最凶の荒神VS最恐の妖怪07

「や。これは天常。奇遇じゃのう」


 知己と云うからには、照ノは、ソイツを知っていた。


 ブラックシルクにも例えられる、黒髪のロングストレート。


 派手で煌びやかな十二単じゅうにひとえ


 芸術に例えて例えきれない……生半ならぬ美貌。


 何より十二単からこぼれ出る、金色の九つ尾が、その存在を雄弁に語っていた。


 白面金毛九尾はくめんこんもうきゅうびきつね


 名を玉藻たまもという霊狐である。


 インド、中国、日本にて悪事を働いた……世界でも類を見ないほどに破壊規模の大きい化生。


 妖怪の最終段階。


 それが玉藻御前たまもごぜんだった。


「あーっと……」


 照ノは、言葉を選んでいた。


 痛むこめかみを押さえて言う。


「なして玉藻が?」


 当然の質問だろう。


 アルトアイゼンが参加するのは、異端の一神教として当然ではあるが、玉藻は単なる霊狐である。


「なにゆえ」


 訝しがる照ノが、当然と云える。


「や」


 気さくに玉藻御前は言う。


「暇潰しにちょうど良いかなとのう」


 天至と天罰の魔術のどちらかに肩入れするらしい。


 それがアルトアイゼンのフォローだというのなら、天罰にこそ興味を割いているのだろう。


 そこまではわかっても、それ以降は理解不能だ。


「どういうことでやんす?」


「ひ・み・つ」


 キラリとウィンクして、すっ呆ける玉藻御前。


「さて」


 玉藻御前が言う。


「とりあえずきさんの魔術錠を解くところから始めようかのぅ」


「好きにしてくれ」


 照ノにしてみれば、どちらでも構いはしないのだ。


 ほとんど義理人情で参加しているだけである。


「というわけで」


 玉藻御前が言う。


「魔術錠を解け」


 無茶を。


「クライアントの要望に応えるのが昨今の魔術師事情故」


 照ノは肩をすくめた。


「給料分は働く」


 と照ノは言ったのだ。


「ふむ」


 と玉藻御前が思案する。


「それは死に対してなお勝るものか?」


「小生においてはね」


 脅しにも屈しない。


「それで?」


 今度は照ノが問う。


「そちらの……」


 とアルトアイゼンの魔術師だろう人間をキセルで指して、


「魔術師たちは何でやしょ?」


 そう言う。


「ああ、気にしなくても良かろう」


 玉藻御前は淡白だ。


「単に天罰魔術を望んでいるだけだ」


 空々しい。


 そんなことは馬鹿でもわかる。


 一神教の異端。


 結社『アルトアイゼン』。


 そに仕える者たちは鉄と錆とを共にする。


 魔術の類ではあろうが、


「鉄を素にする」


 ということは、


「アルトアイゼン」


 なんて結社名からも感じ取れる。


「少なくとも倭人神職会の味方ではなさそうでやすな」


「ではどうする?」


 挑発的に玉藻御前が問う。


「退場してもらいやす」


 照ノの言も明快だ。


 面の皮が厚いというか、


「敵なら敵だ」


 という簡潔な認識ゆえだが。


「まぁ待ちねぇ」


 玉藻御前は懐柔策に出た。


「何か?」


 照ノが問う。


 それからスーッと紫煙を吸う。


 吸った紫煙を吐いたところで玉藻御前が言う。


「おんしには与り知らぬ事柄であろう?」


「…………」


 沈黙。


「まぁ否定はしやせんがね」


 後に肯定。


「であればアルトアイゼンが何をしようと問題あるまい?」


「給料の関係上それは聞けやせんな」


「ではわらわと敵対するのも給料の内と?」


「…………」


 そうであるには違いないが、


「何ゆえ玉藻と敵対すべきなのだろう?」


 という不条理に対する疑問もある。


 何せ玉藻御前は一国を滅ぼせる戦力だ。


 少なくとも、


「敵対は面白くない」


 というソロバンを弾くくらいには面倒事である。


「天常」


 玉藻御前が呼ぶ。


「何でやすか?」


 照ノが答える。


「引いてはもらえまいか?」


「無理」


 間髪いれなかった。


 それ故に結論はすぐに出た。

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