そは回転する炎の剣03
「……ったく、ひどい目にあったでやんす」
照ノは、ピコピコと、口にくわえたキセルを上下させた。
「あなた……あなた達が誤解されるような行動をとっているのが悪いんです」
時間は放課後。
夕焼けを見ながら、三人は帰路についていた。
「だいたい小生とジル嬢が何をしていてもクリス嬢にもアリス嬢にも関係ないじゃないでやすか……」
「そんなことないもんー。お兄ちゃんのことはアリスの問題だよー」
「なにゆえ?」
「それを乙女から言わせるのは酷ですー」
顔を紅潮させてアリス。
「哲学的ゾンビが何か言ってやす……」
「でもそうしろって命令が脳に届くものー」
「何も感じない輩に嫉妬されてもでやんすなぁ……。それで? クリス嬢はなにゆえ?」
「私は……別にあなたがどうなろうと知ったことじゃありません」
こちらも顔を紅潮させながらクリス。
「ならなんで仮想聖釘を投げやした! 小生殺されかけ損でやんす!」
「べべべ別に死んでないからいいでしょう!」
照ノはニヤリと笑うと、
「正直に言いやせい反転変身ツンデレイダー。嫉妬に狂ったのだと」
「誰がツンデレイダーですか! 誰が!」
クリスは手元に仮想聖釘を具現化すると、照ノ目掛けて投げた。
器用にヒョイヒョイと避ける照ノ。
「では反転合体ツンデレイオスとか……」
「何ですか! その合体ロボみたいな名称は!」
やっぱり仮想聖釘を投げるクリス。
避ける照ノ。
そうやってワイワイガヤガヤと帰っていた三人が、一つの交差点で横断歩道を渡ろうとしたところで、
「「「……っ!」」」
同時の表情がこわばった。それほどの劇的な変化が起こったのだ。
まず空を朱に染めていた夕焼けが無くなった。
代わりに空は、のっぺりとした灰色に染まった。
そんな空に同調するように世界も色を失った。
建築物も植物も色を失い灰色になっていた。
まるでテクスチャを行なう前のモデリングだけされた三次元コンピュータグラフィックの世界だった。
いつのまにか、照ノ達の他に人はいなくなった。
それは車も同様だった。
「結界……!」
クリスが戦慄する。
「初期化結界でやんすな、これは……」
照ノが追従する。
アリスが、照ノの紅の羽織を、クイクイと引っ張る。
「お兄ちゃんー」
「なんでやんす?」
「初期化結界って何ー?」
「結界とは術者の望む世界を現存する宇宙から四次元方向に少しだけずれた場所に作る異空間でやんす。初期化結界とは術者のイメージが反映されていない《ただ作られただけ》の手抜きの結界の事でやんす。たとえばこんな風な……」
照ノはのっぺりとした灰色の風景を見るように、腕を振って、アリスを促した。
「たしかにこの世界には玉藻前の《殺生》やジルさんの《レッドムーン》みたいな術者の意志を感じないねー」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
キセルの火皿に刻み煙草を詰めて、魔術で火をつける照ノ。
スーッと煙を吸ってフーッと吐く。
そして、鬼兼蛇が出た。
「探したぞ……アリス……」
現れたのは壮年の男性だった。
白髪のショートにいかつい顔立ち……そして白いトレンチコートを身に纏っていた。
全身白づくめのたくましい男性が、いつの間にか、照ノ達と間合いを取って立っていた。
「「っ!」」
照ノとクリスは、敵かと身構える。
しかしアリスは、驚愕に目を見開いて、こう言った。
「お父様……」
「「お父様……?」」
照ノとクリスがハモる。
「はいー。見間違えようもありませんー。アリスのお父様ですー」
「とするとそちらの男性……」
「なんだ?」
「そちが新生魔術結社モルゲンシュテルンの社長……ゲオルク=コルネリウス=アグリッパ先生ということでいいんでやんしょか?」
「ほう。知ってもらえているとは光栄だな。しかも先生とくる」
「聞けばかのハインリヒ先生より一つ上のカバラ学者という評判でやんすが」
「然り。私は始祖を超えた」
「では……」
と、そこで照ノは会話を中断させられた。
クリスのハイキックが、照ノに突き刺さったからだ。
「ぎんがなむっ!」
わけのわからない奇声をあげて、背中を丸める照ノ。
それからよろよろと背筋を伸ばして照ノは抗議する。
「何しやすクリス嬢……」
「どういうことです!」
「何が?」
「あいつがモルゲンシュテルンの首領で、あのゲオルクで、アリスのお父様? わけがわかりませんよ!」
「本当にわからないんでやんすか?」
「どういう意味です!」
「でやしたら勉強不足と言わざるをえやせんね」
「ですからどういうことかと……!」
そう問い詰めるクリスに、
「神を創る」
照ノはあっさりとそう言った。
それから視線をクリスからゲオルクに移す照ノ。
「そうでやしょ? ゲオルク先生……」
「すでに悟られているか」
「まぁここまで材料がそろえば気付かない方がどうかしてやす」
そう言う照ノを見て、それからアリスを見て、ゲオルクは言った。
「アリス。共に来い」
「何のためにー?」
「この世に存在しない神を私が創る。お前はそのための贄だ」
「なにを勝手なことを!」
激昂すると、クリスは、仮想聖釘を両手の指の間に八本具現化した。
「主はいます! 主を否定する異教徒が何をほざきます!」
「神などいない。もしいたとしてもそれは唯一神を名乗る
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