第3話 死生観
「<マギノギア:クリエイトビークル/魔導機術:機動兵器作成>」
素材アイテムの残量をゴリゴリ目減りさせながら目の前に装甲車が作成されていく。
悪路を走破する大きなタイヤに鉄の装甲、無骨なデザインながら機能を充実させた車だ。
おおよそファンタジーとはかけ離れた光景だがこういう種族だから仕方ない。
「走る棺桶も懐かしいですねぇ」
「棺桶言うな」
兵器を扱う自動人形だが基本的に不人気職である、この種族を選ぶのはイブリスのような趣味で選ぶか知らずに選んで後悔するかの二つに分けられる。
理由は二つで専用スキルに金がかかるのとスキルの産物にある。
装甲車だけでなくヘリや飛行機、戦車等を作成できるがユグドラシルにおいて基本的に降りた方が強い。
たとえヘリに乗ろうが飛行機に乗ろうが必中スキルがあるユグドラシルでは的にしかならず、別スキルによる無人操作が基本的な運用だ。
利点と言えば一度作成すれば壊れるまで存在するので<フライ/飛行>を使うよりも燃費が良い事、そして魔法職以外でも乗れる事だ。
狩場への長距離移動等に重宝する為課金転移アイテムを持たない正一郎のタクシーをよくやっていた。
「す、すごいです……!!」
「そうか? というかこれだけ大きいのだとやっぱり目減りするなぁ」
「そうは言っても戦争一回はできるくらい持ってるでしょう? 最悪倉庫にある貯蔵アイテムを使えばいいですし」
インベントリに表示される素材アイテムの残数が200程減っていた、まぁ手持ちだけでも10万程はあるから尽きる事は無いだろう。
ともかく三人は装甲車に乗り込む、イブリスは当然運転席で助手席にはアンラが座った。
正一郎は後部座席で優雅に寛いでいる。
「まーとりあえずベルト閉めておいてくれ、襲われることはないだろうし」
「ベルトですか……?」
「あー、こっちがやるか」
運転席から身を乗り出してアンラに覆いかぶさる形で助手席のベルトに手を伸ばす。
「ひゃっ……あの、近い……です」
「別に何もしないさ、……っと」
助手席のシートベルトを伸ばし固定させてやり自身のベルトも閉める。
ハンドルを握ると自動的にエンジンが点き走り始める。
木々に囲まれた森だが車一台が通れる分には道が通っている、以前から使われていたのだろうか?
「それで、その町ってどの方角だっけ」
「ここから北の方角、万歩縮図では丁度真っ直ぐ辺りでしょうか?」
後部座席でこちらに見えるように広げた地図を事故を起こさないように確認する。
こうしてみると不便だ、カーナビのように表示するかシステム側で表示してくれれば楽なのに。
『マップアイテム参照、確認、所持者の認可を求めます』
「ん?」
また時刻を音声で示した時と同じ声が頭の中で響く。
「どうしました?」
「いや、頭の中で声が……なんか所持者の認可を求めるとか、なんだこれ?」
「…………多分種族設定じゃないですか? 確か自動人形はそんな基本設定があったはずですが」
そういえばそんなものがあったか。
基本設定というのはドワーフなら背が低い、獣人なら体の一部が獣っぽい、エルフなら耳が尖っている等の基礎設定だ。
無論プレイヤーがその辺りを自由に変えれるのだがそれがめんどくさい人用にこういう運営が用意した基礎設定がある。
自動人形はプログラムに自我が宿った種族で自我とは別にプログラムのような決まった反応を返すとかなんとか。
割とうろ覚えなのであまり確証はないが確かそんな感じだった筈。
「一応許可くれるか?」
「良いですよ」
『認証を確認、ワールドアイテム万歩縮図と同期します、マップを
視界の隅に突如半透明のマップが表示される、それはかつてのユグドラシルのマップシステムに似た表示だ。
「おぉ、出た出た。 便利だこれ」
「そうなんですか? ちょっとそれは羨ましいですね」
これで移動に関しては格段に楽になった。
さらに自分の位置が常時表示され移動に合わせて動く為非常にわかりやすい。
マップを眺めていると今走っている道がそのまま海上都市に繋がっている事がわかった。
「やっぱり元々あった道みたいだな、綺麗に繋がってる」
