ツンデリッター再臨01


「ハッピーバースデートゥーユー!」


 誕生日の祝福が口を揃えて発せられ、一斉にクラッカーが鳴った。


 パンパンと。


 そして飛び出した色紙がクリス……クリスティナ=アン=カイザーガットマンにかけられる。


「いやぁ、めでたいでやんす」


 照ノが言った。


「ママ! 誕生日おめでとう!」


 トリスが言った。


「おめでとうだねクリス」


 アリスが言った。


「おめっとさん」


 ジルが言った。


「ここまでくると嬉しくありませんね」


 金髪碧眼の女性であるクリスは微妙な表情だ。


 照ノの借りているオンボロアパートの隣に、教会が建っている。


 そのダイニングで、クリスティナ=アン=カイザーガットマンの誕生日が祝われていた。


 この場には五人の人間がいる。


 一人は天常照ノ。


 この場で唯一の男であり、先述したようにボサボサ髪にキセルをくわえた剽軽な少年だ。


 一人はトリス=ミカエル=カイザーガットマン。


 クリスを「ママ」と呼んだように、血こそ繋がっていないものの、書類上はクリスティナの娘と相成る。


 が、子どもと云う年齢か……と問われれば微妙なラインである。


 そもそもにして、照ノと同学年同クラスであるため、高校生の年齢である。


 一人はアリス。


 白く長い髪はシルクの様で、アルビノと呼んで差し支えない美少女である。


 外見年齢は照ノとトリスと同じ程度。


 というか、二人のクラスメイトであるため、書類上は同年齢と云うことになっている。


 本質がどうあれ。


 一人はジルベルト=アンジブースト。


 通称ジル。


 銀髪赤眼の美少女。


 男物の喪服のスーツを着込んではいるが、美少女としての価値はいささかも損なわれてなどいない。


 当然見た目の年齢も、照ノとトリスとアリスと同程度。


 最後にクリスティナ=アン=カイザーガットマン。


 金髪碧眼の美貌を持つが、一人だけ年齢が突出している。


 というのも今日は、


「クリスティナの八十歳の誕生日」


 であるからだ。


 年齢の関係上、仕方がないとはいえ、金髪には多少白色が混じり、顔には年齢相応のしわが刻まれている。


 クリスは教会の当主であり、トリスの義理の母であり、高齢者でもあるのだ。


 照ノ、トリス、アリス、ジルが高校生の姿をしているため、老いてしまって八十歳の貫録を持つクリスが浮いている。


「毎年聞いてますよね」


「何をでやんしょ?」


「何で私だけ年老いているのです!」


 そう。


 その通りだった。


 クリスの八十歳の誕生日。


 そして相応の外見(くすんだ金髪や皺の刻まれた顔など)の老人となっているクリスなど知ったことか…………と他の面々は高校二年生辺りの外見を維持していた。


 ちなみにクリスが高校二年生だった時には、照ノもまた同学年のクラスメイトで、アリスも外見年齢は幼女であっても同じくクラスメイトであったし、ジル……ジルベルトも学籍は無くとも若かった。


 で、月日が流れて、すっかり老化したクリスを余所に、照ノとアリスとジルは再度になるが若さを維持してのけているのだ。


 例外として、照ノを「パパ」と、クリスを「ママ」と呼ぶトリスは健全。


 実年齢と身体年齢が同一である。


 元々因果な生まれではあれど、神の祝福を受けて命を授かった子だ。


 トリス=ミカエル=カイザーガットマン。


 ミカエルは洗礼名である。


 一神教の数多い派閥を超えて全体に影響を及ぼす『教会協会』と呼ばれる組織が持つ唯一にして最強戦力たる教会協会神威布教広報特務組織所属異教殲滅本義会設武装士団……通称『神威装置』に所属する使徒である。


 一神教にはいくつかの派閥ごとに暴力組織があるが、その実態は内輪もめと一神教圏の魔女狩りや悪魔祓いに忙しい。


 それは神威装置もそうではあるのだが……神威装置自体は教会協会の影響下にあるため内輪もめや内部の掃除には意図を見出せず、対外的なエクソシズムや魔女狩りや異教排除に精を出している。


