ありふれた高校生活で

@yumesato

1-1. 通学途中の出来事

「いってきまーす」


 といい家を出る。空を仰ぎ見ると雲一つ無い快晴だった。

 高校生になって二度目の春。4月も中旬で暑くもなく、寒くもなくちょうどいい過ごしやすい季候だ。

 今日はいいことありそうだ、と根拠もない事を思いいつものように達波高校へと向かう。

 達波高校へは、家をでて最寄りの駅まで大体歩いて約15分。そこから電車に揺られてさらに20分。そして電車を降りて五分歩いたところだ。

 駅前の商店街まで差し掛かったところに、見覚えのある制服姿の女生徒がいた。見覚えのあるのは当然のことでそれは達波高校の制服だった。髪はセミロングのストレートヘア、顔は自分から見て背を向いているため見えない。

その制服を着た女生徒は、周りをキョロキョロしながら辺りをうろついている。何か落としたのだろうか?

 そして、彼女が彷徨いている少し後方に何かが落ちているのを見つけた。眼鏡だ。もしかして、彼女はこの眼鏡を探しているのだろうか?

 眼鏡を拾い、彼女に声を掛ける。


「もしかして、眼鏡を探している?」

「え?」


 と、彼女はこちらを向く。


「あれ……もしかして、……えっと、並木君ですか?」


 そう言われて、気付く。彼女は同じクラスの南野さんだった。


「うん、まあそうだけど。それより、南野さんが探しているのって、この眼鏡かな?」


 そういい、南野さんに拾った眼鏡を見せる。


「あ、そ、そうです」

「やっぱりか。じゃあ、はい」


 と、南野さんに眼鏡を渡す。


「あ、ありがとうございます」


 そうお礼を述べた後、彼女は眼鏡を掛けた。


「いや、落ちているのをたまたま見つけただから、お礼を言われるほどでもないよ。でも、眼鏡を落とすなんて、なんかあったの?」

「えっと、そ、その、何かに躓いて転んでしまって」

「躓いて……あぁ、なるほどね」


 地面を見て納得する。商店街はレンガ道なのだがかなり長い間放置されているのか、所々レンガが剥がれたりしているところがあった。それでその段差に躓いてしまったのだろう。

 そして、視線がレンガから南野さんに移ったとき、ある異変に気付く。彼女の右膝から血が出ていたのだった。


「南野さん、足怪我しているよ」

「えっ、あ……」


 言われて、南野さんは気付いたようだった。


「ちょっと待って、確か鞄の中にカットバンがあったはず……」


 鞄の中を開け探すとカットバンはすぐに見つかった。取り出して南野さんの怪我をしている場所に貼り付ける。


「っ……。あ、ありがとう」


 南野さんは何故か、頬を赤らめながら礼を言った。と、同時に自分のしでかしたことに気付く。意識してなかったとは言え俺は彼女の膝に触れてしまっていたのだ。


「い、いや、いいよ。でも後でちゃんと保健室で見て貰ったほうがいいよ。ほら、消毒液も付けてないし」

「あ、そうですね……」


 そこで一端会話が途絶えてしまった。無理もない、こうして南野さんと話すのは初めてだったから。このまま気まずい雰囲気が続くのが嫌だったので、なんとか話題を出さないと。


「とりあえず、さ。学校に向かおうか」

「え、あ、その、はい……」




 南野さんは、戸惑いながら俺の横に並んだ。ん、あれ……? 俺もしかして南野さんと一緒に学校行くことになっちゃった?

 駅に着くまで、会話は特になく。電車の中で話すことも出来るはずもなく。気付いた頃には俺と南野さんは電車を降りて駅の前に立っていた。


「……」

「……」


 気まずい。話題もないし、南野さんから話しかけようとすることもない。彼女はただずっと俯いているだけ。かといっていまさらここで別々に学校に向かうのも、それはそれで抵抗がある。

 幸いにも駅から学校へはそんなに遠くない。そのまま二人無言のまま、今ではすっかり枯れてしまった桜並木の下を歩く。

 学校の外周を陸上部を走っているのが目に見えた。こんな朝からよく頑張れるな、と心の中で思った。

 校門に差し掛かったところで、後ろから誰かに呼び止められた。正確には俺ではなく、南野さんが。


「百合早? あぁ、やっぱり百合早さゆりだ。おはよー」

「お、おはよう、茜」

「どうしたの、今日は? いつもより、ちょっと遅いじゃない? 何かあったの? って、あれ? 並木君?」


 体操着を着ていた女生徒は、ようやく俺に気付いたようだ。


「や、やぁ。門崎かどさきさん、おはよう」

彼女はクラスメイトで、確か陸上部だ。何回か会話も交わしたことがある。

「おはよう、って、どうして百合早が並木君といるわけ? ……ははーん、あんた達そういう関係だった訳ね?」

「そういう関係って……ち、違うよ! 並木君はただ私を助けてくれただけで……」


 南野さんは、必死になって否定する。まぁ、全く間違ってはなく、何も関係が無いのは本当だけれども。


「助けてくれたって? 何があったの?」


と門崎さんは今度は俺に問いかける。俺は、簡単に商店街で起こったことを簡潔に話した。


「なるほど、なるほど。確かにあそこ結構長い間整備された形跡がないからなぁ……でも、これからは気をつけなきゃ駄目だよ、小百合」

「う、うん」

「と、いけない! 私まだ外周3週残っているんだった! じゃあ、また後で、小百合! あと並木君も!」

 そう言い残すと彼女はあっという間に去って行ってしまった。

「こういうのもなんだけど……門崎さんって結構活発だね」

「うん、そうだね……羨ましいくらいに」

「え?」

「ううん、何でも無いんです……。こんなところで立ち止まってるのも何だし、いきましょうか……?」


 そして彼女に促されるまま、校舎の中へと入るのだった。




 俺と南野さんの教室は、本舎の二階にある。教室に入ると、いつも通りほとんどの生徒はまだ来ておらず閑散としていた。

ちなみに南野さんは「途中寄るところがあるから……」と言って、途中で別れてしまった。

 自席は窓際の一番後ろの席。席に着くといつものように、鞄から文庫本を取り出し机の上に置く。


「また、朝っぱらから本なんか読むのか? 好きだなぁ、お前も」


 と話しかけてくるのは、前の席の春木はるき 光太郎こうたろう。俺の数少ない友人で小学校時代からの付き合いだ。何故かいつも俺よりも来るのが早い。


「いいだろう? それにあと少しで読み終わるんだ、邪魔をしないでくれ」

「へいへい」


 そう言い残し、春木は何処かへと立ち去ってしまう。

 邪魔する者もいなくなったところで、読書を開始する。栞を挟んでいったページを開き前回読んだところの続きから読み始める。

 そうして、しばらく読み進めていると、気付けば朝のホームルームまで一〇分前になっていた。そろそろ読書をやめようとしたところに、誰かから肩を叩かれた。

 誰かと思い、振り向くとそこには門崎さんがいた。


「ねぇ、今日の放課後、空いている?」

「え、特に用は無いけれど……」

「よし! じゃあ、放課後屋上に来てくれないかな? 話したいことがあるの」

「話したいことって……?」

「ここじゃ言えなくもないけど、ちょっと言いにくいことなの。それで、来てくれる?」

「あ、あぁ。別にいいけれど」

「よかった! じゃあ、放課後にね!」


そういい、門崎さんは自分の席へと戻っていった。一体俺に話したいことって何なんだろう?

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