エレクトロキネシス02


「しかれども、夏の暑さは、変わらずや」


「太陽神が、どうにかしない?」


 情緒のない上の句に、身も蓋もない下の句が続いた。


 ちなみに……出来るならとうにやっている。


 然れど今の照ノは金星神だ。


「天照大神が絶好調となると……」


「スサノオ?」


「それが一番妥当でやすな」


 サラリと、照ノは述べた。


 食の力を持つトリックスターにして、天照を封じ込めた悪神。


 知り合いではある。


 ただ、この程度で借りは作りたくない。


 ソレも事実。


「暑い……」


「ですねー」


 季節は夏真っ盛り。


 太陽自体は単なる天体で、そこを根本的に地球の運営に必要と知っていても、小鳥に大鳥の志は分からないわけで。


「修行が足りません」


 クリスの方は涼やかだった。


 黒に近いオックスフォードグレーのカソックを着ながら、汗もかいていない。


「超人だ。超人がおる」


「照ノが言いますか……」


 一応、人間性なら、クリスの方が妥当ではある。


 照ノは、ぶっちゃければ二次変換の産物だ。


 神の性質。


 性質と言うより、神そのもの……神性の具現だ。


 天常照ノあまつてるの


 であるから、二次変換も容易に使える。


 それこそ偏った『力在る想像モード』ではあるが、その破滅性と有益性は、在る意味で大和の力の偏重の根幹にも当たる。


 皮肉屋ではあれど、悪神ではあれど、基本的に事なかれ主義で、自分から迷惑の種をまくことはない。


「存在そのものが迷惑」


 とは、とあるツンデリーナの論評だが。


 話変わって、


「んーと……」


 アリスの方は疑似神経を展開していた。


 こんなところでも魔術の訓練。


「こっちが引き算でー……こっちが割り算ー?」


 まこと我が道を行く。


「やれやれでやんす」


 夏には夏のうたがある。


 夏の風に、紅の羽織をはためかせていると、


「あーまーつーさんっ!」


 女子が照ノに抱き付いた。


 学内。


 聖ゲオルギウス学院の学門でのことだ。


「???」


 困惑の照ノ。


「「……………………」」


 沈黙の彼女ら。


「照ノ凄い!」


「何が?」


 そも少女が誰なのか?


 それすら照ノは把握していない。


「えへへぇ」


 抱きしめて、匂いを擦りつける女子はワンコ属性なのか……快く懐いてしまった小動物を思わせた。


「どなたでござんしょ?」


「ええー……」


 女子は不満げだ。


「知らないの?」


「多聞にして」


 そこは図々しいらしい。


 照ノらしいと言えばその通り。


「昨夜助けられたよ?」


「昨夜……」


 赤鬼を退治したときの事だ。


「憶えていやせん」


「えー……」


 またしても女子の不満げな声。


「ていうか私を知らなかったり?」


「それはまぁ」


「クラスメイトなんだけど……」


「それは初耳」


 実際問題、学内に友達がいない身では、どうにもこうにも……学友と青春を楽しむという観念すら存在し得ない。


「それで昨夜の事だけど!」


「てい」


 チョップ。


 言葉を止める。


「黙秘でやんす」


「何で?」


「二次変換は秘匿事項でやして」


「二次変換?」


 そこから知らないらしい。


 無理もないが。


 一般人に、魔術師の常識を説く方が、間違っている。


「それで何か?」


「仲良くしよ?」


 ズガピシャーン!


 形而上で雷が落ちた。


 主にクリスとアリスの頭上。


 青天の霹靂とはよく言った物で、まさに痺れて脳信号が混乱する。


「へぇ」


 ちなみに照ノは平常運転。


「友人は少ないので、構いやしやせんが」


「やっほい。魔法使ってたよね?」


「でやすね」


 今更隠してもしょうがない。


 声量は低く抑えめを要求した。


「もしかして魔法使い?」


「広義的には」


 単なる定義の問題だ。


「私も使える?」


「努力如何で」


「わはー」


 朗らかに、彼女は笑った。


「で、きさんは誰で?」


「真駒エリス。照ノのクラスメイトだよ? んー、まぁ天常さんは歌舞伎者だから、こっちが知られてなくとも無理ないか」


 要するにぼっちだ。


 ツンデレ・ツンデラー・ツンデリストを極めた御仁は、どちらかと云えば定義的には商売敵。


 少なくとも一方はそう主張する。


「世界は神秘で溢れている」


 赤鬼に襲われ、あわやというところで助けられた少女。


 これが照ノとエリスの邂逅だった。


 正確には二次的な。

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