アルト公の想う者07
「照ノ! 照ノ! てーるーのーっ!」
「ううん」
「電撃」
バチバチと電気が襲う。
「――――――――」
悲鳴を上げて、意識も上げる……というか電撃を喰らって安穏と眠れる人間がいるならそっちの方が嘘だろう。
「おはよう照ノ!」
爽やかな声。
爽やかな顔。
爽やかな笑みだった。
エリスだ。
「あー……」
なるほど、と。
「そう言えば泊まり申しやしたね」
「ええ」
穏やかにエリスが頷いた。
「やってることは非人道的でやすが」
「まっこと慚愧の念に堪えません」
清々しく仰る事。
彼女の本心だろう。
雷電の
「それより今日は終業式ですよ」
明日から夏休みだ。
「そんな時期でやすか」
鳥の巣頭をボリボリと掻く。
彼をして、「金田一耕助に似ている」と言わしめる一端だ。風呂嫌いではないが、世捨て人のような……というよりソレそのものな生き方は、あらゆる意味で天常照ノの奔放性を具現していた。
「では朝食と参りましょ」
そんなこんなで何時も如し。
教会に顔を出す。
「ハロー」
ジルが、輸血パックを吸っていた。
ストローで。
「あら照ノちゃん。それにアリスちゃんとエリスちゃんも」
「おはようございます」
「おはよー」
「……おはようございます」
かしまし娘はそう挨拶した。
クリスが若干不機嫌だ。
理由は分かっている。
が、照ノは彼女の感情を斟酌しなかった。
そもそもそんな配慮を必要とするなら、照ノとクリスの関係は不穏の一言ですまされるだろうし、クリス自身も全力で殺し適うだろう。
そうでないから平和を謳歌している照ノであるも。
「それで今日の朝ご飯は?」
「こいつはぬけぬけと……!」
「何か?」
「…………っ」
ジャキッと仮想聖釘が具現される。
「待ってクリスちゃん」
仲裁に入ったのは、マリアだった。
この場で照ノと同一に、最も冷静な人物だろう。
照ノの場合は無関心。
マリアの場合は優しさ。
その違いはあれど。
然れども、二人の安穏は在る意味で共通であり、クリスへのストッパーという安全弁の要約でもあった。
「やはりクリス嬢は愛らしいでやすな」
くっくと彼の笑う。
「殺していいですか?」
「不可能なのはクリスちゃんも知ってるでしょ」
「しかし!」
「いいから」
押さえ込むような……封印にも似た言葉。
「めっ」
デコピン。
「あうっ」
それだけでクリスは無力化される。
「むぐぅ」
不満そうなクリスであった。
ソレを無視して、マリアは照ノを見る。
「今日はトーストとコンソメスープよ。サラダ付き」
「ご配慮感謝に絶えません」
「いいのよ。お隣さんでしょ」
「まこと気宇も乳房も大きいでやすな」
「褒め言葉と受け取っておきましょう」
「まず以て本音でやんす」
カラカラと照ノは笑う。
「クリス嬢も見習っておっぱいをでやすなぁ」
「後で殺します」
『今』
ではないところは、良心の一欠けか。
「なんにせよ夏休みだよ!」
ここでエリスが空気を払拭した。
「だねー。夏休みデビューだよー!」
アリスも乗っかる。
「暑いのは苦手でやすなぁ」
今は教会にもクーラーが効いている。
「そだ。うちに泊まりに来ない? 屋敷広いから幾らでも入れるよ?」
「そなんでやんすか?」
「海も山もあるし。田舎だけどプライベートビーチもあったり」
「ほほう」
キラリと光る、彼の瞳。
「でもこの季節って」
クリスティナが憂慮した。
「あー、でやすな」
「何か?」
「なんでもございやせん」
殊更秘密主義でもないが、
「説明が面倒」
も照ノとクリスの胸の内には存在した。
「夏でやすなぁ」
窓から日差しを浴びて、照ノが呟く。
「僕には嫌な時期だよ」
日除けの場所を確保して、ジルが輸血パックをズズズと吸っていた。すぐに結界たるレッドムーンに引っ込むにしても。
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