アルト公の想う者14


「にゃはは~」


 酒に酔って御機嫌のアルト。


 一応飲酒の許される年齢ではあるも、どこか犯罪性を帯びるような外見であるのも確かな事実で……アルトに飲酒を勧めたのも理解あってのことだ。


「魔術はマイノリティでやすな」


 照ノも、顔は赤いが、別段悪酔いもしていない。


 二人揃ってマイノリティだ。


「それにしても……」


 そこで、


「にゃ……」


「ふむ……」


 彼らは機敏に察し得た。


「これはまたクリス嬢に怒られやすな」


「いいんでないですか?」


 良い具合に酔っているアルトである。


 場合によっては酒の残っている現状ではあるも、事実は事実として此処に在り、なお確かにクリスの怒りそうな現状ではある。


 結界だ。


 世界の反転。


 憂き世に出現。


「――――――――」


 怨嗟の声。


 不吉の声。


 憎悪の声。


 何より嫉妬の声だった。


 人間を憎み妬む遠吠え。


「鬼……」


「でやんすなぁ」


 角と牙。


 露出した筋肉。


 腰蓑一枚の姿。


「この場合はセクハラ案件でしょうか?」


「意外と冷静でやすな」


「酒は飲んでも呑まれません」


 パチッとウィンク。


 それがまた絵になる。


 アルトは、そんな男の娘だ。


 普通に考えて脅致には違いないも、なにごとかアルトには脅威を覚える以前の問題であるらしい。


「で、どうしやす?」


「僕は手を出しませんよ」


「では小生が」


 ボッと炎が手に点る。


「――――――――」


 鬼が吠えて、襲ってくる。


「アグニビーム」


 灼熱が閃光となって撃ち出される。


 大腿筋を撃ち貫く。


「――――――――」


 更に吠える鬼。


 筋肉が即時再生して、距離を詰める。


「別段宜しいんでやすけども……」


 丸太にも似た腕が振り下ろされる。


 この場合は身長差だ。


「ふむ」


 照ノは軽々と受け止めた。


「現世に、鬼の定めも、ありしなば、千の風にて、語らうべきや」


「――――――――」


「迦楼羅焔」


 灼熱が、鬼を襲った。


「わお」


 アルトが驚愕した。


 一切の不浄を焼き尽くす……不動明王の持物。


「これにて閉幕」


 灰となった鬼を祈りながら、照ノは炎を引っ込めた。


 紅羽織が翻る。


 まるで灼炎のように盛った。


 一現ひとうつつ


 まるでソを表わすかのように。


「さすがの貫禄です」


「アルト公でも出来たでやしょ?」


「それなりには」


 でも、と追加。


「こんな派手には見送れません」


「世知辛い」


「とは申せども……」


「やり過ぎでやしょうか?」


「何とも判断が付きませんね」


 瞬間、照ノは翻った。


 紅羽織が炎の翼のように広がる。


 仮想聖釘が突き立つ。


「神威装置」


「クリス嬢でやすな」


「またあなたは人の仕事の邪魔をして!」


 お冠なクリスであった。


「よくもまぁ」


 ボッと炎を点す。


 まず魔法防御を貫かない程度だ。


 接触……の瞬間、


「斬」


 一瞬で、斬撃が奔った。


 閃光と焦熱を伴っている。


「これは!」


 クリスとしても、確かに知っているだろう。


 伝説に語り継がれる剣くらい。


「アルト大公……何故此処に?」


「照ノ兄様に会いたかったからですよ?」


 殊更……ソレ以外の理由が見当たらない、アルトではあった。


 赤い月が黄金に変色する。


 結界の崩壊。


「とりあえずはまぁ小生の手柄という事で」


 そこはそれで、収まった。

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