招かれざる者
くそっ。何考えてるんだこいつらは。今の若い奴らは一体、俺たちを何だと思ってるんだ。俺たちは本来愛の産物であって、快楽の副産物じゃないんだよ。だというのに奴らはお構いなしに、俺たちを抹殺する。
「畜生!俺たちは虫けらじゃないんだぞ。こうなったら大王に言いつけて痛い目を見せてやる」
俺は、大王の所に行って直訴した。
「閻魔様。私は漸く人として生を受けることができると、喜んでいたのに奴らは軽々しくも、私を堕胎したのです。どうか天罰を与えてください」
「まあまあ、お前も生前の悪行が祟って、五十億年の間、地獄で阿鼻叫喚の苦しみを味わい、その後四億年間、微生物や虫けらとして数十億回の生死を繰り返し、魚類、爬虫類から漸く六千四百万年前に哺乳類まで戻る事ができた命だ。ここで二人を祟れば全てが振り出しに戻り、また同じ期間同じ苦しみを味わうことになる。お前を抹殺した親はしっかりとワシの閻魔帳に記録されておるのだから、安心せよ。そして、決して二人に祟るではないぞ。そうすれば、あと百五十回生まれ変われば、仏に仕えることのできる人間になれるのだから」
「でも、あと百五十回も生まれ変わらねばならないのですか?」
「そうだ、ここからは生まれ落ちた後に悪行は許されん。一つの悪行を成せば、その千倍の善行をなさねばならず、悪行が一つ増えるごとに一つ段階が下がる。即ち凡そ五十の悪行が増えれば、また虫けらに。そこから先は一つの悪行につき一千万年の獄界暮らしが待っている。人に祟るのはその十倍の速さだが、どうするそれでも祟りたいか?」
俺の脳裏には、今まで忘れていたが、ハッキリと阿鼻地獄の苦しみが浮かんできた。時には地獄の炎に焼かれ、死んでもまたすぐに生れ、そしてまた地獄の炎に焼かれる。時には岩の壁に磨り潰され、粉々にされたかと思えば、またすぐに再生し、また磨り潰される。そしてまた時には数十人の獄卒に焼き
「思い出したようだな。梵天との約束は即ち仏の使いとして生きるための約束。その約束を破る事は仏との約束を
俺は息を呑んだ。今度地獄に堕ちたら、本当にいつ出られるか分からない。
「分かりました。今回の話しは此処だけのもの。私は一切の恨みを捨てます。ですから、あの二人にもお計らいを・・・」
「いや、ならぬ。人として生きている限りは、自動的に悪行と善行がワシの閻魔帳に記載されるのだ。ワシはその記述に従って地獄に堕とすか否か、そして獄に繋ぐ期間を裁定するだけなのだ。そこに温情や私情を入れたなら、今度はワシが地獄に堕ちる。天上界の掟は人間界など比べ物にならないほど厳しいのだよ」
「そうなのですね。でも大王は私に温情を掛けてくれた」
「だから、ワシもこの先、沢山の善行と仏との約束を果たしていかなければならないのだ。お前にも最後に教えておこう。生を受けると言うのは、母体に宿ること。即ち今回の一件も、しっかりとカウントされておる。だからあと百四十九回。生まれ変われば仏の使いになれるのだ。人としては招かれざるものだったかもしれないが、逆に罪を犯さずに一回の生まれ変わりができたことを喜びなさい。これで生れ出ていれば、お前は悪行を行っていたかも知れない。まあ、一つ得をしたと思っても良いかもしれないな」
そうか、あと百四十九回か。もしかしたら、そのうちの百回以上が招かれざる者かも知れない。だけど、残りの数十回を招かれるものとして生まれ変われるように、器を持たぬ魂のうちから心がけよう。その為にも恨みや祟りは厳禁だ。俺は自分にそう言い聞かせた。そうすることが仏との約束を守る唯一の方法と信じて・・・。
-END-
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