そは堕天する人の業08


「パパ。パパ」


「へぇへ。わかっていやすよ」


 風呂上り。


 照ノは、喪服を着て、紅の羽織を纏い、口にキセルをくわえた。


 アリスもまた、白いワンピに白い羽織。


 紅白コンビの出来上がりである。


 照ノは、懐から刻みタバコを取り出すと、魔術で火を点ける。


 プカプカと紫煙を吸いながら、部屋を出た。


「パパ!」


 漸く部屋から出てきたところに、トリスが出迎えた。


「準備は終わりやした。では行きやしょうか。トリス嬢……アリス嬢……」


「うん」


「だね」


 それぞれに頷くトリスとアリス。


「ちなみにクリス嬢とジル嬢は?」


「先にプライドタワーに行きましたよ?」


「でやすか」


 プカプカ。


 そして三人は、天高くそびえる宇宙エレベータ……プライドタワーへと向かう。


「ところで」


 とこれはトリス。


「宇宙で魔術は使えるのでしょうか?」


「え? 使えない可能性があるのかい?」


「パパ?」


「師匠?」


「さぁてねぇ」


 彼は、マイペースにタバコを吸っている。


「小生には問題でやすがトリス嬢とアリス嬢には関係無い案件かと」


「なんでわかるの?」


「二次変換はクオリアに依存しやす」


「うん」


「だね」


「である以上、知的生命体が、どんな環境にいようと問題はないかと」


「宇宙でもミカエルは降霊憑依できるってこと?」


「確実とは言えやせんが……」


「アリスの神勁もかい?」


「確証なぞありやせんが……」


「何でパパは駄目なの?」


「小生は二次変換存在でやすんで」


 そんな意味不明な言葉を放つ。


「?」


「?」


 クネリ、と首を傾げるトリスとアリス。


 意味不明だったのだろう。


 言葉足らずな照ノにも、原因はあるが。


「色々としがらみ抱えているんでやんすよ小生も」


 くっくと笑う。


「パパはたまにわからないね」


「同意」


「ミステリアスボーイと呼んでくれやっせ」


 紫煙を吐きながら、照ノは無感動に言った。


「宇宙かぁ」


 宇宙エレベータの建設によって、地表と宇宙との境界線は、限りなく薄くなった。


 二十二世紀も、もう間近。


 人類は地球と云う揺り籠から、少しずつ脱し始めていた。


 もっとも照ノにしてみれば、


「今更か」


 というのが本音だが。


「輝く」


 の意味を持つ、


香香背男かかぜお


 の神性たる照ノには、そらとは舞台だ。


 宇宙の資源を手に入れんとする人類の趨勢をとやかく言える立場ではないが、元より天体とは舞台を輝かす役者に過ぎない。


 明の明星。


 宵の明星。


 そを属性として持つのだから。


 本来なら、


「太陽」


 を属性と持つはずだが、


「まぁよかれ」


 と照ノは気にしていない。


 太陽神。


 その座を奪われた悪しき天津神あまつかみ


 それが照ノであるのだから。


 紫煙を吸ってフーッと吐く。


 ゆらゆらと煙が天へと立ち上る。


「宇宙でデートとか出来ますかね?」


 これはトリス。


「宇宙服を身につけたらキスの一つも出来ゃしやせん」


 まっこと正論だが夢が無い。


「これだから師匠は……」


 とは、言葉にはせねども、視線で語るアリス。


「今は予約でいっぱいだけど、いつか空いたら……」


「空いたら?」


「一緒に宇宙に行きませんか。パパ?」


「愛娘の頼みなら」


 さりげない一言に、


「むぅ」


 トリスが渋い顔をする。


「何でやす?」


「ふんだ……! パパの鈍感……」


「でやすかぁ」


 全てを理解して、この発言なのだから救い様が無い。


「師匠?」


「アリスも?」


「然りだよ」


「でっか」


 照ノはタバコをプカプカ。


 プライドタワーはもうそこだった。

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