エレクトロキネシス05


「ふい」


 シスターマリアの夕餉を食し、風呂に入って、寝るばかり。


 冷房はガンガンに効かせていた。


 俗人の証拠だが、


「暑い」


「寒い」


 は照ノの苦手とするところ。


 スマホが唄った。


 ラインだ。


 既にIDは交換してある。


「エレクトロキネシスとかどう?」


 とは、エリスのコメント。


「宜しいんではなかろうか」


 照ノもラインで返した。


 エレクトロキネシス。


 発電能力とでも訳すべきか。


 神話でこそないものの、パワーイメージとしては悪くなく、現覚次第では応用性も高次に位置づけられる。


「電気で宜しいので?」


「最近読んだ本で、格好良いなって思った」


 ――まぁ確かに魔術に物理的根拠は必要ござらんが……。


 そこはあえてツッコまない。


 現覚の定理から言えば、「その気になれる」方が、効率は良いだろう。


 クリス……その背後の神威装置の是非は勘案に値するが、


「ま、いいでやすな」


 照ノがいるので今更だ。


「それにしても雷神でやすか」


 蛇を想起させる。


 それは、金星にとっても、無視能わず。


「しかし何処かしら壊れてはいやしたな」


「何がー?」


 白い髪にドライヤーを当てながらアリス。


「エリス嬢でやんす」


「んー?」


「魔術を自然体で受け取れる……というのは中々出来ることではないでやしょ?」


「それはー……そうだねー……」


「何かあるのかないのか」


「考えるだけ無駄じゃない~?」


「それも事実でやんしょ」


 サラリと受け流す。


「また女子おなごを増やしたのかい?」


 これは吸血鬼の言葉だ。


 輸血パックにストローを刺して、チューと飲んでいた。


 ジルベルト=アンジブースト。


 知り合いからは「ジル」と呼ばれている。


 セカンドヴァンパイアと呼ばれる特級戦力で、ついでに言えば魔導災害の種とも表現できる。


 第三真祖アルカードの眷属。


 その特性の最大値は、血を吸った人間を同族に変える能力にある。


 ヴァンパイアインフレーション。


 教会協会が、在る意味で、特級事項に候補とする災害。


 吸血鬼の倍々計算による増殖。


 日本なら、まだ大丈夫と言える。


 されどインフラのないヨーロッパの辺鄙な土地などでは、一夜で村人が全員ヴァンパイアと化し、日の出とともに全滅する……と言う現象も珍しくはない。


 疫病と呼べる深刻さだ。


 ドラゴンと悪魔に次いで、脅威とされるわけが此処にあった。


 閑話休題。


 その驚異的なヴァンパイア……ジルではあるが、本人は善良そのもの。


 吸血は、輸血パックで補給している。


 人の血を吸うのは、


「相手が敵対したときのみ」


 とゲッシュを背負っている。


 魔術的……ではなく契約書の範囲で。


 照ノの部屋。


 その隣には、大きな教会。


 クリスとマリアの生活空間だ。


 もちろん、ジルが暴走したら、真っ先に滅ぼしに掛かる戦力。


 あくまで照ノが協会に顔が利くため、どうにか鎮静している難問でもあった。


「少し弟子をとってね」


 その脅威に、苦笑を返す照ノ。


 弟子というかアドバイザーのようなものであり、つもりである。


「照ノから直接魔術指導? 安く売ったね」


「商売のつもりもないけど」


 それも事実だ。


「一般人を巻き込むのは良いのかい?」


「さてどうでっしゃろ」


 軽やかに躱すステップ。


「お兄ちゃんはー、神秘の秘匿にー……」


 半眼のアリス。


 たしかに二次変換は秘匿性が限りなく高い。


 基本的に神秘と呼ばれる項目に分類される技術で在り、なお自我崩壊への因子の一つとも言えるのだ。


「御本人がお望みでやすんで」


 結局そこに帰結する。


「結界を張った方が宜しいのでは?」


「それはありえますねー」


 浸食結界、


「炎の庭」


 ある種の、嫌がらせだ。


「僕のレッドムーンでもいいんだけど」


「とりあえずはまぁ……」


 現覚の規制を突破するところからだ。


「それに定期試験もありやすし」


「お化けには学校も勉強もなかろうけど」


「でやんすな」


「アリスもー」


 人ではある。


 ただ「怪物でない」とは言えない。


 アダムカドモン。


 在る意味で、ヴァンパイア以上に、一神教に喧嘩を売っている位置取りだ。


 此方も、照ノが調停していた。


 ――そが何者為るや?


 は自然の運びだ。


「誠意と誠実が説得の材料でやすよ」


 とはいうものの、それで上手く運ぶなら、戦争は無いわけで。

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