お初婆ちゃんの詐欺撃退法

 僕には凄く頼もしいお婆ちゃんが居る。名前は初枝っていうんだけど、みんなは親しみを込めて、お初婆ちゃんて呼んでいるんだ。


 なにが頼もしいかって?


 では、いくつか紹介しようと思う。オレオレ詐欺や振り込め詐欺の撃退の仕方が凄いんだ。迫真の演技っていうのはこういうのを言うんだろうなって、僕なんか感心しきりさ。ま、思い出しながら書いていくんで、読みづらいかも知れないけど読んでみてくれ。


 先日もこんなことがあったんだ。それは僕が夏休みで家にいた時の事。午後一時くらいだったかなぁ。うちの電話が鳴ったんだ。うちの電話は、お初婆ちゃんが最初に取ることになっているんだ。


何故かって?


それは親父に言わせると、いつも取ることによって、脳が刺激され認知症予防になるってことだけど、果たして・・・?


 ま、でもお初婆ちゃんは結構楽しんでるみたいだし、それはそれで良いのかも知れない。


 あ、そうそう。話を元に戻そう。で、お初婆ちゃんが電話に出たわけ。


「もしもし」

《婆ちゃん俺だよ俺》

「高志かい、どうしたの急に」

《実はさ、会社の金使い込んじゃって、今日明日中に埋め合わせしとかないと、俺、会社クビになっちゃうんだ》

「あらあら、それは大変だねぇ。で、いくら必要なんだい」

《三百万なんだけど、今日の三時までに会社の上司の口座に振り込んでほしいんだ》

「ちょっと待ってちょうだい。高志ちゃん、あなたが会社のお金を使い込んじゃったんだって、お金を振り込んでって言ってるんだけど、どうしようか」


 そう、高志というのは僕の名前。僕は大きな声で「警察に相談しよう」と言ってやった。すると、電話は直ぐに切れた。


 そりゃそうだよな。なりすましていたつもりが、本人がいたなんてことになれば、向こうは慌てて電話を切るに決まってる。


 そうそう、こんなこともあった。お初婆ちゃんがに実験したいからって、ボイスレコーダーに母さんの声を録音してたんだ。その声は「どうしたんですか、お母さん」と、これだけだった。


 だけど、効果覿面こうかてきめん。オレオレ詐欺の電話中にその声を少し大きめに流すだけで、みんな電話を切っちゃうんだ。


 お初婆ちゃん曰く。


 オレオレ詐欺師は年寄が一人でいるのを狙ってるんだから、一人じゃないと思ったら騙せないと思って電話を切るんだそうだ。


 そうそう、こないだこんなことも有った。社会保険事務所の職員という人から、年金の過払い分が還付されますって、電話が掛かってきたらしいんだけど、お初婆ちゃんは、「今手が離せないから、書類を送ってちょうだい」って言って電話を切っちゃったらしいんだ。


 電話の向こうでは、「今日中に手続きしないと還付できなくなります」と言ったらしいけど、お初婆ちゃんは怯まずに突っ込みを入れたらしいんだ。


「お役所仕事は、書類が揃わなきゃ簡単にはお金の操作はできないんじゃないの?それになんの通知もなく突然今日還付するなんて怪しいわね、私の口座番号教えるから、じゃあ今日中に振り込んで頂戴。それができないならこれから社会保険事務所に行きます」


 そう言ったら相手は、書類を送りますって言って電話を切ったらしいんだけど・・・。


 それから何日かして、家族の前で「社会保険事務所から書類が送られてこないんだよ」といって僕にウィンクをしながら不敵にニヤリと笑ったのさ。


 どうだい、凄いだろう。まだまだ、これは序の口なんだけど。お婆ちゃんはいつも口癖のように言ってるよ。


「あれだけ、人を騙すために知恵を働かせるだけの頭脳をもっと人の為に使えばいいのにねぇ」って。


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