エピローグ「夏休みは続くよ何処までも」
夏休みはまだ続く。
何はともあれ祭りはつつがなく終わり、照ノたちは日常に戻ってきていた。
玉藻は御殿に帰り、殺生を維持している。
今回の件は、それなりに楽しめたらしい。
「まぁいいか」
が照ノの思う箇所。
「照ノ!」
エリスが声を掛けてきた。
人避けの結界を易々と無視して、踏み行ってくる。
「何でやすか?」
照ノは昼間から酒を飲んでいた。
「自堕落だよ?」
「承知してやんすよ」
「学生が酒って……」
「一応成人のレベルを超えておりやすれば」
「神様だったっけ?」
「然りでやす」
グイと酒を飲む。
「……………………」
「……………………」
クリスとアリスの視線が刺さる。
祭りの後、平然と真駒の屋敷に帰ってきたエリス。
そこで漸く種明かし。
「つまり自分らは弄ばれたわけだ」
その解釈に間違いはなかった。
実際問題として、照ノ側が黙っていたのも事実。
だからとて反省する甲斐性があるかと言われれば、三人揃って無いわけでもある。
無念。
「ぶっちゃけ命の恩人?」
とはエリスの疑問。
「殊更、感謝には値しやせんな」
謙遜ではない。
まず以て、ドラゴニュートの件が無ければ、普通にエリスを捧げていただろう。
『こうなることを馬九李が知っていた』
のは業腹だが、基本神寄りの思考を照ノはするので、人間としての尊厳にあまり興味がない。
これを救い難いと申すなら、台風や地震を裁判所に立たせることに、真剣に吟味する必要がある。
自然神は確かに有って、尊崇されるからこそ二次変換で産まれるのだ。
概念存在。
受肉神。
即ち照ノだった。
「で」
酒を飲みながら照ノ。
「エリス嬢は何か用でやすか?」
「遊ぼ!」
快活なエリス。
しがらみが無くなって、心のしこりが溶けたらしい。
疑問は覚えずとも、それは覚悟の証左であって、その覚悟は不安という一側面を跨いだ先にある物だ。
不安と覚悟は表裏一体。
なのに肩越しに見えてしまうのも、また致し方ないことだったろう。
「ではプールに行きやすか」
「喧嘩売ってんの!?」
プリプリ怒るエリスさん。
竜の呪は溶けていなかった。
悪魔の実よろしく水に浸ると力が抜ける様だ。
次の生け贄が何年後かは知らないが、少なくとも今回は真駒の家は損耗を抑えることが出来たわけで、当主はしきりに照ノたちに感謝していた。
「然程でやすか?」
照ノの真摯な意見。
別に死んでも良かったのだが、雄弁は銀で沈黙は金だろう。
「さて、そうなると」
「照ノ兄様!」
ギュッと男の娘が抱きつく。
「デートしましょ?」
「大公……」
「お兄ちゃんー?」
「アルト公も照ノが好きなの?」
「大好きです」
「ふぅん?」
パチパチと電流火花が散る。
エレクトロキネシス。
その根幹は真駒エリスも
雷を表わす
「なぁに? やるんですか?」
アルトは挑発的に言葉を紡いだ。
「冗談はやめやっせ、大公」
少なくともエリスではアルトに勝てない。
照ノですら苦戦するレベルだ。
魔導災害でこそ無いものの、その剣の冴えはある種の極北を示している。
「あら、モテモテね照ノちゃん」
クリス、アリス、ジル、アルト、エリス。
「光栄でやすな」
嘆息の一つもする。
「シスターマリアにも据え膳食い能いますか?」
「あら。いいの?」
「ダメです!」
クリスが喝を飛ばした。
「ツンデリア~ン…………」
ジト目の照ノ。
「この畜生めが!」
仮想聖釘。
ヒョイ。
「やっぱりそこが最重要……か」
「だねー」
「ふむ。難敵というか正妻というか」
「ツンデレーダーに反応あり! 反転変身ツンデレイダーが此処に推参!」
仮想聖釘。
ヒョイ。
結局季節が変わってもやることは変わらないらしい。
サンサンの太陽光を見ながら、元太陽神は何を思うか?
炎の魔術師と神の使徒 揚羽常時 @fightmind
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