エレクトロキネシス14


「あらあらまぁまぁ」


 シスターマリアは綻んだ。


 破顔とも言える。


「どうも! 真駒エリスでっす!」


 ピッと敬礼。


「新しい魔術師さん?」


「しかもクリス嬢と違っておっぱい大きいでやす」


 仮想聖釘。


 ヒョイ。


「乳如母性」と書かれた扇子をパンと開く。


 仮想聖釘。


 ヒョイ。


 いつもの漫才。


「まさかこんな短期間で」


 愕然とクリスは評した。


 たしかに一般人指標なら、有り得ない上達だ。


「それで仮想聖釘を」


 エリスの方は、クリスの仮想聖釘を珍しげに見やっていた。


「あはは。物騒だね」


 ジルも夜なので加わっている。


 今は教会での夕餉だ。


 照ノとアリスは何時もの如し。


 今回は其処に、エリスが加わっていた。


「なるほど雷帝閣下か。これは覚えよくして貰わないと」


 とはジルの弁。


 たしかに、その才能と威力は無視できない。


 エレクトロキネシス。


 雷電の速度は音より速い。


 光速ほどではないが、それでも一瞬の意味では……あるいは人間には区別が付くまい。


「さほどですかね?」


 右手を掲げる。


 パチパチと、雷電が纏っていた。


「魔術師がまた一人……」


 威力使徒には看過敵わないのだろう。


 別段、気にする面々でもないが。


 そも照ノからして、常軌を逸している。


 ジルに至っては、魔導災害だ。


 御本人は、チューと輸血パックの血を吸っているが……それはそれとして、無害の象徴でもあった。


 今日の夕飯はカレーだった。


 人数分の米は炊かれている。


 ついでにパンもテーブルに置かれていた。


「乳如母性」と書かれた扇子を閉じて懐に仕舞う照ノ。


「それで無乳さん」


 仮想聖釘。


 ヒョイ。


「ムニュッとしたおっぱいさんと言いたかったんでやんすが」


「殺す!」


「ダメよ」


 マリアが掣肘した。


「しかし!」


「殺さず謀らず偽らず……よ」


「おっぱいの勝利……」


「ぐ……う……!」


 クリスは彼を殺したくて仕方ないらしい。


 無理な相談だが。


 あくまで仮想聖釘が無力化するのは、二次変換の防御のみだ。


 事後完結する事象には、威力は働かない。


 照ノの概燃は、後出しジャンケンなので、どうしてもイニシアチブは照ノの方に傾くのが自然と言えた。


「照ノはそれでいいの?」


「今更でやんすなぁ」


 そこはむしろ悟りに近い。


「反転戦隊ツンデレンジャーのツンデレゴールドには何時もこんな感じでやす。殊更に怯える必要もございやせん」


「何ですか! その不名誉は!」


「ツンデリズムのレンジャーでやすが?」


「ツンデレじゃありません!」


「またまたぁ」


 何を今更。


 仮想聖釘。


 ヒョイと避ける。


「夫婦漫才?」


「そう見えやす?」


「えと、幾度も繰り返したんだろうな……程度は」


「然りでやんす」


「貴方が死ねば何の問題もありません!」


「無理筋でやんすなぁ」


 それもまた動かしがたい事実。


「それではいただきやす」


 カレーだ。


 各々、信仰する神性に祈る。


「さて」


 照ノが問題を提起する。


「今宵はどうしやす?」


「……………………」


 クリスが沈黙した。


 大凡の把握はしたのだろう。


 その程度は彼も読み取れる。


「?」


 エリスは分かっていなかった。


「何か?」


「以夷制夷……でやんすよ」


「あー……」


 察したようだ。


「ま、別段拒否するならそれもよござんすが」


「ううん。やるよ」


「那辺にて?」


「えと……秘密!」


 口元に人差し指を立てる。


「ようがす。承りましょう」


 それが照ノの答えだった。


「なんだかな~」


 アリスがポツリとつぶやいた。

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