、見覚えある男が立っていた。
「お前は、バイク泥棒!」
「なんだ、アープ知り合いか?」
日本刀の男がアープに話しかける。
「あ~、何日か前にちょっとね」
正面にリボルバー、後ろに日本刀、エディは身構えながら
ジリジリと日本刀の男から離れようとしていた。
(先にリボルバーだ)
エディが思うより早く、動いたのはイヴであった。
ダンッと地面を蹴って、一気にアープとの距離を詰めた。
アープがエディからイヴに銃口を向けなおすより早く、イヴの回し蹴りがアープの顔面を捉える。
エディは体制を入れ替え、日本刀の男へ走り出す。
キーンと交差する
エディが体を入れ替える、同時に男もエディと向き合う。
互いの間合い、2歩手前という距離を保ちつつ、眼で牽制しあう。
(できる……)
互いの心象である。
イヴは、遠回りに互いの脇を抜け、紙袋を回収していた。
紙袋を引きづりながら、イヴは路地を後にした。
(それでいい)
この男の目的は自分ではない。
エディは理解していた。
こいつらの目的は、遺物の回収である。
一瞬で、1個中隊を壊滅させた兵器の回収。
軍であれば当然だ。
キョキョキョキョッ!
路地の向こうからタイヤを鳴らしながら、ジープが走ってくる。
「乗りなさい!」
イヴである。
エディはジープにしがみついて、その場を離れた。
残された男は、日本刀を収め、気絶しているアープを蹴り起こす。
目を覚ましたアープは男に聞いた
「逃げられたのか?」
「ああ」
「あのガキ」
地面を蹴りつけるアープ。
「ヒトのソレじゃないな」
葉巻に火を付けた男は、ぼそりと呟いた。
男はアープをコケにするように
「バントラインスペシャル、引き金すら弾けなかったな」
アープは男を睨みつけた。
「次は、眉間をぶち抜く」
葉巻を吐き捨てた男は
「今日は、偶然会っただけだ、部下が揃えばやりようもあるさ、それに殺すなという命令を忘れるな」
そういう男の目を見てアープは思った。
(俺より、殺しちまいそうな目をしてるぜ)
指揮車に戻った、エディとイヴ。
(どうやら俺は、軍には戻れないらしい)
落ち込むエディ。
辛気臭いエディを蹴り上げてイヴがハルに指示をだす。
「とりあえず、アダムの様子を確認しにいくわよ」
「解りました」
指揮車は動き出す。
一路アダムのもとへ。
――海上である。
静かな船旅である。
指揮車が、スピードを落とさず、海に突っ込んだときは驚いたエディも、いまやすっかり環境に慣れている。
現在、釣りの真っ最中である。
水陸両用だったのである。
しかし、陸上ほどのスピードは出せない。
トローリングである。
イルカが指揮車と並走して泳いでいる。
コンは珍しそうにイルカを眺めている。
イヴは、ビーチパラソルの影でクリームソーダを飲んでいる。
ぺったんこの身体には不釣り合いなビキニである。
「楽しいの?ソレ」
イヴがエディに声を掛ける
「あぁ、大物を釣り上げて、今日は寿司を食わせてやる」
「寿司?まぁ期待してないわアナタには」
エディの釣りの腕前は期待できない。
しかし、問題ない。
ハルがイルカで追い込み漁を並行して行っているからだ。
それにしても今日はイルカが多い。
1頭 2頭と指さし数え始めるエディ。
ガボンッという音と、ともにイルカが消えた。
青い海に次々と赤い斑点が浮かぶ。
イヴが立ち上がって、双眼鏡を覗き込む。
「人魚だわ……アダムの
エディが思うに、嬉しそうな声ではなかった。
のんきな軍属ライフから、転がり続けるエディの運命
もう戻れない、昨日を嘆くヒマはない。
次回 『カース』
日本を目指す、イヴの目的とはなにか?
また、お気楽パートを書きたいと思ってますがなにか?
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