第8話 フォビドゥン

「敬えよクソガキ」

エディは思わず目を逸らした。

(なんか、メンタルにくる子だよ)

エディは、ふたたびMPの減少を感じた。

「俺の母親ってどうゆうことだ」

「お前だけじゃないぞ、お前ら全員の母親だ」

(ままごとでもしたいのかな)

全員といわれてもエディのほかはハルだけだ。

エディの世界とイヴの世界ではスケールがまったく違うのだ、無理もない。

「イヴ、詳しい話は車のなかで」

ハルが割って入る。

エディとイヴの温度差に気づいたからだ、もちろん体温の話ではない。

イメージ図では、ハルに手を引かれて歩くエディ。

どちらかというと、ハルの方が母親のようである。


とりあえず、コーラを飲むエディ。

ぬるく炭酸も抜けている、そうさっきの飲みかけだ。

「私が説明しましょう」

とハルがエディに話し始める。

内容は以下である。


――始祖――

人類の始祖は、どこからかたどり着いた、ひとつの生命体である。

後にイヴと呼ばれる生命体。

イヴは海を漂い思った。

「友達が欲しい」

イヴは自身の身体を、原始的な生命体へ与えた。

「いつか、私の友達になってね。ずっと待ってるわ」

捕食され身体の大半を失ったイヴは、わずかに残った身体を結晶化させた。

後にモノリスと呼ばれる黒い石柱に姿を変えたイヴは、

長いときの果てで、いつか現れるであろう友達を待つことにした。

イヴを捕食した原始生命は、短期間の間に爆発的進化を遂げていく。

(なんだか悲しい話だな)

エディは思った。


――訪問者――

イヴが眠りについて後、地球に大きな隕石が飛来する。

後にジャイアントインパクトと呼ばれる衝突は、地球の一部を削り取る。

削り取られた部分は月となり、以降、地球の衛星となる。

不幸なことにイヴは、この衝突で月へと飛ばされる。

(運のない人だ)

