狼少女と羊のプリンス

不二式

第1話

「ねえ知ってるー?今日転校生来るらしいよー。」

 胸まで伸びるゆるゆるふわふわで長い桃色の髪を持つ、身体も柔らかで色々と出っ張っている、むちむちな可愛い系の少女…筒井つつい陽子ようこはそう言いながら、隣にいる青いボブカットの、スレンダーで少し骨ばっているもののスタイルが良くて儚くも美しい輪郭を持つ、綺麗系の少女…笛吹うすい香菜美かなみの下着が今日も白い事を透視で確認していた。

「陽子、何でもいいけどなんで発情気味なわけ?」

 香菜美は陽子のニヤついて息を荒げている顔を見てそう言った。陽子は明らかに狼狽している様子で顔の前で手を振って言った。

「そんな事ないよ?!ここ女子校だもん!香菜美の事そんな目で見てるわけないよ?!」

 香菜美は陽子がそうやって豊満な胸をゆらゆらと揺らす様を見て、自分もこんな風に豊かな稜線を持つ身体だったらなあと嘆息しつつ、教室の変わり映えのしない黒板や机といった品々を見て、最後に自分の顔の映り込んだ窓の、外に見える遠い遠い青空を見て言った。

「別にいいけどさー…陽子がそういう態度の時って、絶対男に飢えてる時だよねー…。」

「ひどくない?それひどくない?」

 陽子は真剣なまなざしでツッコミを入れた。


 ガララッと教室の引き戸を開けながら担任の女教師が入ってきて言った。

「はーい、みんな席に着いてねー。今日は転校生の紹介あるからー。」

(転校生の紹介なかったら席に着かなくてもいいのかよ…。)

 ざわざわとしてツッコミをぼそぼそ呟いたりしながらも席に着いて行く女生徒達。引き戸を開けて戸惑いながら入ってきたのは、背が高くて肩まで届く美しい黒髪を持ち、まるでルビーのように美しい瞳を持つ、息を呑む程の美少女だった。なぜか陽子はキュン、と来てしまった様子で無意識に膝と膝を寄せる。

(私ってやっぱそっちの気があるのかな…。)

 陽子がそんな風に頭の中で悩み始めた頃、その美少女は黒板に名前を書き終えていた。そのまま何も言わずに突っ立っている美少女を見かねてか、女教師が言った。

「…えー、彼女の名前はー…財前ざいぜん孝子たかこ…だ。特殊な事情でこの、超能力者女学園に転校して来たから、まあちょっと初めは人見知りがちかもしれんが…みんな温かく迎えてやってくれよ。」

(特殊な事情がない転校生なんておらんやろ…。)

 ぼそぼそと呟く声が聞こえて女教師が咳払いをする。

 美少女は戸惑っていたものの、戸惑いながら震える声で話し始めた。

「財前…孝子です…よろしくお願いします。」

 パチパチパチという拍手の音。だが陽子はその歳に見合わない程に低い声を聞いて、何気なく普段通りに透視能力を使った事で、ついに自分の違和感の正体が何かを確信し、頬を赤く染めてニヤついて舌なめずりをした。


 一限目が終わるとすぐに、陽子は孝子の周りにたかる女生徒達を押しのけて笑いながら言った。

「もー!みんなー?孝子さん困ってるってー!ちょっと先生からの頼まれ事があってさ!孝子さん連れて行ってくるねー!」

 周りの女生徒達は陽子はいつもの調子だなあと苦笑いしつつ、しぶしぶといった様子で周りから逃げていき、孝子を強引に立たせて言った。

「ほらー!孝子さん!先生からの用事だから!ね?!」

 戸惑い頬を赤らめる孝子の比較的大きな手を握って陽子は走っていく。香菜美はそんな陽子の様子を見て、彼女が能力を使ってあの転校生の何かを突き止めたのでは?と推理し、ニヤつきながらその後を追った。他の生徒は思った。

(やっぱあの二人ってそっちの気があるのかな…。)


 陽子は強引に孝子の手を握ったまま、誰も使っていない埃っぽい階層まで階段を駆け上がると、埃をかぶった第二理科室に入る。長い間使われてなさそうな埃の積もった人体模型や、古ぼけたケースには茶色くシミになったラベルの貼ってある、ガラス瓶の薬品類が鍵をガチリと閉められたまま入っている部屋だ。その後をつけていたノリのまま、こっそりと部屋に入って隠れる香菜美。カチャリと鍵を締める陽子。孝子は戸惑いつつ言った。

