第9話 焼いたおそば と 煮たおそば

エディは頬を押えながら、悩んでいた。

あの話のあと、イヴに

「というわけで、アタシは、お前らの、ご先祖様ってわけよ」

「俺の先祖は、エドシティで、保安官であったと聞いたが」

いい角度でイヴは、エディの顔に飛び回し蹴りを入れてきた。

ヒトガタは、死なない・負けない・壊れないがウリなのだ。

運動能力は半端ない。

「バカニンゲン!デキソコナイ!」

イヴからすれば人類すべてが、こんな風にみえるのだ。

エディは人類を代表して、この先もイヴの罵詈雑言を受け止め続けるのだ。


さてエディにとって、当面の問題は、これをどう報告するか?ということである。

正直、冷静になればなるほど、異常事態なのだ。

部隊は全滅。

原因である赤いキツネは現在、気絶中、イヴとエディが縛り上げて部屋の隅で再生中かつ寝息をたてている。

緑のタヌキは原型を留めていない。

調査途中で遭遇した、しゃべる物知りボールに、偉そうで好戦的な金髪少女。


エディは自信が無かった。

饒舌じょうぜつなほうでもなければ、文才もないのだ。


ハルは忙しそうに転がり回っては、武器、弾薬を積み込んでいた。

イヴは、カロリーメイトフルーツ味を中心に食糧を大量に

双方が運搬に使用している巨大な生き物は、赤いキツネである。

エディがボケーっとしている間に状況は変わっているのである。

どうやらキツネは、ハルには勝てない、イヴには到底逆らえないことを本能で理解したようだ。

見た目、縮んだようにも見える。


「こんなとこでしょうかね」

「そうね、当分は大丈夫ね」

ハルとイヴが、積み込み作業を終える頃、キツネは完全にダウン状態であった。

指揮車両内は武器弾薬および食糧が一気に充実していた。

一個小隊が優に1か月駐留できそうな充実ぶり、

(どこに、なにしに行く気なんだろう)

不安しか感じないエディであった。

イヴ・ハル・キツネ 1人と1機と1匹なのだが、なんか小さな国くらいは簡単に制圧できそうな頼もしさがある。

その頼もしさが、エディの不安を掻きたてるのであった。


「ハル、指揮車両発進後、基地を廃棄するわよ」

「はい、解りました」

「エディ、コンにエサをやっといて」

イヴが指揮車両の中心で指揮を執る。

「コンって、もしかして……キツネか?」

一応聞き返すエディ。

「そうよ、コンはペットにするわ、処分も可愛そうだし、なんか懐いたし」

「エディ、格納庫に行ったら、そこでコンとおとなしく座っていてください危険ですから」

ハルが操縦席からエディにやさしく声を掛けてきた。

「はい」

邪魔者みたいで却って辛かった。


コンにドックフードを与えながら、

エディは泣いていた。

このキツネは、少し前まで、人を食い散らかしていたのだ。

放し飼いって危なくない?

(ドックフードを大量に与えておこう)

飢えたら食われる気がした。


ドックフードの空き缶を片づけながらエディは思った。

(確か、俺はマスターではなかったのだろうか、やはり仮登録だからか)


キツネと対角線上に位置を取り座るエディ、

立ち上がり、あくびをしたキツネがエディの脇で丸まって眠りだした。

デカいことを除けば、可愛いキツネなのかも知れない。

そうであってほしい。


指揮車、発進から15分、はるか後方で見たこともないような、火柱が噴出した。

(街は大丈夫であろうか?)

エディの心配を乗せ指揮車は走る。

どこへ向かっているのだろうか、どうやら明るい未来でないことだけは確実である。


走ること数時間、イヴが夕食を所望した。

格納庫のスピーカーから、イヴの声が響く

「ニンゲン、お湯を沸かしなさい。焼きそばを食べるわよ!」

「ヤキソバとはなんだ?」

「はぁ~、焼きそば知らないの?麺を鉄板で炒めてソースかけた麺類よ」

(車内で焼くのか?)

エディが悩み始めて、1分、事態を静観していたハルが

「エディ、白くて四角い容器です、キッチンでそれにお湯を注いでください。

注いで3分後、フタの穴から、お湯だけを捨ててください。

気を付けなけばならないのは、ソースだけは、最後に入れること、

コレをしくじると、大変なことになります」

エディは、イヴが持ち込んだ大量のダンボールから、ソレと思われる白い容器を探しだした。

ハルの言うとおりに作ってみる。

(固いラメーンではないか?本当に旨いのかコレ)

3分たった、慎重にお湯を捨て、ソースをかけて混ぜてみる。

途端にいい香りがしてきた。

(焼く必要はないのか?なぜに焼きそばなのだろう)

