5
薄く目を開けた視界の先には、深浦が想像していた以上に昭久の顔が近くにあって、あまりの近さに驚いた深浦はようよう開いた目をまたぎゅっと閉じて顔を俯けた。
普通に日常を過ごしていて、他人の顔がこんなに近くにあるなんてことはまずない。ましてや人見知りのきらいがある深浦にとってはなおさらありえないことだ。
一度意識してしまうと昭久の微かな呼吸音さえやたらと気になってしまい、深浦はますます顔を上げることができなくなってしまった。
恋愛スキルはもちろんのこと、対人スキルさえ怪しい深浦には昭久が一体何をしたいのかが全くわからない。
「新田く……、ちょっ、離し……」
密着した体を離そうと深浦が腕を突っぱねる。
だが、深浦の腰に回された昭久の腕はそれを許さないとでもいうように、ぎゅっと深浦の腰を引き寄せた。
「深浦、嫌?」
「…………」
これはどう考えてもただの友人の距離ではない。
本気で抵抗すれば深浦の力でもどうにかできる。それは深浦自身わかっているのに、こうやって昭久とくっついていることが嫌じゃないから本気で昭久を拒むことができないのだ。
「深浦」
肩を竦めて小さくなっている深浦のすぐそばで昭久が囁くように深浦のことを呼んだ。
吐息まじりの昭久の声が深浦の耳元を掠めて、深浦が小さく息を飲む。
「好き」
「…………え?」
昭久の言葉とともに深浦の額へ柔らかな感触があった。
何が起きたのか理解ができないまま、深浦がおずおずと顔を上げる。
「新田、くん……?」
上目使いで見た深浦のすぐ目の前には昭久の顔があって、少し照れたような気まずいような笑顔を浮かべている。
「あの、新田くん。今……」
何をしたの?と聞き終わるのを待たずに、また深浦の体が昭久の力強い腕に包まれた。
「に、新田くんっ? ちょ、あの」
「ごめん。やっぱり顔、見ないで。俺、今絶対に変な顔してるから」
物心ついた頃から周りに女の人の姿が途絶えたことのない昭久。
キスもそれ以上のことも数多く経験してきたというのに、今ほど恥ずかしくてドキドキして、そして相手の顔が見れないほど緊張するのは初めてだ。
「変な顔なんて、そんなことないよ。新田くんはいつだってかっこいい……」
「だから、ダメだって。深浦、お願い。俺が落ち着くまでじっとしてて」
深浦の頭に顎を乗せるようにして、昭久が深浦の体をぎゅっと抱きしめる。
眼鏡が顔に当たって少し痛かったが、昭久の腕の中が思いの外心地よくて、深浦はドキドキと頬に伝わる心音が落ち着くまでじっとしていた。
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