「…何のつもりですか…?」

「それはこっちのセリフかもよー…?」

 陽子はトロンとした目つきで孝子のスカートの前辺りをじっとりと見つめながら言った。スカートの前辺りがゆっくり持ち上がる様子を、孝子は恥ずかしそうに両の手で覆い隠して言った。

「ど…どこ見てるんですか…!」

 陽子はにんまりして、はあはあと息を荒げながら孝子の手を押しのけると、指先でスカートの持ち上がった部分をつんつんと触りながら、孝子の目を見つめて言った。

「あなたこそ…なんで女装してるのかな~…?」

 香菜美は声が出そうになるのをすんでのところで食い止めると、その話にさらに聞き耳を立てる。孝子は陽子から距離を取りながら言った。

「…どうして分かったんだ…?」

 陽子は片目を閉じながら得意そうに言った。

「ここはなんていう学校だったっけ?」

 孝子は目を泳がせて口元に手を当てつつ思案しつつ言った。

「超能力者…女学園…。そうか…超能力者…。君は…透視能力者…なのか?」

 陽子はにんまりと笑んで言った。

「ええ…!それとテレパシーも使えるの!こう見えて優秀なんだよー?」

 腰をくねくねしながら迫る陽子。孝子はさらに距離を取りながら言う。

「透視で分かったって事は…見たのか…?」

 陽子は頬を赤らめてうふふ、と笑んで言った。

「ええ…!あなたのそれ…さっきからずっと視えてるわよ…?私に触られて気持ちよくなっちゃって…ぴくぴくって固く大きくなったのも…!私にだけはね…!」

「痴女かよ!」

 思わずツッコミを入れる孝子。逆に言えば孝子は、そうでもしなければ雰囲気に呑まれて、欲望に理性を塗り潰されてしまいそうな、異様な興奮に苛まれていた。香菜美は黙っていられずにそこに出て行って、何かを企むように笑んで言った。

「そう…!なるほどねえ…!あんた男の子だったんだ…?どうして女学校に女装して入ったわけ…?」

 陽子は性的な雰囲気を壊された事でムッとしていたが、香菜美の気迫に押されて黙っていた。

(香菜美こそなんでここにいるわけ…?)

 陽子はムスッとした顔でそう思った。孝子は観念した様子で答えた。

「…父が…そういうアニメやマンガやライトノベルやゲームが好きらしくて…超能力者女学園と聞いて無理やり転校させたんだ…。」

 香菜美は気迫たっぷりに言った。

「変ねー…?ここは教師にも透視能力者がいて、貞操に特に厳しいから教師にすら男性が一人もいなくて、男子禁制も守られてるはずなのに…どうやって入ったわけ…?」

 陽子はそういえば、という様子でハッとして言った。

「確かに…!そうだよ!どうやって入ったの?そういう能力の持ち主?」

 孝子は嘆息して答えた。

「違うよ…ただ単にお金を使っただけだよ…父が…。」

「は?」

「へ?」

 陽子も香菜美も呆気にとられた様子で言った。孝子はカツラを取って、そのあまりにも端正すぎる顔立ちを見せながら言った。

「僕の本当の名前は財前ざいぜん孝太郎こうたろう…石油王…財前家の息子なんだ…。」

「「石油王かよ!!」」

 陽子と香菜美は思わずハモるほど一緒のタイミングでツッコミを入れた。


 三人は予鈴が鳴った事で理科室から戻って授業を受けていたが、陽子と香菜美は明らかに身が入らない様子でそわそわしており、じっと孝太郎を見つめていた。陽子は下腹部の辺りをキュンキュンとさせながら、膝と膝を擦り合わせて息を荒げながらにへへと笑みつつ思った。

(すんごい…イケメンだった…!)

 香菜美はククク、と抑えるように静かに笑って思った。

(ルールさえ捻じ曲げる程の財力を持つ石油王の息子…!彼に気に入られれば一生遊んで暮らせるわ…!)


