第二話

 遊女たちがひしめいている、陽だまりを見回し、ふと、水桶を運んでいる女に目を止めた。

「おい、そこの女!!」

 女はドキリとして 歩みを止めた。

 遊女にしては、少し地味なぼろぼろの着物を着て、髪は百姓女のように布に包んでいる。まだ十代と思われるが、なかなかの器量よしである。

 伊織は大股でズカズカと近づいていき、

「その腹、そろそろ産み月と見たが、違うかな?」

 女は水桶を落とし、自分のお腹に手をやった。

「それが、あなた様に、何か?」

「そのせり出し方は、やはりそうか。名はなんという?」

「……」

 脅えて後ずさりする。

「まあ、いいや。どうせ、父御(ててご)は誰だか分かんないし、そのお腹の子に手こずってんだろ?」

 懐から金ぴかの反物を取り出すと、ポイと投げた。

「どうだい、その子、わしに売ってくれないか」


 紅(くれない)が走りよった。

「伊織さま。まさか、ナギサのややを大坂城に??」

「そうさ、あの、鼻っぱしらの強い茶々さまが喉から手が出るほど、元気な赤ん坊を欲しがってるんだろ、自分の地位、安泰のために。面白えじゃねえか」


「ナギサのお腹の子が男かどうか、わからないんだよ?」

「ふふん、わしが利用しようと目をつけた赤子が男の子でないはずがないじゃないか」

「大した自信だねえ。そんなことして伊織さまの何の得になるってのさ?」

「得??何の得にも ならねえさ。ちょっと、世の中をかき混ぜてみたいだけ。子の欲しい女と、産みたくもない女と。持ってこいじゃないか。わしは、お膳立てして高見の見物をしたいだけ」

 高笑いして、市中の方へ歩みだす。



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