第4話 アーカイバー

エドモンド少尉は、ふて腐れていた。

焼きトウモロコシが朝食と聞いていたのだが、ゆでトウモロコシだったからだ。

「茹でると水っぽくなってベシャベシャってなるじゃない」

隣で飯食う名も知らない同僚に文句タラタラだ。

「トウモロコシって連呼したくなる名前だよね、何度も繰り返してると、トウモコロシとかトウコロモシとかになっちゃうよね」

と愉快そうでもある。


軍属で単独行動が主たる吸血部隊にとって、他斑との遠征は珍しい。

エドモンド少尉は遠足気分を隠し切れずにいた。

前線送りなら、テンションガタ落ちであろうが、

遺跡調査は楽な任務である。

要は、ガラクタ探しなのだから。

惜しむらくは、当日早朝に命令されたので、おやつが準備できなかったことである。


――遡ること調査前夜――

コジマ大隊長は、エドモンド少尉の報告書と始末書に目を通していた。

報告書の95%はどうでもよい内容であった。

記 私ことエドモンド少尉は、エリア51での地道な聞き込み調査から云々

  UFO博物館では、希少金属の展示が云々

  自身で入手した光沢紙と発掘された金属の類似性が何とか

  宇宙ってあるんでしょうか? 疑問形

  ジャポンの支配者 ヒデヨシ・トヨトミ≒猿の王 大胆予想 etc。

およそ、どうでもいい内容だったが、1つだけ気になる個所があったのだ。

現地調査の際、カタコトの言葉を話す柱を見つけ、しばらく話し込んだ。

柱には数字のボタンがあり、誕生日を打ち込んだら扉が開いたのだが、

バスに乗り遅れるので、LOCKのボタンを押して扉が閉まるのを確認し

戻った。

とある。

しばらく考えた後、遺跡調査斑に調査命令とエドモンド少尉の同行を指示した。

エドモンド少尉の経歴書を机に置いて、タバコに火をつけた。

紫煙に目を細め

「上層部に報告したものか、どうか…」

呟く大隊長。

再び、経歴書に視線を向け

(それにしても、うるう年の産まれとはな)


――トンボ返りのエリア51、バイクを盗まれたことはもういい。

どうせ俺のモノじゃないし。

街はずれの遺跡前、できれば街に行きたい。

すきやきは旨かった。

班長が声をかけてきた

「エドモンド少尉、では扉を開けてくれ」

エドモンド少尉は、あのときのように、しゃべる柱に誕生日を打ち込む

「ニンショウシマシタ」

ゴウンゴウンと音の先と砂ぼこりの向こうに空間が現れる。

「おぉー」

というどよめきを制するように班長の咳払い。

「先行隊、前へ」

号令とともに、5名が空間に消えていった。

ビーチパラソルの下で、椅子に座った班長の脇で黒電話が鳴る。

先行隊からの連絡が入ったようだ。

「よし、侵入する」

班長の号令で遺跡内部へ次々消えていく調査班。

「少尉はどうする?私には少尉に対しての命令権は無いのだが、

私とココで待つなら冷たいものでも用意させるが」

エドモンド少尉は迷っていた。

開けたのは自分である、興味が無いわけではない、なにより凄い遺物を見つけて、あの店主に自慢したい気持ちもある。

なにより、KYと陰で噂されたくない。

「自分も調査斑に同行します」


と言ってはみたものの、最後尾でブラブラとついていく。

ときおり、気になる個所を日本刀の鞘の先で突きながら歩く。

思っていたより殺風景だ。

しばらくすると、司令室らしきところに到着した。

通信兵が班長に連絡をいれると、班長が司令室に入ってきた。

ひとまず、斑全員の点呼を行い、全員の確認をとる。

「ココを拠点として、30分後に調査を再開する、3斑に別れ3時間後に

再びココに集合だ」

班長が司令官席と思われる場所に座り支指示をだして、ひとまず昼食となった。

「どうぞ」

とエドモンド少尉に運ばれてきたのはカロリーメイト2本とリンゴ1個であった。

士官には、フルーツが付くが、一般兵はカロリーメイトだけだ。

(調査とはいえ、これでは士気が上がらないな)と思った。

「では、ヒトナナマルマル時に再度集合だ、調査再開、連絡を怠るな、各班30分おきだ忘れるな」

各斑、別々の通路に消えていく。

司令室には班長のほか、護衛が3名 通信兵1名とエドモンド少尉だけとなった。

なんとなく居心地の悪さを感じたエドモンド少尉は単独行動を申し出た。

もちろん了承された。

エドモンド少尉の役目は扉を開けた時点で終了しているのだ。

ヒトナナマルマル時に集合を守り、さらに10分後戻れなかった場合

は隊を撤収すると念を押された。

班長にとって、エドモンド少尉の安否など眼中にないのだ。


ひとり、誰も行かなかった通路に進を進むこと数分、またもしゃべる柱に遭遇する。

誕生日を入力するとピシュという音と同時に扉が左右に開く。

格納庫か?

