補導

 一人目


「おい、そこのお前。そうお前だよ。何やってんだ。学生は携帯電話の使用は禁止だ。今すぐ渡しなさい」

 電車内で堂々と携帯を取り出して操作していた生徒を目ざとく見つけて男は注意した。

 まさか教師がいたとは、という風な表情をして、相手は渋々携帯を彼に渡した。



 五人目


「こら、学校にそんなものを持ってきたら駄目だ、没収」

 通学路で、音楽を聴いていた生徒を止めて彼は手を突き出した。

 生徒は彼をじっと見詰めたが、やがて諦めたように彼の手に音楽プレーヤーを置いた。



 二十四人目


「そこの君。学校に携帯は持ってきたら駄目だ。ほら、しばらく預かるから」

「なんですか」

「学校に着くまで預かる」

「……着くまで? 本当に?」

「それから親に連絡して、放課後に返そう」

「そんなつもり、ないんでしょう?」

 生徒は反抗する。男は動揺した。

「いくら教師でも私物を取り上げたりはできませんよ。したらいけないはずです。それにさっき東高の生徒にも同じことしてたの、見たんですけど」

 生徒は続ける。

「あなた、先生じゃないですよね」

 そう言われた男は、今まで眉ひとつ動かさなかった顔を歪ませて、笑った。黒いスーツに身を包んだ男。髪は整えられ、服は皺ひとつない。そこからは厳格そうな印象を受ける。

 ただ、彼の持つ鞄は異様なほどに膨らんでいた。

 大量の他人の私物によって。

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