アルト公の想う者16


「くあ」


 朝食を喫茶店で取る照ノだった。


 夏休みに入ったので、自堕落生活だ。


 元より神性に於いては堕落しているも同然だが、それとは別に照ノの人格は結構だらしなく、時間の摩耗性が感じ取れる。


 コーヒーのついでにモーニングセットを注文。


 トーストとハムエッグ。


 中々に美味しかった。


「で、今日は何して遊ぶ!?」


 エリスが鼻息荒く提議する。


「プール」

「プール」

「プール」


 順に、クリス、アリス、アルト。


「にゃむ……」


 照ノはコーヒーを飲みながらうつらうつら。


「……………………」


 エリスが沈黙した。


 まぁ仕方ない。


 カースドブラッド。


 呪われた家系。


 おかげで水に浸れない身で……照ノは『悪魔の実』の呪いと表現したこともあるほどだ。端的に言ってカナヅチ。


「小生が付き合いやすよ」


 ポンポンと、照ノがエリスの頭を叩いた。


「照ノ」


 恋する乙女。


「……………………」

「……………………」

「……………………」


 かしまし娘が不満そうに見やる。


「ふ」


 一笑に付す照ノは、悪党だったろう。


「じゃあプールで」


「さっさーい」


 そんな感じに決まった。


 波のあるプールで、チケットを買って入館。


 泳ぎはしゃぐ面々。


「エリスが泳げないのは……」


「神様のゲッシュですね」


「ソレは聞いたのでやすけど」


「何か?」


「解消しようとは?」


「ふむ」


 しばしおとがいに手を当てて考える彼女。


「最初から〝そういうものだ〟と思えば不条理でもないのですけど」


「どこか座敷童めいていやすね」


「然程でもないんですけど」


 にゃー。


「何なら本家にお邪魔しませんか?」


「宜しいので?」


「屋敷は広いので、四人や五人は普通に歓迎できます」


「おや」


 照ノはキセルをくわえてピコピコ。


 公共施設故に、全域禁煙だ。


「山と川に恵まれた土地で、田舎故の交通の不利を除けば、避暑には最適かと」


「御流様も?」


「山の滝におわします」


「ふぅん?」


「海ではプライベートビーチもありますし」


「何でもござれでやんすな」


「既述の如く、田舎の名家だよ」


「ではお邪魔いたしやしょ」


「本当?」


「ええ。楽しみでやんす」


「なら良かった」


「しかしカナヅチの家系でプライベートビーチを?」


「最近は都市開発が進んでおりまして」


「国政でやすか?」


「えと、まぁ」


「ふぅん?」


 ピコピコ。


 照ノはそれ以上ツッコまなかった。


「照ノ兄様! 涼しくて気持ちいいですよ」


 アルトがはしゃぐ。


 海パンにシャツ姿だ。


 それだけを見れば、女の子でも通りそうな可憐さ。


 正に男の娘。


 ある種のロマン。


「……なんて考えてる?」


「エリス嬢に嘘は吐けやせんな」


「そう言う問題かなぁ」


 深刻にエリスは考え込んだ。


「何はともあれでやんすな」


「クリスとアリス……ジルにアルト……大丈夫?」


「その辺は追々」


 グッグッと屈伸運動。


「ウラキ突貫します」


 プールに飛び込む照ノだった。


 ザブン!


 波が立って、水しぶきが上がる。


「いいなぁ」


 エリスが羨ましげに見つめていた。


 かき氷を食べながら。


「――――――――」


 夏休みは始まったばかり。


 けれど短く感じるのも、また夏休みではあったが。


 南無三。


「御流様……ね」


 話は聞いている。


 真駒家の仕来り。


 結局は運次第。


 されど逃げることは許されなかった。


「生きてる内が花だから……か」


 シャクリとかき氷を咀嚼する。


 ハワイアンブルーが舌下投与された。

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