とある嫉妬の話


 女がふいに大きなくしゃみをした。途端に彼女の顔は、羞恥と怒りで一気に赤に染まる。それからもう耐えられないという風に椅子から立ち上がると、夫に向かって怒鳴った。

「また冷蔵庫から幾つか物がなくなってるみたいだけど、いい加減やめてくれないかしら」

「何を?」

 相手はとぼける。だが、女にはお見通しだった。

「またと楽しくお食事してたんでしょう! 私がいない間にうちに入れたことはわかってるんだから!」

「まあ、昨日の一回だけだよ」

「やっぱり入れたんじゃない! 一回だけ? これで何回目だと思っているの? 私は知ってるんですからね――先週も、その前の週もあなたが何をしたか」

 いい加減にして。女はそう叫んだ。男は怯んだようだった。どうやら、そこまでばれているとは思わなかったらしい。

 女は涙を流す。

「もう私のことなんて放っておいて、あいつのとこに行けばいいじゃない!」

 そうして女は部屋にこもってしまった。男はやれやれ、と反省する様子もなくのんびり立ち上がる。

 冷蔵庫からビールの缶と、つまみを取り、一人ふらりと外に出た。

 彼は会いに行くのだ。彼女に別れを告げなければならない。きっと今日も、公園で待っているのだから。


 彼女は、公園のベンチに腰掛けて男を待っていた。自然と男の顔がほころぶ。

「君と別れなくちゃいけない」

 座るなり、男は言った。相手は黙っている。

「許してくれよ。妻にバレちゃったんだ」

 男はビールの缶を開ける。

「でも、勘違いしないでくれ。僕は君のことが大好きだし、忘れるつもりはないんだ」

 これ、受け取ってくれ。と男はつまみを押しやった。彼女は恨めしげに男を見上げる。

「もう、会いに来たりしないでくれ」

 ビールを、もう一口。


「彼女、猫アレルギーなんだ」

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