「みたいですね、ただ使ってる様子はありませんが」
走っている道は開けているとはいえ雑草が生い茂っている。
もし馬車なり徒歩なり頻繁に使われている道なら踏み固められ舗装されているはずだ。
「まぁこの先道が繋がっている場所には何もありませんしそう使う者では無いのでしょう、それかもしくは元々使っていたけれど使わなくなったものかもしれません」
「成程なぁ、アンラは何か知らないか?」
「申し訳ありません、ギルドホールから外へは出たことは無くて……」
むう、悪いが情報源としてアンラはあまり役に立たなそうだ。
そう思っていると落ち込んだ様子で俯いていた、幼い外見であって凄く罪悪感を感じる。
「イジメはよくありませんよ」
「イジメてねぇよ! 大丈夫! マスコット的立場だからいてくれるだけでいいから!」
フォローになっているのかなっていないのか、微妙な表情になるアンラ。
若干気まずい空気になりながらも一行は森の道を行く。
◇
「もうそろそろで着くな」
「あ、本当ですね! 見えてきました!」
二時間ほど走り続けた結果直線の道が続く頃、目の前には大きな城の姿が映っていた。
白い城壁に蒼い垂れ幕がかかった光景で見える限りではかなり広い。
今でこそ指先くらいの大きさだが近くまで行けばかなり大きいだろう。
「あ、全員耐ショックよーい」
「は?」
「え?」
前方から小さな欠片が弧を描いて飛んでくる、近づくにつれてその欠片だと思っていた物は大きくなり巨大な岩石が飛来する。
避けようにもこの道は直線であり左右は木々に遮られている。
アクセルを踏んで着地点から外れようとするがどうも軌道がこちらの動きに合わせて動いていた。
直前でハンドルを切って直撃を避けようと試みるが、むなしくも轟音を立てて装甲車の前部に激突する。
「おぉっとォ!!」
「やはり棺桶は伊達じゃないですね……!!」
「ひゃぁぁぁ!!」
まぁこの程度ではイブリスと正一郎にはダメージ自体入りはしないのだが、問題はアンラである。
「大丈夫かアンラ」
「は、はい、何とか……」
彼女だけはLv1なので下手したら死にかねない。
体が吹き飛ばないよう抑えたがその衝撃で締め付けられ少し苦しそうな顔をしている。
「とりあえず外に出ましょう」
「言われなくとも」
シートベルトを外し全員で外に出る、ふと空を見上げると追撃の岩石が無数にこちらに向かって飛んでいた。
「<コメットバーン/小隕石>ですね、大して強化もされていませんし」
「牽制にしては弱いな、殺す気なら<メテオバーン/大隕石>くらいからだろ?」
コメットバーンは第六位階魔法でメテオバーンは第九位階魔法だ。
後者ならともかく前者は自分達に対してダメージは通らない、メテオバーンでなんとか少し減るくらいだ。
相手の力を図る為にわざと低位の魔法を使ったのだろうか、だとしたら悪手にも程がある。
「見えますか?」
「えーと、呪15突320騎120くらいか? 見た感じ蛮族っぽいがここからじゃ正確なのはわからないな」
道の向こう、城壁のすぐ傍に多くの軍勢が見える。
人より大きな体格で肌の色が緑や赤色であることから蛮族と呼ばれる種族だとわかる。
それが槍を持った突撃兵が300弱、騎馬に乗った蛮族が100弱、マジックキャスターらしき姿が10弱確認できた。
「とりあえず<マキシマイズマジック・プロテクトウォール/魔法最強化・防護障壁>」
正一郎が瞬時に発動した防御魔法、三人を覆いこむような透明な障壁が出現し飛来する無数のコメットバーンを無力化する。
「どうします?」
「どうするも何もさ」
ゆっくりとした動作でLF4000を取り出す。
それを見た蛮族たちが声をあげ行動を開始しようとするが――
「売られた喧嘩は買わないと、世界が変わってるならもしかしたらドロップアイテムも変わってるかもしれないし」
「<ヘイストウィング/加速する羽>、たしかにそうだね」
正一郎のバフがかかり一気に駆け出す、その速度は蛮族たちには反応どころか視認すらできていなかった。
気づけばイブリスの持つ銃口が突きつけられ……。
ダダダダダダッ!!
