「昭久……おい、昭久!」

「えっ? なに、何か言ったか?」

「全く。昭久、お前、俺の話を聞いていなかっただろう。エロいことでも考えていたのか? 顔が気持ち悪かったぞ」

「エロ……って、だっ、誰がっ」


 深浦をラブホへ連れていったらどんな反応をするのか、ちょっと想像してみただけだ。


(深浦相手にエロいこととか、そんな…………ちょっとは興味あるけど)


 昭久が深浦の方を横目で見る。

 横山と昭久のやり取りを見ていたのだろう、深浦と昭久の目が合った。だが、目が合うやいなや深浦は気まずそうに昭久から視線を外してしまった。


「――――え」


(どういうことだ? 一昨日、俺は深浦に好きだと言って、そして深浦は抵抗しなかった。それってOKだってことだよな? 俺たち付き合うことになったんだよな?)


 と、そこまで考えて、ふいに昭久の動きが止まった。


「……違う」

「昭久? どうした」


(違う。ていうか、俺、深浦から好きとかそういうこと全然言われてない! え……もしかして俺の独りよがり? 深浦は全くそんな気なんてないとか?)


 昭久と違って、どちらかといえば深浦は控えめなタイプだ。

 強引な昭久に深浦は嫌だと言えなかったのかもしれない。


(そういえば、深浦は友情がどうのって……)


 昭久の顔色がなくなる。


「昭久、大丈夫か? 今度は顔色が悪い」

「ごめん、大丈夫」

「そうか。ならいいが。では続きだが、帰りに昭久は深浦の家まで送ったけど、一回目のデートでそこまでしてもいいのか? あれは下手をすると女の子から『家までついて来るなんて……やだっ、彼ったらもしかして体目当てなのっ!?』と、警戒されるんじゃないか?」

「…………」

「昭久」

「ん、ああ……まあ、暗かったし。危ないだろ」

「なるほど、それもそうだ。夜道に女の子をひとりにするのはよくないな」


 横山の言うことにとりあえず相づちは打つが、昭久は横山の話をほとんど聞いていなかった。


(今日、深浦と目が合ってないな)


 というより、昭久は今日はまだ一度も深浦とまともに会話をしていない。


(避けられてる?)


 新しい恋に昭久はすっかり浮かれ気分でいたが、冷静になって考えてみると、友だちとしか思っていなかったやつ(しかも自分と同じ男)からいきなり好きとか言われるなんて困るだけじゃないのか。

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