エレクトロキネシス16
「――――――――」
闇夜の中。
さらに深い闇を纏う鬼。
吸血鬼でこそ無いも、その厄介さはかなり上位に位置する。
追おうとするより早く、颶風が吹き荒れた。
突発的に彼を吹き飛ばす。
「照ノ!」
クリスが叫んだ。
悲鳴に近いが、本人は認めたくないところだろう。攻性的に一瞬で意識をすり替える……この技術は威力使徒ならではだ。
間半髪で仮想聖釘を具現する。
アリスは
次に現われたのは、洪水だ。
まるでダムが決壊したかの如き濁流が、かしまし娘を襲う。
高所を取ろうにも手段がない。
アリスが進んだ。
神勁。
世界調律。
濁流に触れた瞬間、水は全て氷に成り果てた。
「うわお」
師匠であるはずの照ノが、驚く始末。天翔で、体勢を整え、地面に着地する。ソレだけのことが何処か麗しい。
「これは?」
「藤原氏の仕業でやんすな」
「ふじわら」
クリスが知らないのも無理はない。
藤原はともあれ、四鬼はさすがにマイナー過ぎる。
「真逆とは思うたが、やはりきさんか。私の命運も此処までと」
人の声がした。
それも理性的な。
「
フルネームで呼んだのは、若い大和人。
好印象の青年だった。
「?」
困惑する照ノ。
――どうやら向こう方は、照ノを知っているらしい。
とまで察し、照ノの再認には引っかからない……無論、無理なからぬ事ではあって、普通に照ノの背景は調べれば分かる。
炎の庭の中。
三柱の鬼が、青年の周りを固めていた。
「加護の装束。仮想聖釘。神威装置か。無粋な」
今度は、月夜から、少年の声が聞こえる。
変声前のソレだ。
「まさかこんな客を相手取るとはな。世界の執拗さにも呆れ果てるばかりだ」
「せめて顔を見せやせんか?」
照ノはタバコに火を点けて、紫煙を吸う。
フーッと吐いて、言葉を続ける。
「それとも隠れておきたい理由がありやす? 神威装置が動くことは知っていらっしゃのでやしょう? 今更になって臆しやしたか?」
「安い挑発だ」
夜空から、少年の声が降り注いだ。
背中にはコウモリの翼を背負っている。
吸血鬼。
それも第三真祖だ。
「ルドルフ殿」
青年が少年に声を掛ける。
「お気を付けて。目の前の歌舞伎者は、あるいは威力使徒より厄介ですよ」
「失礼な言い草を」
とはいえ事実の一側面ではある。
「無力に震え不遜に恐るる子らにこそどうか奇跡を。開かれる武器庫は闘争のためにかと、かくあらず。ただ矮小なるこの身に主の栄光をだけ欲するなれば、祈り捧ぐように魔女を滅すること覚えたり」
クリスは、躊躇いもしなかった。
アクセスキーを作りだし、空間に鍵を突き刺す。
虚空に現われた剣の柄を握り、空間の透明性から引き摺り出した。
十メートルを超える刀身。
『
竜殺しの神剣。
アスカロンだ。
「セカンドヴァンパイア。聖ゲオルギウスの御名に於いて、聖殺します」
「アスカロン――!」
ヴァンパイア……ルドルフが絶句した。
まさか鍵持ちの威力使徒とは思わなかったのだろう。
だが言ってしまえば、過小評価のツケだ。
「殺す!」
殺意爛々と。
「このワーカホリックさえ無ければ、いい女でやすのに」
「手出し無用に願います」
「言われずとも……その余裕はありやせんよ」
照ノは皮肉気に笑った。
藤原の四鬼。
とても加減できる相手ではない。
「射!」
超質量のアスカロンを、教鞭の様に振るって、クリスは吸血鬼に襲いかかった。
それらを風景として捉え、
「藤原も地に落ちやしたな」
「なに。第二の人生という奴だ」
ククッと、青年は笑う。
皮肉気な口の端には、吸血の牙が。
吸血鬼化の証だ。
「小生を知っているようで?」
「ええ、お目に掛かったことが」
意外と照ノは顔が広い。
教会協会ですら、意見を無視できない存在だ。
「どうも。此方は藤原遠野と申す者。ま、忘れてくださって結構ですけどね」
穏やかに笑う。
「ふじわらの……とおの……」
――どこかで聞いた名だ。
それが照ノの印象だった。
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