或る日の出来事~マイナンバー
ここに一人の悩める男がいた。園川隆二。十年前に殺人を犯し、指名手配されている犯罪者だ。彼が一体何を悩んでいるのかというと、それは新しく施行されるマイナンバー制度だ。
現在、彼は名前を小池俊と偽って、N県のとある製造工場で派遣社員として働いている。この十年間の間に、顔も整形し、簡単には園川隆二と気付かれないようにした。
しかし、マイナンバー制度が始まれば、偽名を使っている事がばれてしまい、必然的に今の工場も辞めなければならなくなってしまう。何故ならば、マイナンバーを雇用先に教えなければならないからだ。
当然のことながら、彼の元にはマイナンバーの通知は来ない。そして、地元の郵便局にマイナンバーの通知を取りに行けば、警察に逮捕される危険が付き纏う。そして、もし仮に受け取る段階で逮捕されなかったとしても、雇用先に自分のマイナンバーを提出した段階で、自分の潜伏先を警察に掌握されてしまうことは間違えないだろう。
いずれにしても、逮捕は時間の問題となってしまうのだ。彼が生き残る方法はただ一つ。海外に逃亡することだが、果たしてパスポートの申請をするにも、やはり危険が伴うし、だいいち偽造するにも、その筋のルートを知らない。あとは、今のうちに遠洋漁船にでも乗り込み、そのまま外国に逃亡するかしかない。だが、パスポートを持たなければ、すぐに捕まって送還されるのがオチだろう。
彼は頭の中をフル回転させて、色んなシミュレーションを繰り返した。そんな間にも、彼の意思とは関係なく、時間はどんどんと進んでいく。
「そうだ、無人島で生活するというのはどうだろう」
早速、国内にある無人島を知れべ始めた。彼が探した無人島の条件は、南の島であること、緑があること、そして耕作のできる土地があることだ。
しかし、そのような条件の無人島など探したところで見つかるはずもない。無人島と思しき島は、殆どが絶壁と山しかないような島ばかりだ。
結局、彼は無人島探しを諦めた。
「さて、どうしたものか・・・」
月日は流れ、施行まであと一か月となった頃、新聞紙上には、毎日のように次のような内容の記事が掲載された。
『××年の〇〇市殺人事件の指名手配犯△△自首』
『〇〇年の企業爆破犯人××、N県警に出頭』
言わずもがな、園川隆二もその中に入っていた。
そう、彼らは三食付きで、堂々とマイナンバーを取得できる方法を選んだのだ。死刑にならなければの話だが・・・。
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