エレクトロキネシス06


「くあ」


 呑気な欠伸。


 背伸びをする。


 暑い最中も登校義務はあり……なお学生としては学校に逆らえないわけで。


「まず小生は何故学生をしているんでやんしょ?」


 とは真っ当な照ノの疑問で、次いでクリス……クリスティナ=アン=カイザーガットマンの意向だ。


 それにしても、何がどうの。


「暑い……」


 他に言い様もなかった。


「要するに強度の問題かなー?」


 アリスは興味深げだ。


 熱を操作するのは照ノの十八番。


 親和性を加味するなら、たしかに変ではある。


 御本人は、自重しているだけなのだが、そこまでの真摯さをアリスとクリスが理解していないというのも人望の失墜に繋がる。


「鍛え方が足りません」


 クリスが、もっともらしく述べる。


「鉄の女め」


「せい」


 回し踵蹴りが照ノを襲った。


 吹っ飛ばされる。


「今日は白でやすか」


 その回し蹴りの対価に、照ノはクリスの下着をバッチリ見ていた。


「変態」


「暴行魔に言われても」


 言ってしまえば、どっちもどっち。


「てーるーのっ!」


 そこに更に女子が加味される。


 鴉色の髪と瞳。


 肉体は美しく、なお熟れて。


 着ている私服は、夏らしい爽やかな物だ。


 在る意味で浮いていた。


 しかしソレは、彼女のせいではない。


 喪服に紅羽織の照ノ。


 カソックのクリス。


 白のワンピに白羽織のアリス。


 この三者三様が、突出しすぎなのだ。


 純然にいって、彼女……エリスの私服は、正しく可憐だった。


「うーん。目の保養」


 照ノは、そんな風にエリスを褒めた。


「えへへ。可愛い?」


「満点でやんす」


「……………………」


「……………………」


 クリスとアリスの半眼。


 気にする照ノでもない。


 この程度を斟酌しているのなら、既に照ノは胃潰瘍で死んでいる。


 不貞不貞しい。


 あるいは図々しいか。


 面の皮の厚さは、照ノの長所にして短所だった。


「それにしてもおはようさんでやす」


「うん。おはよう!」


 快活な笑顔。


 体感気温が上がる、太陽を思わせる爽やかさ。


「美少女でやすなぁ」


「えへへぇ」


 やんやんと照れるエリス。


「惚れた?」


「そこまでは」


 それもまた照ニズム。


「勉強は捗りやしたか?」


「色々とねぇ~。照ノは?」


「そこそこに」


 言葉を濁したのにもワケはある。


「しかし胡散臭くは感じやせんので?」


「魔法使い……魔術師だっけ?」


「でやす」


 一般論では詐欺の一形態だ。


 オカルトは容易に詐欺に結びつくので、その点の留意は促すモノの、ハッキリ言って照ノには説得力がない。


 そもソレがあることは照ノが証明し、


「既に見てるし」


 夢ではなく……とはエリスの述べるところ。


「あははぁ」


 何故笑ったのか。


「?」


 それは照ノさえ察せなかった。


「それでそれで。照ノはパイロキネシスト?」


「あながち間違ってもいやせんな」


 定義としては、その部類に入るだろう。


 まず以て、「その程度の表現で追いつかないレベル」ではあれども。


 一現ひとうつつ


 事象を限定することで、複数のパワーイメージを並列する、魔術界に於ける裏技。


 その異能は、既に、「太陽系を滅ぼせるレベル」まで達している。


 意味がないので、滅ぼす気も無いにしても。


 照ノ。


 天常照ノあまつてるの


 彼にとって浮世は娯楽だ。


 炎の庭。


 基本として、


「華やかなりし人の業」


 が先に立つ。


「さてそれで」


 とは思いもしよう。


 此度の出会いが何なのか?


「テスト近いよね~」


「でやしょうな」


 魔術そのものは特秘事項だ。


 別段、


「神秘を秘匿しろ」


 とは倭人神職会はお触れも出していないものの、


「鬼は鬼を呼ぶ」


 は確かにある。


 その意味でなら、照ノの判断は間違えていた。

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