1-2. 昼休みそして放課後
午前中最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。先生が号令を促すと日直は「起立! 礼!」と決まり切った文句を言い、それに従い生徒達は立ち軽く礼をする。
授業が終わるや否や、周囲は騒がしくなり、席をくっつけ合って弁当を取り出したり、食堂へダッシュで向かったりと様々だ。
俺はいつも通りに、弁当をカバンの中から取り出し机の上に置く。包みの結びを解こうとしたところで前の席の春木に声をかけられる。
「一緒に食おうぜー」
「あぁ、今日は水曜日か。別にかまわないよ」
「サンキュー」
早速、春木は可愛らしいピンクの容器の弁当箱を俺の机に置く。もう見慣れたものだがやっぱり春木にその弁当箱は似合わないと思う。
「その弁当箱、変えてもらったら?」
「あー、いいよ。まぁ、確かに最初は抵抗あったけどさ。せっかく彼女が朝早く起きて作ってくれてるんだ。ケチをつけるのも野暮ってもんだろう? それに今では割と気に入ってるんだ、これ」
「そういうものなのか」
「そういうもんさ。お前も彼女が出来て、弁当作って貰えるようになる日が来たら分かるさ」
「……余計なお世話だ」
そう。憎たらしいことに春木には、彼女がいる。確か中学3年の秋ごろに付き合い始めたからもう一年以上は立つのか。そして目の前に置かれた弁当は彼女が作った弁当。確か水曜と金曜に限って、作って渡してくれるらしい。このリア充め。
お互いに弁当箱のフタを開き、食事を開始する。春木の弁当箱の中は外側の可愛らしさとは対照的にごくごくシンプルなものだった。白いご飯に、目玉焼きに、唐揚げ、サラダ……全てがバランス良く均等に詰め込められていた。
対して俺の方もそうは変わらない。……律儀にウィンナーをタコ型にしているところや、リンゴの皮をウサギ型にしていることを除いて。ちなみに弁当は俺が作ったものではなく妹が作ったものだ。だから今まで妹の嫌いなピーマンやトマトが入ったことは一度としてない。
「そういや、お前彼女作る気はないのか?」
「……別に興味がないって訳じゃないけど。きっかけがないとなぁ」
「きっかけなんて自分から作るもんだぜ。誰か気になる子とかいないのか?」
春木に言われ、少し思案する。最初に思い浮かんだのは、今朝遭遇した南野さん。いつも眼鏡をして地味だとしか思ってたけれど、今日初めて眼鏡を外した顔を見たとき内心驚いていた。あどけなさが残りつつ整った表情。白く綺麗な肌。ほんのりと赤みのかかった頬。
あの時は意識してなかったけれど、南野さんって実は相当可愛いんじゃないだろうか?
そして次に思い浮かんだのは、門崎さん。門崎さんとは何度か化学の実験などで一緒のグループだったりしたので、何度か会話も交わしたことがある。彼女は陸上部に所属していて短距離走選手として周りから期待されているらしい。誰にも気さくでかつアグレッシブな彼女は、周りからも人気がある。
そしてふと、思い出した。
「門崎さん……」
「え、お前、門崎さんの事が気になるの? まぁ、彼女可愛いし、人気あるからなぁー」
「いや、そういえば今日門崎さんに呼ばれたのを思い出した」
「えぇ!! マジで!?」
「ちょっ、声が大きい!」
春木が大げさに驚いたので、何人かの生徒達がこちらをちらりと見る。当人である門崎さんも見てるかとちょっと慌てたが、周りを見渡した限り姿は見えない。どうやら教室には居ないらしい。ほっと胸をなで下ろす。
「それ本当なのか? もしかして門崎さんに告白されるんじゃないか!?」
春木は面白いネタを見つけたと言わんばかりに興奮気味だ。
「まさか……確かに門崎さんとは去年から同じクラスだったけれど、何度か話した事がある程度で彼女とは友達ですらない。ただのクラスメイトにしか過ぎないよ。それでいきなり告白ってのはあり得ないんじゃないか」
「まぁ、確かにな。しかし、そうだとすると門崎さんはお前を呼んだんだ?」
「そこなんだよな……」
そう。そこが分からない。門崎さんは何で俺を屋上に呼び出したんだろう? それに言いにくいことだとも言っていた。……いくら考えても本当に心当たりがない。
そうして春木と会話をしていたら、いつの間にか弁当箱の中は空っぽになっていた。
俺と春木は互いに手を合わせて
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
といった。
「俺はこれから外に気晴らしに行くけど、お前は?」
と春木は訊く。
「俺はいつも通り本を読むよ」
「そうか。本を読むのもいいけど、たまには外に出ろよー」
「気が向いたらな」
と幾つか言葉を交わした後、春木は教室を出て行っていた。
それを見届けた後、俺は引き出しから本を取り出し読書を始めた。そういえばこの本、明日返却日だったよな。なら早く読み終わらないと。
こうして残り時間を本を読んで過ごすのだった。
放課後。
ホームルームが終わり、春木と少し話した後俺は屋上へと向かった。結局俺は門崎さんが何故俺を呼んだのか見当もつかなかった。
屋上へと続く階段を上り、扉を開ける。
空は既に、オレンジ色に染まっている。門崎さんはフェンスの前にいた。俺は門脇さんの元へと急いだ。
「ごめんね、急に呼び出しちゃったりして。そんなに時間は取らせないから。私もすぐ部活に行かなきゃだし」
「ううん、いいよ。それで話したいことって何?」
「うん。百合早の……南野百合早のことなんだけどね。百合早の友達になって欲しいの」
彼女はそう告げた。
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