最凶の荒神VS最恐の妖怪06
「ふんっ!」
クリスも、そっぽを向いて、魔術錠を解きに戻る。
聖書を読みながらアレコレと意見を出し合う親子を、微笑ましげに見て喫煙。
そんな照ノの元に、ピコピコと人形が自立し歩いてきた。
紙人形だ。
立体ではなく平面。
ペラペラの紙一枚を、人型に切ったらこうなるだろう……という外見だ。
「おやまぁ式神とは……」
照ノは、紙人形の存在を言い当てた。
まぁ魔術に精通する者なら、わからないはずもなかろうが。
西洋の分類では『使い魔』に分類されるが正中しているわけではない。
とはいえ基本的には術者の意思に従って動き、身の回りの世話から戦闘の代替まで幅広くこなすことが出来るため『陰陽道の使い魔』とも呼ばれる。
照ノも、神秘存在の顕現と云う形で、使い魔を作ることは出来るが、それとはまた少し毛色が違うというものだった。
「
どう考えても声帯をもっていない薄紙の式神が喋った。
喋った……というより「術者の思念を空気の振動に変換した」という方が正確ではあるのだが。
「何でやしょ?」
照ノにしてみれば、当然の感覚だ。
いちいち式神程度の発声に驚いていては、身が持たない。
「A地点に来てください。問題が発生しました」
A地点は照ノの居るD地点の対称に位置する魔術錠の設置場所だ。
六芒星を描く六頂点の一角。
「へぇ。まぁ行けと仰るなら行きやすがね」
フーッと煙を吐いて、カランコロンと下駄を鳴らして、照ノは先導する式神についていった。
「照ノ? 何処に行くのです?」
「ちと渡世の義理を果たしに」
くっくと笑う。
「師匠? アリスは?」
「いりやせんよ。一緒に小生の魔術錠でも解いてやさい」
カランコロンと、その場を離れる。
月夜の明かりに、曼珠沙華の紅の羽織をはためかせ、紫煙を吸って吐く。
倭人神職会において照ノと云う存在は、ジョーカーだ。
本来あってはならないモノ。
当然である。
仏教や陰陽道が黙認されているとはいえ、基本的に倭人神職会は、神道の組織である。
そして……照ノは神道における悪神。
日本最古のテロリスト。
無論、政治的意味はある。
悪神が
これ故に、畏れ多くも、ある種の権威を引き立てる材料として、照ノは倭人神職会に付き従っている。
こういうところは、日本人らしい照ノであった。
くわえたキセルに刻みタバコを詰めて魔術で火を点け再度喫煙。
ピコピコと歩く式神に声をかける。
「問題って何でやしょ?」
「アルトアイゼン……という組織を知っていますか?」
「生憎と」
喫煙しながら肩をすくめる。
「でしょうね。我らもまた初めて知りました故」
「察するに魔術結社でやすか?」
「然りです」
「ふぅん?」
照ノは不思議そうな顔をした。
倭人神職会は、決して大きい組織ではないが、粒が揃っている。
何より倭国でのネットワークは大層なモノだ。
その倭人神職会が照ノに、
「力を貸せ」
という。
面倒事だという感覚は、照ノの中で芽生え始めていた。
「で?」
「とは?」
「小生は何をすれば?」
「アルトアイゼンが此度の陣地取りに参加してきました」
「へぇ」
「それを阻止してもらいたいのです」
「わざわざ小生を呼び出すほどのものでやすか?」
「情けない限りではありますが」
照ノは鳥の巣頭をガシガシと掻いた。
「まぁやれと言われるならやりやすがね」
紫煙を吸って吐く。
「助かります」
式神……その背後にいる術者は安堵の気配を発した。
それほど切羽詰っているのだろう。
「アルトアイゼンとは如何な組織で?」
「一神教のそれではありますが、ぶっちゃけカルト組織ですね」
「カルトね……」
煙を吐くと、キセルを手に持ち、口をへの字に歪める照ノだった。
「ということは天罰魔術を再現しようと?」
「おそらくですが」
「ふぅむ」
再度キセルをくわえる照ノ。
ニコチンを摂取して頭をクリアにする。
プライドタワーを使った天罰魔術の再現。
それはよろしい。
少なくとも結界内で天罰が起こっても、現実世界には影響しない。
「天の御座へと至る」
という魔術を一神教が見過ごせないのは納得だが、
「なにゆえこのタイミングで?」
が、照ノの率直な感想。
唸ってわかるものではないのだが、少し首筋がチリチリする。
そんな照ノであった。
そして、
「ああ」
A地点について納得する照ノ。
そこには見知らぬ(とは言っても神威装置や顔も知らぬ同僚もいるため誰も彼もを知っているわけではないのだが)魔術師たちがいて、
「やれやれ」
さらに知己がいた。
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