そは回転する炎の剣01


「ピピピ! ピピピ! ピピピ!」


 目覚まし時計が鳴る。


「ん……むに……」


 照ノは、寝ぼけながらも、器用に目覚まし時計のアラームを止めて、それから布団にもぐりこんだ。


 しかし、クリスからボディブローをくらって、目を覚ます。


「朝一番から何しやす……」


「早く起きなさい。もう朝ですよ」


「今日はサボりやす……」


「認めません」


 照ノの耳を引っ張るクリス。


 彼は、強制的に立たされた。


 それから周囲を見渡す。


 彼の他に、オックスフォードグレーの修道服を着たクリスと、白いワンピースを着たアリスとがいた。


「あれ? ジル嬢はどうしやした?」


「セカンドヴァンパイアなら結界……《レッドムーン》にこもっていますよ」


「そうでやすか。まぁアルカードの眷属に日光は大敵でやすからな」


 照ノは、洗面所にいくと、冷水で顔を洗って目を覚ます。


 それから照ノとクリスとアリスは、シスターマリアのいる教会の裏口から、ダイニングへと入った。


 ダイニングには先客がいた。


 ジルだ。


「あー、おはよう照ノ。それから威力使徒にアリス……」


 ジルは、輸血パックから、ストローで血を吸い上げながらそう言った。


 クリスが憤慨したように吼える。


「なんであなたがここにいるんです!」


「だってマリアさんがつてで血を補給してくれるって話になったからさ。朝食をとっているところだよ」


 見れば、ダイニングの窓にはカーテンがしてあり、日光を防いでいた。


「あら、クリスちゃんに照ノちゃんにアリスちゃん。朝食、できてるわよ?」


 食パンと目玉焼きと厚切りベーコンを食卓に並べるシスターマリア。


「毎度毎度すみませんなぁ」


 テーブルに着く照ノ。


 しぶしぶといった様子でテーブルに着くクリス。


「わはー、今日も美味しそうですー」


 呑気にそう言ってテーブルに着くアリス。


 それから血を吸うジルと、朝食を食べる照ノとクリスとアリスとシスターマリアで雑談を繰り広げながら、朝食は終わった。


 照ノは、アリスとクリスを連れて、教会の隣のボロアパートに帰ると、着替えを始めた。


 寝巻を脱いでパンツ一丁になると、ワイシャツを着て、黒いスーツのボトムスをはいて、黒いネクタイをする。


 西洋の喪服だ。


 そして照ノ自身のアイデンティティともいえる曼珠沙華の意匠をあしらった紅の羽織を着て、口にキセルをくわえる。


 最後に学生鞄を持つと、ボサボサの黒髪を手で梳きながら言う。


「では、行きやしょうか」


「そうですね」


「はいー」


 こうして照ノとクリスとアリスは、聖ゲオルギウス学園へと足を向けた。


 登校中、始終、彼は注目を集めた。


 なにせ来ているのは紅の羽織だ。


 さらにキセルをくわえている。


 私服登校が可能な学校とはいえ、これでは傾奇者だ。


 それから、もう一つ。


 クリスとアリスを連れているからだ。


 金髪碧眼の超美少女シスターのクリスに、白いロングヘアーに白い肌を持つ超美幼女のアリスを連れているのだ。


 これで注目されない方がおかしい。


 無論、照ノはそんなことを望んではいないのだが。


 聖ゲオルギウス学園につくと照ノ達は高等部の昇降口へと向かう。


 照ノとクリスは靴箱から上履きを取り出して履いたが、アリスは靴箱を開けて凍ってしまった。


「どうしやしたアリス嬢?」


 聞く照ノに、


「えっとねー……お兄ちゃんー……こんなのもらっちゃったー……」


 そう言ってアリスは一通の封筒を照ノに見せた。


「「…………」」


 沈黙する照ノとクリス。


 それから照ノが言う。


「ラブレターでやんすか……」


「に、なるのかなー?」


 首を傾げてアリス。


「まぁアリスは可愛いでやんすからな。ラブレターの一つや二つ、もらってもおかしくないでやんす」


「わわわ、私ももらいますよ?」


 アリスに対抗してだろう、そう言うクリス。


「ツンデリズムの場合もう既にいくつもの男を撃沈させてきてるでやんすから。」


「誰がツンデリズムですか! 誰が!」


 そう言って、人目があるからだろう……仮想聖釘ではなくハイキックを照ノに見舞うクリス。


「ぶっ!」


 靴箱に顔面をぶつける照ノ。


 それらをスルーしてアリスが呟く。


「これー、どうしましょー? アリスはお兄ちゃんが好きだから否としか答えられないのにー」


「可愛いでやんすな。このこの……」


 アリスを猫かわいがりする照ノ。


 今度こそ、ジャキッと仮想聖釘を構えるクリス。


「冗談でやんす。別にいいじゃないでやすか。可愛がることぐらい」


「異教徒に可愛がられてもアリスにプラスになりません!」


「そんなことないよー。アリスー、お兄ちゃんに抱きしめられると心があったかくなるんだー」


 うっとりと言うアリスに、クリスが彼女の両肩を揺らして熱弁する。


「騙されないでくださいアリス! 照ノは主の御心に反する異教徒です! そんな奴に心を開いてはなりません!」


「そんなこと言ってー、クリスさんもまんざらじゃないくせにー」


 そう言って悪戯っぽく笑うアリスに、クリスは顔を真っ赤にした。


「なななっ!」


 あからさまに狼狽するクリスをスルーして、照ノとアリスは封筒の中に入っていた手紙を取り出して読む。


「昼休みに屋上際の階段の踊り場で待つ……でやんすか。こりゃラブレターでやんすな」


「昼休みにそこに行けばいいのー」


「そういうことでやんす」


 コクリと頷く照ノ。


 そして、


「わわわ私はまんざらなんかじゃありません!」


 顔を熟れたトマトのような色にしてクリスがそう叫んだ。


「「反応遅っ!」」


 照ノとアリスが、言葉を重ねた。

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