横山のおバカな計画に付き合わされているのは昭久だけではない。

 昭久も半ば無理やり男とデートすることになってしまったが、よくよく考えてみれば、一番の被害者は深浦なのではないのか。


(――だよな。俺はただ、デートに付き合えばいいだけだけど、深浦は女装までしないといけないんだもんな……)


 いくら深浦の格好がものすごく似合っていても、それが深浦本人が望んでしたものではないなら、こんな茶番に付き合わせるのはあまりにも可哀想ではないのか。


(どうする……もう、デートなんか止めるか? いや、でもそうすると、ここまで頑張った深浦の努力を無駄にしてしまうことになるし)


 昭久がもう一度、深浦のことを見た。

 不安げな様子の深浦が昭久の言葉を待っている。


(かわいい…………や、違うだろ! せめて何か言ってやったほうがいいんだよな。似合ってる……? いい感じ? ダメだ。本人が望んであんな格好をしているわけじゃないんだから、褒めるのは逆効果だ)


 結局、昭久に深浦の女装についてのいいコメントは思いつかず、下手に言葉をかけるのはやめて、何でもないことのようにスルーすることにした。

 予想外に深浦が昭久のタイプで、もう少し一緒にいたいと思ったからではない。絶対に違う。


「そ、そういえば横山は? 一緒じゃないのか?」


 今さらだが、ことの元凶である男の姿がないことに昭久が気づき深浦に尋ねた。深浦が少しほっとしたように表情を緩める。


「近くにいるはずなんだけど。さっきまで一緒だったし。自分が一緒だと自然なデートにならないからって、どこかに隠れてるみたいだよ」


 すでに計画の段階で自然なデートではないような気もするが。


「 あ、いた!」


 深浦が改札口横の自動販売機を指差した。

 昭久も深浦の指す方へ顔を向けると、そこにはニット帽を目深に被り、マスク姿で変装らしきものをした横山が、自動販売機にもたれて昭久たちのことをじっと見ている。

 ものすごく怪しい。


「最初はサングラスもかけてたんだけど、おまわりさんに声をかけられちゃって」

「横山……」


 確かにお互いの存在に気づいているはずなのに、横山はわざとらしく知らんふりを決め込み、駅の売店で買った新聞を広げて顔を隠してしまった。


(俺、あいつと友だち友だち付き合いを続けても大丈夫なんだろうか)

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