エレクトロキネシス04


 放課後は、部活にも入っていないので、照ノはサラリと帰宅の準備に入る。


 ここで友達に誘われないのが照ノの孤立を証明する物であったろうが、御本人はあまり気にもしない。


「照ノ!」


 そこにまたしてもエリス。


 ニコニコ笑顔だ。


 快活で友達も多そうな快活女子なのに、何の因果か照ノに懐いたらしい。


「……………………」

「……………………」


 碧と白の視線が刺さる刺さる。


「はい。エリス。なんでござんしょ?」


「特別指導をして?」




「「「「「――――――――」」」」」




 あまりの爆弾発言に、クラスメイトに沈黙が伝播した。


 ――特別指導?


 ――男女で?


 ――でも天常さんってカイザーガットマンさんやアリスちゃんとも……。


「ああ、期末テストでやすね。構いやせんよ」


 ――調子を合わせろ。


 黒眼で促す。


 同色の瞳は、了解を示した。


 ただし少し悪戯っぽく。


「……………………」


 照ノは、くわえているキセルを、ピコピコ上下させる。


 殆ど癖のような物だ。


 おしゃぶり代わりにくわえており、悩むと上下する。


「では図書館にでも参りましょうか」


「学内? 学外?」


「学内で宜しいでやしょ」


 サラリと。


「照ノ?」


「お兄ちゃんー?」


 クリスとアリスが、ジト目だった。


「そうも嫉妬されると愛らしいでやんすな」


「くっ」


 自重の一言……さすがにクラスメイトの注目の中で、仮想聖釘を具現化する肝は無いらしい。


 照ノにとっては天佑だ。


「クリス嬢とアリス嬢もご一緒召されるか?」


 パン、と「万事歓迎」と書かれた扇子を広げて扇ぐ。


「テスト勉強をするんですか?」


「それも必要でやしょうな」


 嘘ではない。


 殊更、照ノには必要ないが、大凡の生徒はテスト前に勉強する物だ。


「図書館なら空調も利いてやすでしょ」


「否定はしませんが……」


「ねぇねぇ」


 ここでエリス。


「何でしょう?」


「クリスって呼んで良い?」


「構いませんよ。では私はエリス……と」


「うん! じゃあ! 友達だね!」


「よろしく御願いします」


「恋敵?」


「誰に惚れているかにもよりますけど……」


「照ノ!」


「有り得ません」


「にしては登下校一緒だよね?」


「お隣さんなので」


「本当?」


「然りでやんすな」


 照ノとしては、クリスに一定の興味を寄せているが。


 ミステリアスにも劣らない魅力を持ったツンデリアスは、少女の形而上的レッテルとしては十全に機能する。


「にしても」


 パン、と扇子を閉じて懐へ。


「クリスにアリスにエリスときやしたか。とっちらかりそうでやんす」


「あはは。だね!」


 エリスは、笑い飛ばした。


 そんな感じで図書館へ。


 テスト前もあって、幾人かの生徒はいた。


 照ノたち四人は、個室の一部を借りて、占有する。


「それで要件は?」


「まほー」


「でやんすか」


 昨夜の失態の件だ。


「バレましたの?」


「それなりに」


 クリスの胡乱げな瞳。


 照ノは弁解しなかった。一般的に魔術は神秘だが、別にもらしちゃいけないわけでもない。結界を構築して行なうモノだから、単純に広まらないというのも事実。


「結局どういう理屈なの?」


「殊にあげつらう物でもありやせんが……」


 一次変換、二次変換、三次変換について語る。


 魔術はその中でも、二次変換に分類される。


 情報。


 意味。


 要するに、


「形而上を形而下に変換する」


 その手段を指して、魔術と呼ぶ。


「ふーん。ほーん」


 納得したのかしていないのか。


「私にも出来る?」


「可不可なら可と答えましょうぞ」


「やた!」


 グッとガッツポーズ。


 よほど魔術に魅入られたらしい。


 珍しいことではないので、三人の魔術師は、責めることも自重を促すことも、この場ではしなかった。


「魔術って何でも出来るの?」


「可能性としては……でやすね」


 加えたキセルを、ピコピコと上下に揺らす照ノだった。

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