けたましい発砲音が連続し、音と共に蛮族たちは倒れていく。
悲鳴は銃声で掻き消え鮮血が空を舞う、イブリスが纏うマントの装備がひらりと舞えば数十の蛮族が死んで行く。
そよ風に乗る花弁のように、綺麗な舞を描きながら血飛沫を散らす、しかして一滴の血たりともかからない。
「ッ――――!! <ツインマジック・スプレッドアロー/魔法二重化・拡散する光矢>」
ようやく事態に気づき対応を始める蛮族のマジックキャスター。
「オークロードか、まぁあんまり大したことないな」
「グガッ!?」
二重化したところで第五位階の魔法ではイブリスにダメージは通らない。
オークロードも数値的にはLv60程度の中堅モンスター、ゲームに慣れてきたころにぶつかる壁ではあるが。
今更この程度に阻まれる程ではない。
「四、三、一っと おーわり」
気づけばその場に立っているのはイブリスのみ。
血だまりと死肉が辺りに転がっていた。
「ありゃ、こうなると本当に現実味が増してきたな……死体って残ったままか? てか臭ぇな……」
辺りは血の匂いで一杯だ、いずれは腐臭となりえげつないことになる。
「後で燃やしておきますよ、しかしどういうことでしょうかねぇコレ、この城って蛮族の城だったりするんでしょうか?」
「それはないだろう? ユグドラシルでも蛮族の集落とかはあったがナイトメアオーガとかLv90クラスじゃないと粗末な物だった筈だ」
「となると襲撃イベントでプレイヤーが負けた場合の状態でしょうか、基本的にあのイベントは負ける事がないのでどうなるかわからないものでしたが」
NPCが存在する町にモンスターが襲撃するイベントがある、運営からの告知では負けた場合その町の店や施設が使用できなくなる。
だが報酬が美味しいのと使えなくなるデメリットがあるせいか大抵襲撃するモンスターの数十倍のプレイヤーが簡単に撃退している。
その為負けた事例が一度も無い。
「とりあえず城を調べるか、どうせボスがいるなら玉座だろうし人間がいたとしてもそこにはいるだろ」
「ですね、行きましょうアンラさん」
「は、はい、えと、その……」
正一郎が声をかけた先、アンラは血だまりを前に竦んでいた。
まぁ仕方ない事だ、荒事ができるレベルではないのだから。
イブリスはついユグドラシルと同じノリで蛮族達を殺したがよくよく考えればそれが異常な事に気づく。
ゲームにおいて「倒す」ということは何ら問題ではないし考える必要もない。
ただ今この場で行われたのは「倒す」ではなく「殺す」だ。
蘇生手段があるかどうかはさて置き命のやり取りをしているのは嫌でもわかる。
だがそれは命の危機を感じない格下である安心感とゲームと同じという誤解が合わさり殆ど感じない。
「深く考える必要はありませんよ、相手が人間ならともかくモンスター、さらに言えば私達が知っている通りであるならば人間を襲う側です、害獣を駆除するのに躊躇いますか?」
「確かにまぁ、そうだな」
正一郎にそう諭され深く考える事を辞める。
実際深く考える必要なんてないし、そもそも気にしてもいないのだ。
事態を疑問として抱いているだけ、既に殺傷という行為に抵抗なんてないのだから。
「とりあえずあれだな、中がどうなってるかわからないし……アンラはこれを持っていてくれ」
「これは…………?」
アンラに手渡しのは指輪、指輪の中央丸い銀板に九と書かれたものでこれもワールドアイテムだ。
「九条シールド、まぁ大抵の攻撃はこれでなんとかなるから」
「しかしこれは……私何かが持っていいものでは……」
「いいから、何かあった方が問題だから」
絶対的防御力を誇る九条シールド、その防御力はワールドアイテムの名に恥じない性能だ。
但しこれを装備したキャラクターは一切の攻撃が行えず、一切の魔法やスキルの発動が不可能となる。
つまり絶対的な防御ができる代わりに何もできなくなるのだ。
発見当初は騒がれたが時間が経つにつれ「これつけるより攻撃が同時にできる物のほうがよくね?」ということから人の手から手に渡り最終的にイブリスが手に入れたワールドアイテムの一つ。
攻撃を受ける時だけ付け替えればいい、という発想は何度かあったがデメリット効果として装備して外した場合10分間スキル魔法が使用不可というデメリットだけが持続した為無意味となった。
また超位魔法やワールドアイテム、ゴッズ級の最大攻撃には耐えれない為結局袋叩きに合う事からやはり使用は難しい。
「わかりました……ありがたくお預かりします」
アンラは左手の薬指に九条シールドをはめ込んだ。
まぁ、うん、深い意味はないだろう。
「さぁ行きましょうか」
「なんだか少しテンション高くない?」
「割とワクワクしてますよ、始めて二年くらいの頃を思い出します」
そういえば二年くらいした時が丁度今の適正レベルだったか、確かにあの頃は色々慣れて来たころで面白かったな。
「それに城には貴重なアイテムっていうのが定番でしょう? もし今回モンスターに襲われたという状況なら報酬として貰える可能性があるじゃないですか」
「あ、ちょっとそれは気になるかも」
「でしょう!? それにライバルがいないから気楽にできます、ギスギスしたのも悪くはないですけど気が休まりませんから」
特定の期間限定クエストなんかは攻略中プレイヤー同士が蹴落とし合うなんてことはザラだ、最終的に蹴落とし合いすぎてクリア者0なんて笑い話もあるくらいだ。
そういったクエストの場合とにかく人数を集めたりできる強豪ギルドが有利で黄金財団はクエストを辞退することもままあった。
できるだけ穏便に、かつ確実に、そして知られないように。
マイナーな町や村でアクションを起こしてこっそりクリアして回収する事が大半である。
まぁそれはそれで他プレイヤーを出し抜いた感じがして気持ちが良いのだが。
「<オープン・ザ・セサミ/開錠する胡麻>、特に防護がかかってませんしこれで開きますね」
正一郎の魔法によって城壁の門が音を立てて開く。
門の先の光景、三人が見た物は…………。
ゴールデンハント-君臨せし魔王- 鈴箱 @Suzubako
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