万里小路 掌編集

万里小路 頼光

或る日の出来事~第三種接近遭遇

 それはそれは綺麗に晴れ上がった秋の日の夜のこと。私は一機の空飛ぶ円盤が、西の山に着陸するのを見てしまった。


 好奇心の塊である私は、どうしても実物を見てみたくなり、早速おんぼろの軽自動車を飛ばして円盤が着陸したであろう山を目指した。兎に角急がなければ、また何処かへ飛んで行ってしまうかも知れない。円盤の着陸したであろう所は、気持ちほんのりと明るく、山の輪郭を闇の中に浮き立たせている。恐らく林道を抜けていけば、かなり近くまで行けるはずだ。


 どの位走っただろうか、五百メートル位先に、その光を認められる場所に車を止めた。ダッシュボードの中から懐中電灯を出し、私は外に出た。恐らくは車の光が近づいたことで、私の存在は気付かれているだろう。ならば、こちらも堂々と振舞ってやろう。


 私は平然と懐中電灯を灯し、円盤に向かって歩を進めた。怖くないと言ったら嘘になる。やはり心なしか足が震えている。これは単に恐怖感だけではなく、ある種の期待感みたいなものも有ったのだと思う。もしかしたら、物凄いパワーを貰えるかもしれない。もしかしたら宇宙旅行に連れて行ってくれるかも知れない。


 そんな、馬鹿げた夢みたいなことを考えていたなんて、恐らく会社の同僚や、友達が聞いたら大笑いされることは間違いない。しかし、今は自分一人なのだから、どんなに現実離れした妄想をしたとしても、許されるだろう。そんなことを考え乍ら、私は円盤と目と鼻の先まで近づいた。


 入り口は何処にあるのだろうか。そう思って円盤の周りを回りながら、眺めていると突然円盤の一部が眩い光を放ち、あまりの眩しさに目を横に反らし薄目で光の中心を凝視すると、なにやら光の中に蠢く黒い生き物を二体確認した。


 果たして、どのような姿の宇宙人なのだろうか。グレイタイプなのか、爬虫類タイプなのか、それともアダムスキーの描いた金星人タイプなのか。兎に角宇宙人の姿を確認しなければ・・・。どうやらグレイタイプのようだ。


 と、その時。突然彼らの声が私の耳に飛び込んできた。


「ワレワレハ、ウチュウジンダ」


 私は思わずコケそうになり、腹を抱え笑い出してしまった。


「お、お前たちは馬鹿か?」

「ウッ・・・。ワレワレヲバカアツカイスルナ」

「何言ってんだ。この円盤とあんた等の姿を見れば、宇宙人だってことくらい誰だってわかるだろう」

「ハァ・・・」

「はぁ・・・。じゃない。自己紹介するなら我々は何処の銀河の何処の星から来た〇〇星人だ。というのが挨拶の仕方だろう。それを何十年以上も前の流行り言葉を使って目の前に現れるなんて、これが笑わずにいられるか」

「イマハ、コノフレーズハ、ハヤラナイノカ?」

「流行らないね。まんず、あんた等の情報収集能力は一体どうなっているんだ」


 二人の宇宙人は何やら二人でコソコソと話をしている。恐らく彼らの星の言語なのだろう。全く意味の分からない聞いたこともない言語だ。そして、相談が終わると、一人が話し始めた。


