第15話 猫として
ちょっと嬉しい仲間が増えました
ワーキャットという種族はそれだけ考えればさして重宝するキャラではない。
普通の
とにかく素早さ重視のステータス持ちである。そしてクリティカル発生率が若干高い。
先制攻撃とほどほどの回避率で重戦士や軽戦士との差別化を図った前衛キャラである。
反面体力や防御力に難があるために、この世界の元となったゲームのように前衛、中衛、後衛の3パターンの配置が選択できるシステムの場合は前衛に置きにくいという問題を抱えていたりする。
ちなみに、前衛と中衛に位置するメンバーは敵モンスターに対して直接攻撃が可能である。前衛のほうが相手からの攻撃を受けやすいという以外には差がない。
後衛に位置するものは遠距離攻撃(魔法や弓などの飛び道具)しかできない代わりに相手からの直接攻撃を受けないというメリットを持つ。
ワーキャットの能力、特徴的には、回避率に期待して前衛二枚のうちの一枚にするか、中衛に置くか悩ましい微妙なポジションだったりするのだ。
そこまでシビアなゲームバランスではないためにどっちにしろそれほど困りはしないはずなのだが。
というのは現状のワーキャットとして見た場合の話であり、大局的に考えると是非ともパーティに加えておきたい……とまでは行かなくともなかなかにして貴重なモンスターだったりする。
というのも、ワーキャットはフェアリーと同じく、進化後のモンスターの使い勝手がいいのである。
最大でゲーム内最高のレアリティ5まで進化する。ゲームクリアを考えるとそこまで進化させる必要もなく、進化素材の入手困難さから考えればレアリティ3程度のモンスターに進化させただけで充分ではあるのだが。
面倒な性格のブルースライムや、意思疎通しにくいマミーやマッドゴーレムのような仲間にしていて疲れるキャラなら話は変わってくるが。
将来的にはなかなかにして頼れるモンスターであり、コツコツ育て甲斐がある。
「まあ……、いずれこうなることはわかってたコボよ……」
「そうね。牧場に送ってもらえるだけでも感謝しないとね。
コボルトなんて幾らでも手に入るんだから、経験値玉にされても文句は言えないものね」
「気を落すにゃよ!」
「お前に言われたくないコボ!」
「じゃあ、今日は十分稼いだし、街まで戻るのは面倒だからこのままはじめの村へ行くか?」
と、俺が道具袋から
「ひ、ひとつだけお願いがあるコボ!」
「どうした?」
「あの……、グリスラ子先輩に一目会って挨拶とお礼を言っておきたいコボよ。
また会えるにしても何時になるかわからないコボし……」
「兄様?」
「まあ……、後々の事を考えたらタマのレベルアップもしといたほうがいいしな。
時間も余裕はあるし……、
もう少しモンスターを狩りながら、一回街に戻るか」
「ありがたいコボ」
「そういえば、グリスラ子さんのお洋服もそろそろ出来上がるころかもしれませんわね」
「そうなのコボ。折角作ってくれたのに受け取らないまま別れるのはグリスラ子先輩にも悪いコボと思って」
というわけで、俺達はそのまま歩いて街へと帰ることになった。
このレベル、進行具合にしては……という但し書きが付くのだが、金がたんまり手に入り、優先的にレベルアップしていったタマのレベルが一気に4にまで上がった。
低レベルのうちはほいほいとレベルが上がってくれるのである。
「グリスラ子~いるか~?」
約束通り、宿の部屋をノックする。
泥子の残りを素材に変えたために俺達はフェアリ子、タマ、コボル子の四人の最小構成となっている。
「あ、おかえりなさいぷる! 大丈夫ぷるよ!!」
「じゃあ開けるぞ」
「ちょうど出来たところぷる~」
見ると部屋のテーブルに綺麗に畳まれた服が置いてあった。
それは二着あるように見え、よく見るとフェアリ子用の小さな服がその横に置かれている。
「思ってたよりちゃんとした作りのようね」
パタパタと飛んでいったフェアリ子が自分用の小さな洋服を手に取りながらつぶやく。
「グリスラ子先輩! その手!! 傷だらけじゃないコボか!」
「えへへ、急いで作ったからちょっと失敗しちゃったぷる……。小さい傷だからすぐに治るプル」
「お兄様! とりあえず着替えてみてよろしいですか?」
「じゃああっしも……」
「わたしもついでに着替えてみようぷるかな……。
実はみんなが来る前に一回着てみちゃったんだけど……。
サイズが合ってるか確認しないといけないぷるしね」
「いいでしょうか? お兄様?」
なんだか女子で盛り上がっているのでここでノーとは言いづらい。
と、そこでグリスラ子が俺の横に立っているタマに気付いた。
「あれ? 新しい
「タマですにゃ! よろしくですにゃ!」
「ああ、新しく加わったワーキャットのタマだ。
コボル子の代わりを務めることになった」
「えっ? そ、そう……ぷるか……」
「仕方ないコボ。
あっしの力不足が理由コボから……。
せっかく服を作ってもらったのにそれを着て冒険することができなくて悲しいコボけど、大事にするコボ。餞別代りにさせてもらうコボ……」
「うん、ありがとうぷる。そう言ってくれると嬉しいぷる。
タマちゃんの分のお洋服はまだないけど、また時間があるときに作ってあげるぷるね」
「にゃっ!? タマはどっちでもいいにゃ。
服がないほうが動きやすいにゃ」
「まあついでがあればということでいいだろうな。
それよりも着替えるんならさっさと着替えてくれ」
俺はそう言い残して部屋を出た。
部屋からはわいわいキャーキャーという声が響き渡り、しばしばコボル子とタマが言い争っている。
「お待たせぷる」
そっと扉が開き、グリスラ子が顔をのぞかせた。
中に入ると……。
まったく着替えていない代り映えのしないタマ。
水色のワンピース姿のフェアリ子。これもあまり変わり映えしない。
毛皮のビキニだったコボル子は紺のジャケット風の上着と半ズボン姿になっていた。おちついたデザインである。
そして元々は裸体に緑の粘液を纏わせただけだったグリスラ子が、白い襟付きシャツにサスペンダー付の赤い吊りスカートという格好に変わっていた。
「どう? 似合うぷる?」
「似合うコボか?」
「似合いますでしょうか?」
「お、おう……。さ、三人とも見違えた……ような……うん、悪くはない。いや可愛いというべきか……」
はっきり言うと微妙だった。
フェアリ子は言われなければ着替えたと気づかないレベルだったし。
コボル子はなんかおこちゃまが結婚式に参加するときの恰好だし、グリスラ子に至っては黄色い帽子をかぶって赤いランドセルを背負えばまんま日曜の夕方にやっている(魚とか磯とか関係ない方の)アニメの主人公の小学生のようである。
「かわいいにゃ?」
「ああ、かわいい、かわいい」
「じゃあ、タマも今度グリスラ子にお願いするにゃ!」
「ちぃっ」
小さく舌打ちをしたコボル子に、
「じゃあ、思い残すことはないな。
いくぞ、コボル子」
と声をかけ、はじめの村に転移して、牧場にコボル子を預け、街に帰ってきた。
三人(フェアリ子とグリスラ子とタマ)には夕方には戻ってくるからお前達もそれまでは自由にしててよいと少し小遣いを渡してやっている。
その間に俺は粛々とイベントクリアのための用意を整える算段なのである。
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