エディは同情した。

地球からイヴを奪った、隕石は、その代りとばかりに卵を落とす。

あるいは、意図されていた接触なのかもしれない。

卵は長い間、羽化しなかった。

アダムを羽化させたのは、時間でも人間でもない。

リリスと名付けられた思念体である。


――リリス――

リリスは、地球のどこかで自然発生した思念の塊である。

身体を持たないリリスは、

イヴの出来損ないである人間を憑代に転移を繰り返す。

ある日、卵のアダムへの転移を試みたが失敗した。

転移を繰り返すうちに、イヴの存在を知る。

それは、すべての人間の中に共通に存在する記憶。


身体を欲したリリスは、転移した人間にアダムを捕食させていた。

転移ができないのならば、取り込もうと考えた。

永遠を漂うリリスには、永遠に活動し続ける身体は、

どうしても欲しいものであった。

捕食した人間は、ときに異形に姿を変えた。

アダムは精神的な融合を拒絶し続けた。

アダムと人間は物理的な融合を遂げると異形に変わるか、人間の形を維持しても、数年で肉体が崩れ落ちた。

異形化した人間は中途半端な不死性を有し、度々、人間の前に姿を現した。

また融合率も非常に低く、大抵はその場で死んでいった。

リリスは、強制的な融合を諦め、段階を踏まえた融合方法を試す。

人間の旺盛な繁殖行動は利用できると考えた。

融合に成功し、なおかつ、異形化しないオスの個体が条件である。

繁殖行動旺盛な人間ではあったが、オスに転移しても、数年間という時間は効率が悪い。

リリスはマリアというメスに転移する。

マリアは売春婦であり、1日に何人ものオスと繁殖行動を行う。

行動に移す前にオスにアダムの肉を与え、異形化しなかったオスとのみ性交を行い続けた。

受胎には数年の期間を費やしたが、ついにイヴにアダムを受胎させることに成功する。

キリストの誕生である。

マリアの肉体を離れたリリス。

リリスは名をマグダラと名を変え、成人したキリストの前に現れる。

キリストを神の子に祭り上げ、懐柔して行動を共にする。

キリストの死後、遺体を持って日本へ渡る。

アダムのDNAを取り込んでいる肉体は腐敗することがなく、

イヴの記憶以外は空っぽの入れ物となったキリストの遺骸は、ひな形として日本で保管されることになる。

保管先は、どの時代においてもリリスが統治、または運営する組織で行われた。

いつしか、遺骸を手に入れたものが日本の支配者であるとささやかれるようになっていた。


――旧世界――

時代は移り、キリスト死後2000年、モノリスは人類の手で、月からエリア51に運ばれる。

イヴの帰還である。

モノリスが、生命体だと結論付けた学者数名により、

様々なコンタクトを行うが、イヴは反応を示さなかった。

アメリカの極秘情報を入手したリリスは、今の人間ではイヴとコンタクトを取れないと判断していた。

リリスが見るに、共食いとも呼べる、同種間の争いを止めない人間は完全に進化の失敗作であると思っていた。

ゆえにリリスも、イヴの出来損ないを手足のように利用し、寄生しているのだ。

学者たちによるコンタクトは暗礁に乗り上げていた。

オーバーテクノロジーを欲したアメリカ軍は、別のプランを提唱する。

モノリスから、強制的に情報を抜き取る乱暴な方法である。

その後、強制的な情報の抜き取りが行われたが、記憶は断片的で完全に抜き取ることは出来なかった。

抜いた記憶は、バイオラボ マシンラボの設立に繋がり、後に日本から提供されたヒトガタと言われる身体に記憶を移植される。

ヒトガタはキリストをベースにメス型で3体提供された。

イヴ・オリジナルに対し、プロダクションと呼称された3体は、S型 M型 L型と呼ばれ、別々の基地で管理されていた。

イヴの思考が人間のメス型に近いことが主な理由だが、

L型だけは、繁殖機能を備え、再びハイブリットを産み出す母体とするためである。

プロダクション・イヴは自らに移植されたオーバーテクノロジーから様々なものを想像・模索をさせるために、疑似人格と自立思考型の知能を与えられる。

M型 L型は後に日本へ移管される。


何度かのサルベージを繰り返したためか、イヴはついに目覚めてしまう。

目覚めたイヴは人間に、種の起源を話し、人間の共存と地球との調和を諭した、

イヴの眼には、人間はまだまだ幼稚で利己的、精神的な成長が足りないと映っていた。

まだ、自分と並んで歩くには時間が必要だと思っていた。

事実、アメリカ政府は、自らの国家を主とした軍事制圧に乗り出す。

利己的な部分が強すぎるのだ、人間は。


イヴの予想外の覚醒に気づいたリリスはアダムのもとを訪れる。

リリスが危惧したとおり、アダムは急速に羽化体制に入っていた。

リリスの考えでは、アダムとイヴは、共通のDNAを持っている。

進化の過程で個体としての生命維持を模索したアダム、

分裂による同種維持を模索したイヴに分かれたのだと。

それゆえに、繁殖というDNAの交換と再融合による人間の繁殖方法で

再結合が可能であったのだ。

共通の祖先をもつアダムとイヴは必ず共鳴し反発する。

なぜなら、イヴの記憶にはアダムと酷似した生命体との惑星を破滅させるほどの

争いの歴史を持っていたからだ。

イヴの覚醒はアダムの覚醒を促す。

例えるならば、ミツバチのようなイヴを女王としたコロニーとカーストで種の存続を維持する個体。

そのミツバチを捕食するスズメバチの様相だ。

事実、進化の過程もハチと非常に近い。

行きついた先が、

脱皮を繰り返し若返る女王蜂と死なないスズメバチだ。

テリトリーから追い出す以外に決着はつかない。

事実、両者とも宇宙を漂っていたわけだ。


そして、それは起こった。


結果のみ話せば、肉体の大半を失ったイヴは月に戻った。アダムは成体したまま再び地球上で休眠に入った。

再生には膨大な時間が必要であった。

リリスは、日本を隔離するため、プロダクション・イブを日本へ移管し、その技術でシールドを張り、被害を最小限に抑えた。

それでも、日本の半分は壊滅することになってしまった。

各国は、様々な手段で文明の維持を試みていた。

ハルのようなアーカイバーもそのひとつである。


日本はリリスのおかげで、文明を完全に維持し、現在も繁栄しているわけである。


というわけです。

エディ理解できましたか?

とハルとイヴがエディを見ると、エディの頭から湯気が立ち上っていた。

エディが理解できてないことは、明白だ。

しかし、眠りそうになるほどの長い話で、エディが一番驚いたことは、

地球が丸いことであった。



地球は丸かった。

種の起源をアッサリと話すハル。

いったいどこに向かうのか?

エディも、物語も、

次回 『焼いたおそば と 煮たおそば』

ライトな空気カムバ~ック。

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