 授業終わりを伝えるベルが鳴ると、すぐに陽子と香菜美は競うように孝太郎の腕を片方ずつ掴む。

(やっぱあの三人って…。)

 クラスの女生徒達は明らかな好奇の目線を向けてそれを見ていた。

 陽子と香菜美はまた理科室へと孝太郎を連れて駆けて行って、理科室の鍵を締めた。はあはあと息を荒げながら孝太郎が言った。

「さっきから身体に力が上手く入らない…!誰か何かしてるのか…?!」

 香菜美はクククと笑って言った。

「私はサイコキネシスではクラス一の成績を修めているのよ。あんたの身体が男としての腕力を発揮できない程度に押さえつけられるくらいにはねえ!」

「さっきから完全に悪役の口上になってるよね君?!」

 思わずツッコミを入れる孝太郎。陽子は息を荒げながら思った。

(余計な事をするなあ…!それじゃあ孝太郎くんに押し倒して貰えないじゃない…!)

 香菜美は胸のリボンを緩めて清楚な下着を身に着けた胸元を暴くと、机の上に腰かけて細い足を組んで言った。

「…孝太郎くぅん…?あなたさえ良ければ…私の身体を好きにしていいのよぉ…?」

 陽子の透視が孝太郎の盛り上がったスカートの中身への、興奮の伝達による力強い隆起を見抜いて嫉妬の目つきになる。陽子はムッとした表情になると、競うように豊満な胸元を暴いて机に座ってスカートを捲り上げて言う。

「孝太郎くん、香菜美はお金目当てだよ?!私を選んでよぉ!」

 むっちりとした陽子の豊満な身体に孝太郎の目線が奪われる。ムッとした様子で今度は香菜美が孝太郎の腕に抱き着いて言う。

「さっきの見たでしょ?陽子なんて発情魔人よ発情魔人!あんな性欲のケダモノより私を選んでよ!サイコキネシスで最ッ高に気持ちよくしてあげるから…!」

 香菜美のサイコキネシスが何も触れていない孝太郎の、服の中の下半身をなぞりあげて行き、感じた事のない快感が孝太郎の身体に電流のように走り、びくんっと跳ねるように膨張した「それ」が陽子の透視眼に映る。陽子もまた孝太郎のふとももに抱き着き、豊満な胸元でふとももを包むようにしながら、テレパシーで幸太郎の脳に直接語りかける。

『孝太郎くん…ずっと私には視えてるんだよ…?私のおっきくてまんまるな二つのこれを見て興奮して…ぴんっぴんっになってるあなたのそれが…!』

 孝太郎の理性は今にも失われようとしており、破裂しそうな程の興奮の高まりと、自分の意思とは無関係に貞操を犯されようとしている事に、孝太郎は恐怖すら覚えていた。


「孝太郎くぅん…。」

 香菜美が耳元で甘く囁きながら、サイコキネシスで孝太郎の身体の性感帯をなぞりあげていく。

「きゃっ?!」

「あっ?!」

 孝太郎は香菜美のサイコキネシスによる自分の腕力への制限が、愛撫へと意識が傾けられた事で一時的に解けた、一瞬の隙を見逃さずに二人を振りほどいて言った。

「二人共やめてくれ!面倒事は嫌いなんだ!」

 二人はその言葉を聞いてすっと静かになり、陽子も香菜美も寂しそうな様子になった。(余程…嫌われたくないのか…。)

 なんとなく哀れさや若干の愛おしさを感じた孝太郎は思わずこう付け加えた。

「…僕の国はそもそも一夫多妻制だから…その…二人共養えるから…!競う必要も焦る必要もそもそもないんだよ!」

 二人はたちまちパアアっと笑みを浮かべて孝太郎に抱き着いて言った。

「「孝太郎くぅ~ん!!」」


 しかしその話を扉越しに盗み聞きしていた者がスマフォアプリを介して皆に知らせていたらしく、第二理科室の扉が破壊され、大量の女生徒が孝太郎の元へ押し寄せた。

「うわあああああっ!?」

 思わず叫びながら逃げていく孝太郎。しかしその声を聞いて、スマフォアプリで共有された情報を元に学校中から孝太郎へと女生徒が押し寄せてくる。

「「孝太郎くぅ~ん!!」」

「「抱いて~!!」」

「「私も養って~!!」」


 孝太郎は泣きながら叫んだ。

「お金なんて…この顔なんて…容姿なんて…!!大っ嫌いだ~!!」

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