第五話
夕暮れの城の庭先に、紅(くれない)を警護してきたという男が
待ち受けていた。
白砂の上に座りもせず、立ったまま、奥の御簾を見つめている。
錦鯉が群れる、池に映るその姿は、鯉の錦よりも、艶やかである。
「どうじゃ、お方様は あの赤ん坊を お気にめして下されたかな」
「あの者は」
淀どのが 紅(くれない)に、問うた。
「市井で、傾奇(カブキ)者とウワサされる男、破天荒なことをやらかしては、
世間を騒がせている当世の異端児でございます。あの男が、この赤ん坊を、
お方様に、と」
「ほほう?」
侍女の止めるのも きかず、縁近くまで進み出た。護衛の侍どもが緊張して立ち上がる。
傾奇(カブキ)者の男は 長い羽織をひらめかせて、庭石をぴょんぴょんと飛んできた。
「司馬伊織と申す。いや~~、某(それがし)が騒がせ者なら、お方様も同類、いや、仲間ですな」
「なんと?」
「豊臣家の跡継ぎを偽の赤ん坊と取り替えて、その座に据える!!これほどの破天荒があろうか。お方様は女ながら 傾奇(カブキ)者の頂点におわされる」
「わらわが、傾奇(カブキ)者の同類、頂点。ホホホ、それにしても、ハデな身なりじゃな。わらわには、そこまで出来ぬが」
「なんの、度胸が座っておる。さすがは、浅井の末裔の姫じゃのう」
伊織と 淀どのの 視線がぶつかり合った。
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