 そのため各方面の魔術師や化け物たちからは、恐れを込めて『威力使徒』と呼ばれる。


 あまりに物騒な殺し屋集団ではあるが、トリスに限定するのなら、


「異教徒殲滅すべし」


 との信念は持っていないため、クリス以外の面々にとっては幸運だ。


 威力使徒ではあれどトリスは、持ち前の優しさで、人に害なす存在しか相手にしないため平和主義の集まる此処……クリスの教会の異教徒に殺意を覚えること適わなかった。


 天常照ノあまつてるのについては多少の説明がいる。


 クリスとはある種の幼馴染で過去には聖ゲオルギウス学園の学生同士であった。


 クリスは老いたのに照ノは飄々と青春を謳歌している。


 今は聖ゲオルギウス学園の高等部に所属し、奔放気ままな学生生活を送っているのだった。


 先にも言ったように、時の流れによる老衰を起こしていない。


 と云うのも、天常照ノは、まずして人間ではないのだ。


 そもそも論になるが『天常照ノあまつてるの』は当て字である。


 本名を『天津照神あまつてるのかみ』と呼ばれる日本神話の太陽を神格化した男神であり、日本神話の太陽の女神たる『天照大神あまてらすおおみかみ』と相争って『天津甕星あまつみかぼし』へと堕された日本最古最強最大のテロリストである。


 同じく一神教における最古最強最大のテロリストであるルシフェル……ソレと同じ金星の属性を持つのは皮肉にすぎ、なおかつ過去に対峙および退治した奇妙な因縁があるのも苦笑せざるを得ない事実だった。


 とまれ照ノは(全知全能ではないにしても)神の一柱であるため、老衰と云う概念を持たず、若々しい姿をいつまでも保っていられるのだった。


 クリスとの付き合いは六十年を超えるが、なお変わらぬ若々しさと遊び人じみた皮肉気なオーラは、衰えを知らない。


 ジルの事情は単純だが、言葉を必要とする。


 ジルベルト=アンジブースト。


 銀髪のショートに血のような紅い瞳の美少女だ。


 来ている服は、男物の喪服で、これがアイデンティティとなっている。


 こちらも実年齢と外見年齢が釣り合っていない一例で、クリスとは照ノと同じく六十年以上の付き合いだ。


 では何故こんなにも若々しいかと云えば単純に吸血鬼であるからだ。


 ヴァンパイア。


 人の血を吸う鬼。


 ありとあらゆる化け物の中でも……特に西洋ではドラゴンと悪魔に続く第三位の地位を獲得している悪性である。


 人の血を吸って寿命を延ばす化け物。


 結局血を確保できている間に限り、不老不死を獲得する性質を持つ。


 吸血鬼としてのクラスは、セカンドヴァンパイア。


 祖は第三真祖アルカード……即ちドラキュラ伯爵。


 アルカードの眷属であり、セカンドヴァンパイアと云うことから、当然ドラキュラ伯爵に直接血を吸われた直血ちょっけつの吸血鬼であり、その威力は街一つを滅ぼして余りあるキャパシティの持ち主だ。


 その大きな性質として、


「血を吸った人間を吸血鬼として繁殖させる」


 能力を持ち、ヴァンパイアインフレーション――倍々計算で増えていく吸血鬼の繁殖を指す一種のバイオハザード――の引き金と危惧されているが今のところソレは起こっていない。


 クリスの温情で、輸血パックを提供されており、人を襲う必要が無いため無害な吸血鬼となっているのだ。


 無駄飯ぐらいの居候だがアルカードの眷属としての猛威を振るわない以上、血を吸うだけの女の子に過ぎず、十字架や太陽は苦手だが、その辺りは既に折り合いをつけている。


 最後にアリス。


 とかく真っ白な少女。


 外見年齢はトリスたちと同程度。


 ただしこちらも実年齢はもっと上だ。


 クリスとの付き合いも照ノやジルと同等。


 というのも元よりアリスの寿命は約千年も有り、老化現象も一般人の十分の一であることに起因する。


 アリスはアダムカドモンである。


 唯一神ヤハウェは火を以て天使を作り、土を以て人間を作った。


 その時に使われた土は『赤き土アダマ』と呼ばれ、神代かみよの時代から伝説と云う形で受け継がれている。


 そのアダマの一部が教会協会によって奇跡倉庫に封印されていたのだが、とある魔術師の魔術によるクラッキングで奪われ、それを題材にゴーレム精製法によって造られたのがアダムカドモン……即ちアリスである。


 オリジナルの人間に最も近く、神性を帯びていたアリスではあるが、暁の星事件によって知恵の実に相当する魔術付与を受け、自意識を得てしまい、原罪を背負った人間に成り下がった。


 その後、照ノの降霊魔術によって、全能神に一般人より少しだけ近い……という性質を持ち、それを魔術に昇華することになるが、これについては後述。


 アダムカドモンであったアダムが約千歳生きた通り、同じ製法で生まれたアリスもそれに準ずるため約千年の寿命を持ち、六十数年程度の年月において六、七歳程度の成長しかしておらず、現在女子高生程度の外見年齢というわけだ。

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