「ワレワレノウチュウセンノ、ジョウホウシュウシュウソウチガ、コノホシニクルトチュウデコショウシタ。ダカラサイキンノジョウホウガワカラナカッタ」

「おい、あんた等。本当に遠い星からやって来たのか?」

「ドウシテダ?」

「それだけの技術力が有れば、情報収集装置の修理くらい簡単にできるだろう」

「ウッ・・・」

「うっ・・・じゃない。どんな方法で情報を収集しているんだ?」

「チキュウカラナガレテクルデンパヲジュシンシテ、ジョウホウヲアツメテル」

「なんだ、要はラジオじゃないか」

「ソウダ、キミタチノセカイデイウトコロノ、チョウコウセイノウラジオダ」


 なんだラジオが壊れただけの事か。それを直せないのか・・・?本当に宇宙人かよって突っ込みたくなった。


「ラジオで何を学んできたんだ?」

「キミタチノヨロコブコトヲマナンデキタ」

「どんなことだ?」


 すると、もう一人の宇宙人が「コマネチ」となんの身振りもなく声を発した。


「ドウデスカ。オモシロイデショ」

「おい、それはこうするんだ」


 私は身振り付きで彼らに教えてやった。って、なんでこんなことをしてるんだ。それにこんな古いギャグ・・・。


「このギャグは三十年も前に流行ったギャグだろ。こんなの聞いても誰も喜ばないぞ」

「ウッ・・・。ソウナノカ」


「また、詰まってる。いちいちに俺が突っ込む度に詰まるなよ。あんた等テレパシーで俺の考えが分かるんじゃないのか」

「ソ、ソレハ・・・」


 なんなんだこの宇宙人。また二人でゴニョゴニョと相談を始めた。私は段々とイラつきを感じ始めていた。


「あんた等、一体何なんだ。宇宙人なら宇宙人らしく振舞えよ」

「ワレワレハ、ウチュウジンダ」

「だァかァらァ、古いネタはもういいって」

「ス、スイマセン」

「参ったなぁ。ところで本題に入るけど、あんた等一体何しに来たんだ?」

「ソウデシタ。ダイジナヨウケンヲワスレルトコロデシタ。ジツハチキュウジントノツキアイカタヲオシエテホシイノデスガ」

「付き合い方といっても、人それぞれの性格に合わせて、付き合い方も違ってくるし、だいいちあんた等は地球人に変身できるのか?」

「エッ、ヘンシンデスカ?」

「そう、あんた等の姿は地球人が分類するところのグレイタイプ。その姿で街中を歩き回れば、即刻捕えられてエリア51行きだ」

「ソ、ソウデスカ・・・」

「おい、肩を落とすなよ。まだなにか方法は有るはずだから」

「ホントウデスカ?」

「本当ですかって、まるで行き当たりばったりだな。何も考えてないのか?」

「ス、スイマセン・・・」

「ま、いいや。兎に角お互いに連絡を取れる方法を考えよう。あんた等テレパシー交信とかはできないのか?さっきも聞いたけど」

「ハァ、ソレガ・・・」

「はいはい、できないのね」


 科学力も精神レベルも、遥かに進歩した宇宙人を期待していた自分が愚かだった。ま、しかし、考えようによっては愛嬌があって良いのかもしれない。


「兎に角通信方法を考えるか。スマホを使うとしても、地上に降りてこなければ通信できないし・・・」

「ウチュウセンヲトウメイニスルコトハデキマス」

「だったら、スマホを二つ持ってるから、一つ貸してやるよ。透明な宇宙船で地上に降りてきて、スマホで連絡を取る。それでいこう」

「ソレデイコウ」

「おい、分かってるのか」

「ウッ・・・」


 あんまり突っ込みを入れるのも可哀想なので、スマホの使い方を教え、彼らに渡した。


 なんでも、私を円盤に乗船させるには、上層部の許可が必要で、許可が下りれば迎えに来るということなのだ。そして、母船にも連れていってくれるらしい。


 私は一人で行くのは緊張するからと、友達を連れていきたい旨を彼らに伝えた。彼らはそのことについても上層部に話し、結果を近いうちに教えてくれると言ってくれた。


 一週間後。彼らは私に許可が取れたと連絡してきた。私は友人を誘うのに時間が欲しいと言って、一週間の猶予を貰った。その友達は私なんかよりも、宇宙人や空飛ぶ円盤の事に詳しく、私の知識は彼から教わった物が殆どなのだ。彼に今回の話をしたところ、思った通り異常なほどの興味を示し、彼のほうから私に同行したいと言い出したほどだ。


 このことをグレイに伝えると、とても喜んでくれた。そして、再会は私たちの都合に合わせると言ってくれたので、日時を決めた。場所は私の家と彼らが指定してきた。


 いよいよ再会の日。夜中の三時。私の部屋で友でちと二人で待っていると、突然部屋の中が目を開けていられない程の眩い光で満たされた。そして次の瞬間、驚いたことに私達二人は宇宙船の中にいるではないか。


 そして、私達は母船の中へと案内された。どうやら、あの二人が乗ってきたのは偵察船だったらしい。偵察船から外に出ると、数え切れない程の宇宙人たちが、私達を出迎えてくれた。あまりの数の多さに度肝を抜かれ、挨拶しようにも緊張して、誰に向かってすればよいのか、頭の中が真っ白になってしまった。その時、友達が私に挨拶をするようにと促がし、背中を『ドン』と強く叩いた。その瞬間、私は自分自身思いもよらない言葉を発してしまった。






「ワレワレハ、チキュウジンダ」

                           -END-

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