エピローグ「問題は片付かず」
「とざい、とーーーざい。クオリアを持たない哲学的ゾンビたるアリスは天常照ノを名乗る魔術師に拾われる。しかし照ノにはツンデリッターことクリスティナ=アン=カイザーガットマンがいた。さらには吸血鬼ジルベルト=アンジブーストまで加わって照ノハーレムは拡大する一方だった。そんな折、馬の骨アリスはお父様ことゲオルク=コルネリウス=アグリッパに連れ去られる。ゲオルクはクリフォトの樹の実とセフィロトの樹の実をアリスに与えて、全知全能の存在を創ろうとする悪徳魔術師だった。アリスを愛するがゆえにゲオルクと戦う照ノ。そして照ノはその愛の力でゲオルクを討ち倒す。こうしてアリスはまた照ノハーレムに戻ってきた。そして照ノとアリスは今結ばれようと……とーざい」
わけのわからないことを言いだした白髪白眼の少女アリスに、
「違います! 誰がツンデリッターですか!」
金髪碧眼の少女クリスが大声で否定し、
「なにゆえ
銀髪紅眼の少女ジルが、ツッコミを入れる。
照ノは自身のアパートの部屋の中で、キセルから煙を吸って吐いて、それから言う。
「しかし奥の深いことじゃないでやすか。知恵の樹の実によってクオリアを得たこと。クオリアを得たことによって二次変換が使えるようになること。つまり二次変換……魔術とはヤハウェの力の一端なのかもしれやせん」
「もしそれが本当だとしたら神の奇跡も魔術も一様にヤハウェの力ってことになるね」
輸血パックの血を吸いながらジルがくつくつと笑うと、言葉を続ける。
「でもさ。僕は、知恵の樹の実が全知を、生命の樹の実が全能を、それぞれ司っていると思っていたんだけどな」
「なるほど。全てを知っても何も能わず。全てを能っても何も知らず。二つ揃って初めてヤハウェの力を手に入れることができる……という理論でやんすな。しかし創世記でもアダムやイブが全知になったとの記述はありやせん」
「そう。それ。知恵の樹の実がクオリアを、引いては二次変換を操る力を得るものだとしたら、生命の樹の実はいったいどういう効果を持つというのよ?」
「これは単なる小生の戯言でやんすが地球そのものを演算できるほどの広域メモリを得るんじゃないかと思っていやす」
「なるほど。それなら二つ揃って全知全能になるね」
得心がいったとばかりそう言うジル。
「そんなことは認められません!」
そう言ってクリスはジャキッと仮想聖釘を構える。
「とざい、とーーーざい。そして照ノとアリスは今結ばれようと……とーざい」
全てを無視して照ノに抱きついてくるアリス。
「照ノ! あなたは! 年端もいかない幼女を手籠めに!」
「待った待った待ったぁ! 小生そんなつもりはありやせん!」
慌ててハンズアップする照ノ。
しかしそんな照ノに抱きついて頬にキスをするアリス。
ゴゴゴゴゴと殺意の波動を垂れ流しにしながらギュッと仮想聖釘を持つ手に力を込めるクリス。
「でやすから小生何もしてないのになにゆえ殺されにゃならんのでやすか!」
「アリスやジルベルトに色目を使った罪です。七つの大罪の一つ、色欲をあなたは犯しました」
「そんなこと言うならクリスティナは七つの大罪の一つ、嫉妬を犯してるよね」
そう言いながらアリス同様ジルもまた照ノに抱きつく。
クリスはわかりやすいくらい真っ赤になった。
「わわわ私は別に嫉妬なんかしてません!」
「なら別にお兄ちゃんがどうしようがいいじゃんー」
「なら別に照ノがどうしようがいいよね」
焦るクリスを横目に、照ノをさらにギュッと抱きしめるアリスとジル。
「ぐえ」
と舌を出して苦しむ照ノ。
「だいたいジルベルト! あなたは神威装置の管理下にあります! もう少し自重した行動をとりなさい! それからアリス! そんな下劣な男に騙されてはなりません!」
「素直に私もお兄ちゃんを抱きしめたいって言えばいいのにー」
「まったくだよ」
