アルト公の想う者18


「一応術者は捕まえたって」


「仕事が早いでやすな」


 アルト大公の護衛だ。


 結界内の侵入と、主犯の捕縛は仕事だろう。


 照ノとアルトは裸だった。


 互いに身体を清めて、風呂に入っている。


 全裸での付き合いではあるも……普通に照ノもアルトも自然なこととして付き合っており、なおそれが自然でもあった。


「やっぱり反アルト公派……でやんすか?」


「だそうで」


「にゃる」


 それはまぁそうだろう。


「ご迷惑を」


「掛けられているつもりもないでやすよ」


「本当?」


「きゃわいい!」


 ギュッ、と抱きしめる照ノ。


「あー、アルト公は愛らしいでやすな」


「男……なのに?」


「性別は関係ありやせんよ」


「抱きますか?」


「それは御免被りやす」


「あう……」


 ――何故残念そうなのか?


 怖くて照ノは聞けなかった。


「こうなると、他のヒロインが心配ですね」


「気にするこっちゃござんせん」


 別段手遅れなぞ、照ノに限って有り得ない。


「護衛は付けているのでやしょ?」


「えと、はい」


「であれば大丈夫でやすよ」


「けど万が一があると……」


「その場合は小生が出張りやすんで」


 カラカラと照ノが笑った。


「旧教信者も大変でやすな」


「新教信者も大変ですけど」


「それをいうなら神様も……でやんすなぁ」


 皮肉にしては痛烈だ。


 主に彼自身に。


「世情の安定がなされないのもヨーロッパらしくて同情も覚えやんすが」


「兄様には関係ない」


「いえいえ。愛しいアルト公の笑顔が曇ったら、此方も残念でやす」


「僕が」


「遠慮なんかいりやせんよ。可愛らしく甘えてくる弟分。それがアルト公でやしょ?」


「いい……ので……?」


「らしくないでやんすなぁ」


「照ノ兄様」


 ギュッ、とアルトも抱き返す。


「背徳的でやんすな」


「兄様になら……良いですよ?」


「そっちの趣味はありやせん」


 というかセックスが遠い出来事なのだが。


「照ノ兄様はいっぱい女の人がいらっしゃいますものね」


「その言い方は語弊を招くでやんすな」


 苦い笑いだった。


「クリス嬢をからかうのが面白い」


 も事実だ。


 アリス。


 ジル。


 エリス。


 この三人も中々に個性的ではある。


「僕は?」


「兄弟杯でも交しやすか?」


「じゃあ飲みに行きましょう」


「然り、でやすな」


 杯は交さなくとも、酒を飲むのは賛成だった。


「ではその通りに」


 フッ、と抱擁を取り止める。


「やん」


 色っぽい声が響いた。


 アルトのものだ。


「何か?」


「兄様をもっと感じていたい」


「それは恐縮でやすな」


 苦笑を閃かせる照ノ。


 実際問題、アルトの尊貌はありえない。


 美少女すら道を譲るだろう。


 照ノが理性の塊なので、どうにかなってはいるのだが、


「仮に別の男だったら?」


 と仮定すれば、別の意味でどうにかなっている。


 今言うべき事でも無いので、黙っている彼だった。


「花火大会も行きやしょうね」


「僕も良いので?」


「約束でやす」


「デート」


「さて」


 明言はしない。


 惚れられてはいるだろう。


 だからといって、惚れ返す義理も無いものだ。


「ツンデレイヤー効果も彩色には必要でやんすな」


「?」


 南無三宝。


 少なくとも、面白い逸材ではある。


「とりあえず目の前の事を片しやしょう」


「?」


「酒でやんすよ」


「……っ!」


 更にギュッと、アルトは照ノの裸体を抱きしめた。

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