エレクトロキネシス01


「むにゃ……」


「お兄ちゃんー」


「むにゅう……」


「てい」


 中指一本拳人中打ち。


 ――(注意)普通は死にます。


「何するでやんす……」


 照ノは、平然と流した。


 シャツと下着姿で、起き上がる。


 クーラーが、ガンガンに利いており、涼やかなりし室内で、どちらかと云えば内部の気候は春初めに近い。


 対照的に外気温は三十度を超える。


 夏真っ盛りだった。


「学校ー」


「行かなくとも宜しいでやんす」


「クリスさんにも言えるー?」


「あー……」


 ソレを持ち出されると、弱い照ノである。


 鳥の巣頭を、ガシガシと掻く。


「あとアリスの魔術訓練だよー」


「そちらはまぁ」


 神勁について、教えているところだ。


「シスターマリアの朝ご飯~」


「それは食べなければなりやせんな」


 しぶしぶ、照ノは起きた。


 シスターマリアは、威力的でこそないものの、人格としてはかなり高い完成度を誇っており、威力使徒より扱いにくい御仁だ。


 なにより食客の身では頭も上がらない。


「やれやれでやす」


 喪服姿になって、口にキセルをくわえる。


 朝食前なので、火は点けない。


 おしゃぶり代わりだ。


「失礼」


「しまーすー」


 二人は教会のダイニングに顔を出した。


 住んでいるボロアパートの隣だ。


 そこは教会協会の所有物で、威力使徒のねぐらでもあった。


「厚かましい」


 金髪碧眼の美少女が吐き捨てる。


 カソックを着た女の子だ。


 クリスティナ=アン=カイザーガットマン。


 教会協会の保有する戦力……神威装置に所属する威力使徒だ。


 その投擲する釘は、あらゆる魔術防御を無効化し、対象を刺し貫く。


 幻想生物殺しの第一手であり、あらゆる不浄の天敵とも呼べる、あまりにあまりなエクスターミネーターと呼べるだろう。


「シスターマリアの御飯は美味しいので」


 サラリと照ノは躱す。


「あら。嬉しい事言ってくれるわね」


 穏やかな声が響いた。


 照ノでもアリスでもクリスでもない。


 ポワポワした声の、イタリア美人。


 シスターマリアだ。


「おはようでやんす」


「おはようですー」


「はい。おはようございます。朝食できたから食べていって」


「感謝」


「多謝ー」


 二人は、いつも通りだ。


「アリスちゃんは、二次変換の方はどう?」


「まだまだー」


「でやんすな」


 朝食のサンドイッチを食べながら、そんな会話。


「マリアは外法を是とするのですか?」


「それは……しょうがないんじゃない?」


「アダムカドモンですよ? こちらで保護すべきです!」


「けれど既に照ノちゃんの管轄だから……」


 その通りだ。


 照ノは教会協会と話をつけ、既にアリスの所有権を勝ち取っていた。


 顔が広いと、こう言うときに役に立つ。


「……………………」


 御本人はサンドイッチを食す。


「けど本当に照ノちゃんって何者?」


「それなりに歳は取っておりますので」


 他に言い様もない。


 ハムリ。


「昨夜の鬼狩りも、先手を取られましたし……」


「クリス嬢の情報が遅いだけでやす」


 仮想聖釘。


 ヒョイと避ける。


「情報弱者」と書かれた扇子をパンと開き、そよそよと扇ぐ。


「暴力を一神教は許すので?」


「異教徒相手なら」


「業の深い……」


「貴方が言いますか!」


「小生だからこそ言いやすよ」


 それも確かな真実。


「情報弱者」と書かれた扇子をパンと閉じて、懐に仕舞う。


「この議論は放棄しやしょう。既に何度も繰り返していやすんで」


 サンドイッチをはむり。


 オレンジジュースを飲む。


「美味しいでやすな。シスターマリア」


「あら。光栄ね」


 朗らかに彼女は笑った。


「良いお嫁さんになれるでやす」


「主に操を誓ってるからね」


「もったいのう」


「クリスちゃんに言ってあげて」


「ツンデリスちゃんは、頭が固いので」


 仮想聖釘。


 ヒョイ。


「攻撃性の短絡な事よ」


「貴女がソレを言いますか!」


「似たような質疑は終えておりやす由」


 ――今更だ。


 照ノはそう述べた。

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