見たこともない兵器の数々、どう動くのかも解らない形状をしたものが多い。

今、触っている鉄の兵器などは、鳥のような羽付きで、今にも空へ飛びそうだ。

だだっ広い格納庫を好奇心丸出しでうろつき回る。

残念なことに、操縦席らしき部分はロックが掛かって開かない。

面白いモノはこれだけあるのに、なにひとつ動かない、これほど不愉快なこともない。

例えるならば、子供がおもちゃ屋に行くとテンションMAXになるが、何も買ってもらえないと悟ると、テンションが反転する感じである。

関係ないが、作者は、以前駄々をこねる子供で吹き出したことがある。

ドラゴンボー○の胴着が欲しいと駄々をこねる子供が言った一言が

「僕ちゃんと修行して、スーパーサ○ヤ人になるから!お願い」

と母親に泣きながら懇願したときだ。

そもそも地球人だからね、ヤ○チャまでいったら再考してもらいたい。


エドモンド少尉、完全に飽きてきた。

一度戻ろうかと思ったのだが、好奇心いっぱいでアチコチ動いたためか、はたまた生来の方向音痴のせいか、格納庫内で迷子である。

(これはさっき見たぞ)

などと、小首を傾げながら戦車を繁々と眺めている。

「すいませ~ん」

エドモンド少尉は大きな声で呼びかける。

誰に?もちろん、しゃべる柱の人にだ。

当然返事はない。

はずだった。


「お困りですか?」

「出口はどちらでしょうか?」

「格納庫からですと、発着場・司令室・地下実験場の3か所へ移動可能です」

「あっ、司令室へお願いします」

「かしこまりました」

(はて、誰と会話してるんだ?俺は)

と考えだし、辺りを見回す。

しゃべる柱は見当たらない。

足元に、転がるボールを蹴ってみる、さっきからコロコロついて回ってきてウザかったのだ。

ゴンッと鈍い音とともに、ゴロゴロと向こう側へ転がるボール、ブーツ越しに足に伝わる感覚では見た目以上に重い。

3mほど転がると、ピタッと吸い付くように止まった。

「案内します」

どうやら声の主はボールのようだった。

しゃべる柱の次は、しゃべるボールである。

しかも、柱と違い、会話が成立するのだ。

思えば、観光の際、しゃべる柱に色々と話しかけたが、どうもうまく噛み合わなかった、機嫌が悪いのかと思っていた。

得意の落語で和ませようとしたのだが、くすっともせず自信を失ったのだ。

(このボールならいけるかも)

とボールについていくと、しゃべる柱の前に着いた。

「いや~助かりました」

ボールに向かって敬礼をするエドモンド少尉。

「ところで、直接お会いして、ご挨拶したいのですが、どちらにお伺いすればよいでしょうか?」

エドモンド少尉は、バカではない。

馬鹿正直で人を疑わない性格ではあるが、知能は低くない。

柱やボールがしゃべるわけがないことは解っている。

中に人が入っているなどとも思ってない。

どこかで、操作しているはずなのだ。

「先日も、ちょっと不愉快にさせてしまったようですし、いえ軍隊の方とは思わなかったもので、つい」

そう、先日とは、落語のくだりのことである。

柱=ボール=操作している人であり、エドモンド少尉も、この格納庫を見れば、これが兵器であることは即座に理解していた。

高めの知能に間違った教育がブレンドされると、エドモンド少尉になるのである。

ボールは言った。

「申し訳ありません。私は、IBM704系最終型HAL10000(テンサウザンド)搭載自立思考走行型アーカイブ 通称ハルです」

「ハルさん…ですか、あの階級は?というか所属はどこなんでしょうか?あっ失礼しました。私は、アメリカ陸軍 第8方面 食糧調達部隊 特殊素材調理斑 X-1

エドモンド・ナカムラ少尉であります」

「エドモンド少尉、登録しました。私のアーカイブには、所属部隊の登録はありませんが、新規増設部隊として仮登録いたしました。」

続けてハルは

「私のマスターとは、203年と134日15時間43分38秒交信が途絶えています。人間の平均寿命を大幅に超えた期間、更新不能につき、死亡として処理、マスター不在のため、エドモンド・ナカムラ少尉を、新たなマスターとして仮登録します」

「えっ?マスター、仮登録って」

「マスターご命令を」

「いやーマスターってなぁ、飲み屋みたいで嫌だな~」

「では、どうお呼びしましょうか?」

「う~ん、まぁ、エドモンド、少尉、う~ん、エディでいいよ」

「エディですか、登録しました」

「エディ、現在、ハルの会話パターンはノーマルに設定されてます。変更なさいますか?変更パターンは、男性・女性から選択可能です。」

「へえ、じゃあ、女性でお願いします」

すでに床にあぐらをかいて、楽しくなっているエディ、ノリノリである。

「解りましたエディ、なお、変更はいつでも可能です」

と急に女性の声で話し出す。

(なんだか、本当に、このボールと会話しているみたいだ)

「では司令室に向かいましょうか、エディ」

「はい」

照れながらも満更でもないエディであった。

声から想像するに知的な美人を想像していたからである。


遺跡で旧世界の兵器が動き出す。

今までとはレベルの違う遺物に戸惑うエディ。

探していたのはこれなのだ。

軍事レベルを引き上げる呼び水となったエディはの立場は?

次回 『コネクター』繋がる先は未来か過去か。

注 タイムトラベルとか異世界とかしません。

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