焼かないヤキソバを、イヴに渡すと旨そうに食っている。

「お前、食わないのか?ニンゲン」

「俺は、いい」

エディもさすがに腹が減っていた。

遺跡で、コーラフロートを飲んだきり、何も口にしていないのだ。

しかし、時間が経つにつれ、死んでいった仲間のことを考えてしまう。

過ごした時間は、半日に満たない。

しかし、メシを共に食った仲間である。

格納庫で、キツネの脇腹にもたれかかって天井を眺めながら、考えていた。

(この腹の中には、仲間の身体が入っている)

べつに、キツネを恨む気はない。

少なくとも、数時間前には、お互い敵だったのだ。

たまたま、生き残って、今こうなっただけである。

(それだけのことだ)

思いつつも、割り切れないエディである。


「エディ!イヴ!」

ハルの声がする。

「なんだ」

「囲まれてます」

エディは飛び起き、格納庫から外を覗う。

静かな森だ。

まだ、戦闘の兆候はない。

イヴが眠そうに、ブリッジの席に着く。

パジャマのまま。

「何人いるの?」

あくびをしながら、ハルに聞くイヴ

「半径200mに先頭車両×5 歩兵×50±3」

「な~んだ、つまんない」

「殲滅しますか?」

「うん、軽くやっちゃって」

イヴとハルのやり取りを黙って聞いていたエディ。

「殲滅します」

パシュッ、パシュッと音がすると、周囲に爆発音が響く。

エディが強化ガラス越しに外を確認すると、

正面から歩兵が、こちらに向かって発砲しながら走ってくる。

悲しいかな、弾丸のHIT音すら車内には聴こえない。

「アハハハハ、バーカみたい」

イヴがバカにして笑う。

「射程距離まで3.2.1」

ハルがカウントを数え終わると、正面がパパッと一瞬明るくなる。

発砲が止む。

「あと、何人?」

「戦闘車両沈黙 残数、歩兵×8」

「あっそう、パッとっちゃって~、あっコンにらせましょ、

エサ代わりに、ちょうどいいわ」

「格納庫のハッチ開けます」

ハルが応える。

「や………く……れ」

エディが小さく呟く。

「なんか言った?」

軽い口調で、イヴが聞く

「やめてくれ!」

エディが叫んだ。


車内の静寂を破ったのは開いたハッチから車内に響いた、コンの咆哮であった。


「コン戻りました。ハッチを閉めます」

ハルは無感情に作業を進めている。

当然である。

ハルにとっては、エディとイヴ・プロダクションS型の生命維持だけが行動の理念である、そのほかは、どうでもいいことであり、これを脅かすものを排除するのはごく当たり前の行動なのだ。

おそらく、イヴの指示がなくても、相手に攻撃の意思を感じ取れば、同じように殲滅したであろう。


「なぜ、平気で人を殺せるんだ?」

「はっ?襲われたのよ、当然じゃない」

「問題なかったはずだ。殺さなくても」

「ニンゲンが何を言ってるの?お前たちは常に殺しあってるじゃない、それともアタシがニンゲンを殺しちゃまずいのかしら?」

「好きで殺してるわけじゃない!」

壁を蹴ると、エディは格納庫へと戻って行った。


格納庫では、口元を赤く染めたコンが、エディに擦り寄る。

エディの顔に血が付いた。

それを手で拭い、赤く染まった手を眺め、拳を握った。

「くそっ」

エディは血が出るほど唇を噛んで言葉を漏らした。


そのころ、ブリッジでは、イヴが不愉快そうに、オレンジジュースを飲んでいた。

「バカニンゲンのくせに……」

小さく呟いたのだがハルには聴こえたようで

「同族意識でしょうか?」

珍しくハルが質問した

「解らないわよ!ニンゲンは常に互いを殺しあってきたのよ、アタシは、集団で行動できる生命を欲したの!なのに、アレじゃ、小型のアダムじゃない、失敗作よ」

「ではなぜ、エディは、あんなに感情を高ぶらせたのでしょう?」

「知らないわよ!」

「あきらかに不快感を表してました、貴女に飛びかからんばかりに」

「身の程知らずね、飛びかかってきたら、こうよ!こう!」

と左手でデコピンして見せた。


本当に斬りかかれば、エディは確かに瞬殺されるであろう。


その夜、イヴが格納庫に降りてきた、コンの横で眠るエディの脇に、ヤキソバを置いて、足早に立ち去った。

ヤキソバには『食え』と一言マジックで書かれてた。

イヴに気づいていたエディ。

(アイツ)

フッと笑うエディ。


朝起きた、エディは早速、ヤキソバを食べていた。

イヴが食べたのと違い、香りがしなかった。

そう、ソースを先に入れてしまったのだ。

流れる黒いお湯を見たとき気づいたが手遅れであった。


イヴにヤキソバの感想を聞かれたエディ、ラメーンの方が旨いと答えた。

「バカニンゲン!」

イヴがいい角度でボディにこぶしを突き刺した。



この4人が、いつか解りあえる日は来るのだろうか?

旅の行先は日本!

次回 『マーメイド』

知的生命体はニンゲンだけではない。

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