エレクトロキネシス15


「むー」


 クリスは不機嫌そうだ。


 夜も夜。


 ――此処にいたって、新たな商売敵が出来れば面白くないだろう。


 とは照ノの勘違い。


 それ以前に論理の破綻が目見新しいも……珍しいわけではなく……その点において照ノは理性的だ。


「しかし僕の他にね……」


 吸血鬼。


 ジルが辟易するのもしょうがない。


「ま、鬼が鬼を呼ぶわけでやすな」


 照ノは魔術でタバコに火を点けていた。


 紫煙を吐く。


「事実なの? クリス?」


「ええ、まぁ」


 碧眼がギラギラ光っていた。


「それはそれは」


 輸血パックの血を吸いながら、ジルは苦笑していた。


「吸血鬼って吸血鬼?」


 エリスが首を傾げていた。


 たしかに馴染み深いようでいて、胡散臭い都市伝説だ。


「然りだよー」


 アリスは平然とした物だ。


「吸血鬼……ね……」


 しみじみとエリス。


「威力使徒は先んじなくても?」


 そうでなくともクリスは業が深い。


「照ノと出会うそうで」


「それは何と言うべきか」


 苦笑するより、他になし。


 事実、照ノは知っていた。


 吸血鬼のねぐらを。


 聖ゲオルギウス学院だ。


「皮肉かな?」


 とはジルの感想だった。


 敷地内に入ると、


「――――――――」


 ドクンと心臓が跳ねる。


 驚きとは別事象で。


「結界でやすな」


「結界……」


 エリスが驚く。


 一瞬で反転。


 結界内に侵入する。


 赤い月。


 ルナティックとも呼べる、鬼の原風景だった。


「それじゃあ僕はこの辺で」


 これから起こる殺戮劇に、付き合う必要を感じないのだろう。


 自己結界に潜むジルだった。


 残ったのは、照ノ、クリス、アリス、エリスだ。


「さて」


「結界はここだけですか?」


「でやんすな。そちらの方が仕組んだのでは?」


 この都市の竜穴に、学院を構えたのは、たしかに教会協会だ。


「とはいえこうもあっさり引っかかる……と」


「どちらにせよ出し抜きはさせませんよ」


「そんなつもりもないでやんすが……」


 赤い月に見下ろされ、あまりに静かな夜の凪。


「風情があってよろしい」


 照ノは「明鏡止水」と書かれた扇子を広げて扇いだ。


「どうやって探します?」


「血の臭いに釣られて、向こうから出るでやんしょ」


「……………………」


 役立たず、とまではクリスも言わなかった。


 学院は広い。


 幼稚舎から大学院まであるのだ。


 必要な面積は、膨大で、こと人の想念が集まる場所とも言える。


「とりあえずは……まぁ……」


 パチンとフィンガースナップ。


 瞬間、


「――――――――!」


 かしまし娘が絶句した。


 学院が、まるごと発火したのだ。


 主に建物。


 観葉植物から、何も無い校庭に至るまで。


「これは……お父様の時の……」


 アリスは知っている。


 照ノの浸食結界。


 名を『炎の庭』。


 結界そのものにクラッキングを掛けて、自分の領土としてしまう、異世界の上書きだ。


 炎が明かりと鳴り、闇を照らす。


 炯々と光る暴力は、ただソレだけで、神々しい。


「さて……では……」


 ――参りやしょうか。


 は発せられなかった。


 一瞬の半分。


 刹那の刹那。


 いきなり現われた意識体の襲撃を、軽やかに照ノは躱して見せた。


 空中に踊る形で。


「何が起きたのか?」


 覚っているのは、照ノと襲撃者だけだろう。


 後は襲撃者の背後か。


 フッと気配が消える。


「逃がしやせんがね」


 照ノの目は、既に隠形鬼を覚っていた。


 忍びの根源となった存在。


「藤原か」


 さすがに日本歴が長い。


 朝廷への反逆の意味合いでなら、照ノの方が先輩だった。


 ソレに対して……何の自慢にもならないことを、照ノ自身が痛烈に思い知ってはいても……である。

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