命短し恋せよ乙女07
「たでえまー」
照ノは真駒の屋敷に帰った。
玉藻は別に用があるとの事。
「お帰りだね照ノ」
ジルが迎えた。
輸血パックで血を吸っている。
照ノもタバコを吸っていた。
栄養面では前者が勝り、娯楽性では後者が勝るも、そんなことで甲乙を付けなくても構わない案件だろう。
「海に行かやくても宜しいので?」
「死ねって言うの?」
「レッドムーンで」
「一人で海?」
「乙でやすな」
くくっと照ノは笑った。
皮肉苦笑はお手の物だ。
「じゃあ照ノも一緒に」
「構いやせんよ」
「本当に?」
「最近、二人での時間が少のうございやしたし」
「じゃ、そゆことで」
そんなわけでこんなわけ。
照ノとジルは、水着になって、赤い月の見下ろす常夜で、海水浴を楽しんだ……というか常夜……つまり何時も夜なので時間差配は余り関係ない。
とはいえ波打ち際で、キャッキャとするだけだったが。
こういうところは第三真祖の弱点だ。
「最近照ノは女の子増やしすぎ!」
ある程度遊んだ後で、浜辺で休憩していると、ジルがそんな不満を述べた。
「さいでやしょ」
照ノも否定しない。
彼としても、自分を想う人間が増えている自覚はあった。
「僕を抱く気にならないかい?」
「悪神と吸血鬼の子どもでやすか? 世界を滅ぼしやすよ?」
「いいじゃん!」
――何がだろう?
心中でツッコむ。
「エリスも何か積極的だしね」
「あー」
命短し恋せよ乙女。
さりとて業の深き事よな。
「御前と何してるの?」
「さぁてねぇ」
別に誤魔化しているわけではない。
照ノも知らないのだ。
――玉藻が何を画策しているのか?
――多分余計な事。
これは確信できた。
そうでもなければ避暑程度で、ついてくるはずもない。
問題はもうちょっと高度なのだろう。
照ノはそう感じていた。
単にミズチを殺して、「ハイ終わり」なら、先刻、狐火で滝ごと消滅能うだろう……それも片手間に。
まずもって、ソレは有り得ない。
照ノも心情は同じだ。
――贄を欲する神性には、別に悪は含まない。
大和の不文律でもある。
「ふぅん?」
ジルは怪訝だ。
「じゃあ僕もかい?」
「異国の侵略的外来種」
「ブラックバス?」
「アメリカザリガニ」
そんな感じ。
「――滅ぼそう」
とは思わないにしても。
「魔術師って……その点厄介って言うか……なにかゲッシュみたいなものを背負ってる用にも感じるよね」
「それは重畳」
タバコに火を点けた。
夜の海を見ながら、喫煙。
これはこれで乙だ。
打つ波と見下ろす赤い月。
「結局」
とはジル。
「照ノは誰が好きなの?」
「恋愛感情は持ち合わせていやせん」
「クリスも?」
「アレは別枠」
「不平等」
「天然のツンデレは貴重なので」
「わかるけどぉ」
不満そうだ。
彼女としては、振り向いて欲しいのだろう。
知らないフリをする照ノだった。
「しかし血を吸えばソレで良いっていうのもおかしな話でやすな」
「そうだね」
「ブラム=ストーカー」
「在る意味で、空想の産物だね」
「おかげで後世が苦労しやす」
「助けてくれたじゃん」
「良き行い故」
「自覚無いけど」
「神様は何時も見守っていやすよ」
「照ノとか?」
「それも一柱でやすな」
カラカラ。
彼は笑った。
笑う以外に反応もなかったろう。
ザザーンと波が打つ。
レッドムーンでも、海は海だった。
キリエ。
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