照ノを、さらにギュッと抱きしめる、アリスとジル。
「勘弁でやんす」
うんざりとアリスとジルを振りほどく照ノ。
「「ああん」」
と呻いて照ノから引きはがされる彼女ら。
直後、照ノは紅の羽織をはためかせて、壁と床と天井とを蹴って、クリスの投擲する仮想聖釘を避ける。
「そう言えばあまりの状況に聞いてなかったことがありましたね……」
「……せめて仮想聖釘を投げる前にその質問をしてほしかったでやんす」
「ドラゴンブレスをまともに受けて照ノ……何故あなたは生きているのです? それに陰陽術師であるあなたがモードの違う
「あー……それはー……秘密でやんす」
そう言ってウィンクして口元に人差し指を立てる照ノ。
当然仮想聖釘が飛んできた。
それをヒョイヒョイと避けながら照ノが言う。
「そんな些末事よりもっと取り上げにゃならんことがあるんでないでやすか?」
紫煙を吐きながらアリスを見つめる照ノ。
「それは……そうですが……」
仮想聖釘を具現化しながらアリスを見つめるクリス。
「だぁね。教会にしてみれば大問題だもんね」
ジルもまたアリスを見つめる。
三人の視線を受けてアリスが首を傾げる。
「へ……? 私ー……?」
「当然でやんしょ。奇跡倉庫から盗まれたアダマによって創られたアダムカドモン。しかも既に原罪を背負っているとくる。当然教会はなんらかの処置を仕掛けてくるはずでやんす」
「やだよー。私ーお兄ちゃんと離れたくないよー……」
目に涙を浮かべながら、再度、照ノに抱きついてくるアリス。
照ノは、アリスの頭を、ポンポンと叩いて言った。
「ようがす。教会の方には小生が手を打っておいてあげやしょう」
「本当ー?」
「へえ。小生、得が発生しない嘘はつきやせんもんで」
「ありがとうお兄ちゃんー!」
そう言ってアリスは照ノを抱きしめたまま押し倒した。
「ちょっと! アリス……!」
アリスの突然の行動に警戒するクリス。
それは押し倒された照ノも同様だった。
「何をしやすアリス嬢……」
しかしそれらを無視してアリスは言葉を紡ぐ。
「私ね。最初にクオリアを手に入れた時に感じたのは悲しみだったんだよー……」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙する照ノにクリスにジル。
アリスは言葉を続ける。
「私に関わったばかりにお兄ちゃんが殺されて……死んで……お兄ちゃんがもういないって知った時には後悔と絶望と悲哀と寂寥が私の生まれたばかりのクオリアを満たしたのー……」
「アリス嬢……」
「だからねー。もう死なないで……お兄ちゃんー。いくら不死身だからってそんなものに依存しないでー。お兄ちゃんが傷つくと私も傷つくのー。これがクオリアなんだねー。締めつけられるような心の傷がジクジクと私を苛ますのー……。本当に、本当に悲しかったんだからー……!」
「……すみやせんアリス嬢」
謝罪してアリスを抱き返す照ノ。
「ううんー。いいのー。こうやってまたお兄ちゃんと抱きしめあえるから」
「アリス嬢があの時泣いていたのは小生を慮ってのことだったんでやんすね」
「そうだよー。私のせいでお兄ちゃんが死んで……本当に悲しかったんだからー……」
「すみやせんでしたアリス嬢……」
「もういいのー。今、この瞬間が幸せだからー」
そう言って照ノに身を委ねるアリス。
そしてアリスは言った。
「あのねーお兄ちゃんー……」
「なんでやしょ?」
「だーい好きー!」
そう言ってアリスは照ノの唇に自身の唇を重ねた。
「あーっ!」
クリスが驚愕に声を上げる。
「あーっ!」
ジルも驚愕に声を上げる。
そんな悲鳴も気にせずアリスは照ノにキスをし続ける。
これから修羅場が起こる。
それは照ノでなくともわかる決定事項だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます