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それに深浦は彼女が欲しかったのであって、自分よりもゴツい男と付き合いたかったわけではない。
今だって横山の話を真剣に聞きながら一生懸命にメモをとっている。きっと未来の彼女のことを思ってのことだろう。
(ただの友だちとしか思っていなかった男からいきなり好きだと迫られて、早く彼女を作らないとマズイと思ったのか? だからあんなに真剣に横山のアホな話に付き合っているのか……)
負のループとはよく言ったもので、一旦よくない考えに囚われてしまうと、何もかもが悪い方向にしかとれなくなってしまう。
恋は人を臆病にするというのは誰の言葉だっただろうか。
一昔前の少女漫画に出てきそうな言葉だが、相手の一挙手一投足がこれほど気になって、そしてそれに気持ちを振り回されるなんて昭久にとって初めての経験だ。
(深浦……)
昭久はテーブルに突っ伏した格好で、こっそりと深浦のことを盗み見た。
相変わらず深浦は真剣な表情で、時おり「なるほど」と頷きながら横山の話を聞いている。そんな深浦の姿まで昭久には可愛く見えてしまう。
(深浦……そんなに彼女が欲しかったのか……)
ここで相手のことを思うなら自分が身を引くというパターンもある。
だが、あいにく昭久はそんなしおらしい性格ではなかった。
(そうだ。まだ深浦は彼女が欲しいと思っているだけだ。そこら辺の女の子よりも俺を彼氏にした方がどれだけいいかを今のうちにアピールして……)
ちょっと明後日の方向へ昭久が前向きになったその時、思わぬところから爆弾が投下された。
「でもまさか昭久があそこまでしてくれるとは思わなかった」
横山の言葉に何のことだと深浦が首を傾げる。
「直前のメールだったから、どうかなとは思っていたんだが」
「――――あ」
ファーストフード店を出る前に昭久へ送られてきた横山からのメール。
「ちょっ、待て! 横山っ! それは……」
「デートの仕上げとして『次も新田くんとデートがしたいな』と、思ってもらえるような別れかたをする事って昭久へメールをしたんだ」
「え?」
「いやあ、期待以上だった。初めてのデートの最後にああいった告白の仕方はなかなか良いと思う。うん、とても参考になった。腰を引き寄せての告白、それに額へのキス」
さすがは昭久、経験が違うな。うっかり俺もクラッときたぞ。などと腕組みをしてひとり頷く横山。
これではまるで横山からの指示で昭久が深浦へ好きだと告白したようなものだ。
あの時、昭久は深浦が男だとわかっていても、どんな姿であっても深浦のことをとても愛しく思えた。だから好きだと自分の気持ちを伝えたのだ。
「昭久がモテる理由がわかったような気がする。お前の彼女になる女の子は幸せ者だな」
満足そうに笑いながら、横山がとどめを刺す。
一方の昭久は、思わぬところからの爆弾発言に冷や汗が背中を伝うのがわかった。
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