アルト公の想う者20


「ただいまでやんす」


 ほろ酔い気味にボロアパートに帰ると、


「お兄ちゃんー!」


 アリスが突撃してきた。


 受け止める照ノ。


 ギュッと抱きしめられ、そのことがアリスにとっては何より大事な予定消化と言えようぞ。


「お兄ちゃんだぁー」


「へえ」


 ――何か?


 そんな御様子。


「最近はエリスさんやアルトさんと関わってばっかりだったからー。ここで甘えるのも一つの手かとー」


「ソレは失礼をば」


 実際に、その通りではあった。


「ではアリス嬢にも構いやしょ」


 白い髪を撫で撫で。


「お兄ちゃんー」


 愛らしく懐く猫のよう……とはいっても気紛れさ加減は猫より、むしろ秋の天気の様でもある。


「ロリコン?」


 鋭い一刺し。


 モズの業。


「勘違いでやす」


「でもアリスさんって……」


「出来たてほやほやのアダムカドモンでやすな」


「ふわぁ」


 赤面するアルトだった。


「勘違いでやす」


 一字一句正確に繰り返す。


 さて、


「ツンデリッターも同じ事思ってますよー?」


「ああ。アレはアレで……」


 ――面白い。


 とは口にしなかった。


「キリエ」


 記録に残すと、仮想聖釘が飛んでくる。


「お兄ちゃんになら良いよー?」


「もっとパイオツをつけやさい」


「えー」


 アリスが嘆き、


「あう」


 アルトが嘆いた。


 自分の真っ平らをフニフニと揉む。


 男にはない器官だ。


「照ノ兄様はおっぱいが好きなので?」


「でやしたらクリス嬢はからかえやせんよ」


 それも事実だ。


「おっぱいないよー!」


「うむ。神様は残酷でやすね」


 胸が安値。


「お兄ちゃんも神様ー」


「小生の場合は何というか……」


 唯一神と比較する対象ではない。


 八百万の神だ。


 最近は中々手が回らないが。


 千人殺して千五百人生む。


 その契約の元、日本神話は成立した。


 今は少子高齢化時代。


 神様にも思うところの…………それは、一つや二つはあるもので。


「なんだかなぁ」


 アリスの、シルクのような白い髪を撫でながら、意識を人間社会に於ける神の有り様について考える照ノ。


 彼としては、「好きにしやせ」が本音ではあれど。


「なんなら他のヒロイン鏖殺しようかー?」


「その場合は小生を敵に回すのでやすが……」


「むむー……」


 呻くアリスだった。


 実際問題、


「神勁なら出来る」


 事が恐ろしい。


「さてどうしやしょ?」


 紅羽織を洗濯籠に埋めて、寝間着に着替える。


 アルトもそれに倣う。


「お兄ちゃんー!」


 アリスの妄言。


「一緒に寝よー?」


「良いでやすよ」


 彼も気負わない。


「一緒に……」


「そこ。妄想を膨らませない」


 風船のようにパチンと割れそうだ。


 アルトの妄想は。


「ところでお酒って美味しいのー?」


「一緒に飲めるようになったら教えやすよ」


 穏やかに笑って、アリスを撫でる。


「じゃあ約束ねー?」


「ええ」


「ところで花火大会があるんだけどー」


「それも勘案しやしょ」


 ソレは事実であった。


 実際の感じ、


「ふむ……」


 アルトとの約束でもある。


「浴衣着たいですー」


「ええ、レンタル出来やすよ」


「お兄ちゃん大好きー」


「小生も好きでやす」


「にゃはー」


 嬉しそうに、アリスは懐いた。

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